第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

トリアージ

[O3] 一般演題3

[O3-15] トリアージ看護ケアモデルの開発に関する研究 第1報 -緊急度判断に至る思考とプロセスの分析-

○西塔 依久美1、大川 宣容2、菅原 美樹3、中村 惠子4 (1. 東京医科大学医学部看護学科、2. 高知県立大学看護学部、3. 札幌市立大学看護学部、4. 札幌市立大学大学院)

Keywords:トリアージ、救急外来、緊急度判断、思考過程

【はじめに】わが国の救急外来トリアージシステムとして、緊急度判定支援システム(以下、JTAS)が標準化されたツールの一つとして普及している。JTASには緊急度判断に至るプロセスは明記されているものの、トリアージナースがどのような思考で緊急度判断を行い、トリアージの限られた場面でどのような看護ケアを提供するのかについては明らかになっていない。

【目的】わが国のトリアージナースが緊急度判断に至る思考やプロセスを明らかにすることである。

【方法】調査期間:2018年7月~2019年3月。 調査対象:全国の救急告示医療機関で年間12000人以上を診療し、かつ、JTASを使用し、各病院のホームページ上に「院内トリアージ実施料」の掲載がある病院に勤務するトリアージナースで、救急外来経験が3年以上の看護師 6名。調査方法:受動的参与観察によるフィールド調査。分析方法:JTASのトリアージプロセスをベースとし、参与観察法で得たデータをプロセスの中に追加していきながら、トリアージナースの思考と緊急度判断のプロセスを模式化した。倫理的配慮:研究代表者が所属する大学の医学倫理審査委員会の承認を得て実施した。(承認番号:NS2909)

【結果】調査施設のトリアージ体制は、まず最初に受付事務が聞いた患者の主訴がトリアージナースに情報提供され、その後にトリアージナースが患者と接触していた。トリアージのプロセスとして、緊急度に大きく影響する生理学的評価を第一印象として評価し、ひとまずの緊急性を考えたのち、問診や身体診察、詳細なバイタルサインの測定によりその結果を総合的に判断していることが分かった。また、緊急度判断の思考は、患者から得た情報(表情・主訴・言動・身体所見)をもとに、常に致死的な病態の可能性を肯定する、あるいは否定する作業が繰り返されていた。また、緊急度判断の思考の基盤として、疫学的な情報や疾患特有の症状や所見といった知識だけでなく、看護師自身の経験から見出されたものがあった。

【考察】上記の結果から、わが国で提供されるトリアージ体制ではJTASのトリアージプロセスの「第一印象」の前に受付事務員などによる情報提供があり、その事前情報から仮の緊急度判断を行うプロセスが入っていることが明らかとなった。また、緊急度判断はJTASのプロセスのように最後に行うのではなく、トリアージプロセスの各場面で緊急度に影響する情報が入るたびに緊急度判断を行っていることが分かった。緊急度判断の思考は、対象者の症候から病態を想起する仮設演繹法やパターン認識を中心とした臨床推論が用いられていた。トリアージナースが緊急度判断に至る思考は、座学で習得した単なる知識だけで成り立つのではなく、トリアージの経験から学習し、緊急度判断の思考が醸成されていくことが明らかとなった。

本研究はJSPS科研費16K12038 の助成を受けた研究の一部である。