第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

看護教育

[O9] 一般演題9

[O9-25] 救急看護学分野の倫理に関する研究の動向と課題

○新井 龍1、新井 直子2、作田 裕美3 (1. 湘南鎌倉医療大学、2. 帝京大学、3. 大阪市立大学)

Keywords:倫理、救急看護

【研究目的】

救急看護は、様々な場面で急激な状態変化を生じている対象者への関わりが必要となる。救急看護の対象者は、意識がなく自己にて意思決定ができないことが多く、その家族もまた、突然の事態に戸惑うなかで、様々な意思決定を迫られる。そのような救急の場面では、倫理的な課題も多くあり、看護師は常に中立的な立場をとりつつ、対象者やその家族の意思決定を支援する役割や、アドボケイターとしての役割を担う。2017年の救急看護に携わる看護師への教育内容に関する研究では、技術の習得や向上に関する研究が多く、多職種協動に必要となる調整能力や家族への対応、倫理的問題の教育介入に関する研究はごく少数であったと報告されてものの、救急看護学分野における倫理に関する研究に焦点を当て、動向を把握した報告はなされていない。
 よって、本研究では、我が国で報告された救急看護の倫理に関する研究の動向を明らかにし、今後の救急看護学分野の倫理に関する研究課題の示唆を得る。

【研究方法】
 医学中央雑誌Web版ver.5を用い、キーワード「救急・看護・倫理」、「救命・看護・倫理」かつ原著論文を対象とした。除外基準として、研究対象者が海外の文献、研究目的・結果・考察に倫理とは関係がない文献は除外した。得られた文献の年次推移と研究方法の特徴を明らかにするとともに、研究対象、目的に対して質的内容分析を行い、研究の動向を明らかにした。

【倫理的配慮】
 本研究は公開されている情報を対象にしており個人情報は取り扱っていないが、研究の進行は研究職に従事している研究者と相談しながらヘルシンキ宣言に則り進めた。

【結果】
 キーワードにより63文献が得られた。年次推移をみると、2001年に初めて報告され、2008年以降は毎年2~10件が報告されていた。2013年以降は増加傾向にあった。63件の文献は、「救急場面で求められる看護師の倫理的役割・遂行能力」「看護師が感じる倫理的課題」「専門看護師に求められる能力」「現任教育における倫理教育の評価、項目の検討」「患者が感じる倫理的課題」「家族が感じる倫理的課題」「尺度開発」「事例検討」「文献検討」「看護学生の倫理教育の検討」の10カテゴリーに整理することができた。また、63の文献は、病棟単位や小集団の症例や看護師を対象とした横断的調査であり、多施設への大規模調査は6件、縦断的調査はなされていなかった。

【考察】
 救急看護学分野の倫理に関する研究は、2001年より蓄積されており、事例検討を行うとともに、患者・家族・看護師が感じ取る倫理的課題を抽出し、その問題点や課題を明らかにしてきた。抽出された課題に対し、倫理研修や講習会の評価や、現任教育と基礎教育の考察がなされたことにより、看護師や専門看護師に求められる具体的な倫理的役割や遂行能力の明確化や尺度開発が報告されるに至っている。これらから、救急看護学分野の倫理に関する研究は、症例集積研究が多数を占めている段階であり、今後、ランダム比較研究やコホート研究など、高いエビデンスレベルを生み出す研究や、大規模調査の実施が期待される。