16:35 〜 16:55
[Awardees] 2021年度日本鉱物科学会研究奨励賞第31回受賞者 纐纈 佑衣 会員 (名古屋大学)
受賞研究対象:「ラマン分光学・赤外分光学に関する基礎的研究と地質学全般への適用」
授賞理由:
纐纈佑衣会員は,ラマン分光学と赤外分光学に関する基礎的研究と,その成果の岩石学を始めとする地質学分野全般への適用に関する研究の両面において,多くの重要な成果を挙げてきた。
ラマン分光学分野における特筆すべき成果として,従来は定性的な圧力比較に用いられてきたラマン石英圧力指標に対し,圧力目盛の導入に成功したことが挙げられる。この研究は,現在でも多くの研究者によって精密化が進められている「ラマン地質圧力計」研究の先駆けとなるものである。また,炭質物のラマンピークの半値幅をパラメータとして,400 ℃以下の低度変成岩に適用可能なラマン地質温度計を提唱した。その結果,340 ℃以上に適用可能な既存の地質温度計と組み合わせることで,同手法による広い変成度域の温度見積もりが可能となった。同会員は,これらの地質温度圧力計を四国中央部三波川変成帯に適用するとともに,その結果をザクロ石中に包有される鉱物の詳細な記載と組み合わせることにより(1)同地域において,エクロジャイト/非エクロジャイト両ユニットの境界を決定し,従来想定されていたよりも広範囲の地域がエクロジャイト相条件下で再結晶していたこと,および(2)同地域のより精密な広域的温度構造を明らかにした。これらの成果は,沈み込み変成帯の形成から上昇過程を理解するうえで極めて重要である。
赤外分光学分野においては,近年沈み込み帯で起こる諸現象に大きな役割を果たすと考えられるようになった蛇紋石族鉱物について,指導院生との共同研究により,全反射赤外分光法の適用に成功し,化学組成とO-H振動バンドとの関係を論じた。この成果により,従来よりもはるかに簡便な前処理により赤外分光データを得られるようになり,岩石学分野における同分光法活用の新たな出発点となった。
このように纐纈会員は基礎的研究およびその応用面に関する多くの研究成果を挙げており,今後さらに多方面にわたる研究への貢献が期待される。以上の理由から,纐纈佑衣会員は日本鉱物科学会研究奨励賞受賞者として相応しいと考え,ここに推薦する。
纐纈 佑衣会員の主要論文
1. Kouketsu, Y., Mizukami, T., Mori, H., Endo, S., Aoya, M., Hara, H., Nakamura, D. & Wallis, S. (2014). A new approach to develop the Raman carbonaceous material geothermometer for low-grade metamorphism using peak width. Island Arc, 23, 33–50.
2. Kouketsu, Y., Nishiyama, T., Ikeda, T., & Enami, M. (2014). Evaluation of residual pressure in an inclusion–host system using negative frequency shift of quartz Raman spectra. American Mineralogist, 99(2-3), 433–442.
3. Sakaguchi, I., Kouketsu, Y., Michibayashi, K., & Wallis, S. R. (2020). Attenuated total reflection infrared (ATR–IR) spectroscopy of antigorite, chrysotile, and lizardite. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 115(4), 303–312.
纐纈佑衣会員は,ラマン分光学と赤外分光学に関する基礎的研究と,その成果の岩石学を始めとする地質学分野全般への適用に関する研究の両面において,多くの重要な成果を挙げてきた。
ラマン分光学分野における特筆すべき成果として,従来は定性的な圧力比較に用いられてきたラマン石英圧力指標に対し,圧力目盛の導入に成功したことが挙げられる。この研究は,現在でも多くの研究者によって精密化が進められている「ラマン地質圧力計」研究の先駆けとなるものである。また,炭質物のラマンピークの半値幅をパラメータとして,400 ℃以下の低度変成岩に適用可能なラマン地質温度計を提唱した。その結果,340 ℃以上に適用可能な既存の地質温度計と組み合わせることで,同手法による広い変成度域の温度見積もりが可能となった。同会員は,これらの地質温度圧力計を四国中央部三波川変成帯に適用するとともに,その結果をザクロ石中に包有される鉱物の詳細な記載と組み合わせることにより(1)同地域において,エクロジャイト/非エクロジャイト両ユニットの境界を決定し,従来想定されていたよりも広範囲の地域がエクロジャイト相条件下で再結晶していたこと,および(2)同地域のより精密な広域的温度構造を明らかにした。これらの成果は,沈み込み変成帯の形成から上昇過程を理解するうえで極めて重要である。
赤外分光学分野においては,近年沈み込み帯で起こる諸現象に大きな役割を果たすと考えられるようになった蛇紋石族鉱物について,指導院生との共同研究により,全反射赤外分光法の適用に成功し,化学組成とO-H振動バンドとの関係を論じた。この成果により,従来よりもはるかに簡便な前処理により赤外分光データを得られるようになり,岩石学分野における同分光法活用の新たな出発点となった。
このように纐纈会員は基礎的研究およびその応用面に関する多くの研究成果を挙げており,今後さらに多方面にわたる研究への貢献が期待される。以上の理由から,纐纈佑衣会員は日本鉱物科学会研究奨励賞受賞者として相応しいと考え,ここに推薦する。
纐纈 佑衣会員の主要論文
1. Kouketsu, Y., Mizukami, T., Mori, H., Endo, S., Aoya, M., Hara, H., Nakamura, D. & Wallis, S. (2014). A new approach to develop the Raman carbonaceous material geothermometer for low-grade metamorphism using peak width. Island Arc, 23, 33–50.
2. Kouketsu, Y., Nishiyama, T., Ikeda, T., & Enami, M. (2014). Evaluation of residual pressure in an inclusion–host system using negative frequency shift of quartz Raman spectra. American Mineralogist, 99(2-3), 433–442.
3. Sakaguchi, I., Kouketsu, Y., Michibayashi, K., & Wallis, S. R. (2020). Attenuated total reflection infrared (ATR–IR) spectroscopy of antigorite, chrysotile, and lizardite. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 115(4), 303–312.