2023 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R1: Characterization and description of minerals (Joint Session with The Gemmological Society of Japan)

Thu. Sep 14, 2023 1:30 PM - 4:30 PM 820 (Sugimoto Campus)

Chairperson:Hiroshi Kitawaki, Masanori Kurosawa, Yasuyuki Banno

4:00 PM - 4:15 PM

[R1-10] Occurrence and genesis of zeolites in gastropod fossils in Miocene sediments in Minamisoma, Fukushima, Japan.

[Presentation award entry]

*Atsushi Ishihara1, Hiroaki Ohfuji1 (1. Tohoku Univ. Sci.)

Keywords:Zeolite, Heulandite, Mineralization, fossil

▪はじめに
 材化石や貝化石などの化石化した生体組織を鉱物が交代・置換したり、内部に鉱物が晶出したりする例はよく知られている。このような化石の鉱化は石英やオパールなどのシリカによるものが一般的で他にも方解石や黄鉄鉱などの例もあるが、沸石で交代されている例は稀である。その数少ない例として、Modreski et al. (1982)は材化石の組織内部を沸石が充填した産状を記載し、その起源が火山砕屑物を多量に含む母層のDenver Formation全体の変質(沸石化)にあることを論じている。また、Staple(1965)は沸石によって内部を充填された貝化石を報告し、沸石は貝化石を含む母層周辺での熱水活動にともなって形成されたと推測している。これらのケースでは、いずれも化石を含む地層の周囲で大規模な沸石生成が起こっており、化石内部での沸石形成もそれに付随するものと解釈できる。一方、今回報告する福島県南相馬市に分布する中新世堆積物中のケースでは、沸石の生成は巻貝化石の内部で特に顕著で、母岩中での沸石化は比較的小規模であった。本研究ではこの巻貝化石中に特徴的に産する沸石の起源と形成プロセスについて検討を行った。

▪手法
 南相馬市鹿島区橲原の沢沿いの塩手層の露頭より、化石を含む細粒砂岩試料および遊離した巻貝化石試料を採取した。試料を風乾後、エポキシ樹脂中に包埋し機械研磨により薄片および厚片を作成した。また、一部試料についてはArイオンビーム(JEOL,クロスセクションポリッシャ)を用いてイオン研磨断面を作成した。試料の観察には偏光顕微鏡およびSEM-EDS、顕微ラマン分光分析を使用した。岩石及び化石中の構成鉱物を粉末X線回折によって同定した。
 さらに、SEM-EDSを用いた局所分析により輝沸石の組成変化を調べた。この際、電子線ビームの照射による試料ダメージを軽減するために、結晶の伸張方向に沿うような矩形の領域にラスタースキャンを行ない、データを収集した。それらのスキャンデータからOxford Instruments 社製EDS解析ソフトAZtecを用いてスペクトルの切り出し(再構築)を行い、それらのスペクトルのピーク強度から化学定量計算を行った。

▪結果・考察
 観察の結果、巻貝化石は細粒砂岩中のものと炭酸塩コンクリーション中のものの2タイプに大分された。砂岩中では、巻貝化石内部では殻入り口付近(下層階)は多量の砕屑物で充填され、上層階では貝殻の壁面から内側に向かってに成長した輝沸石の板状結晶(~300㎛)が観察された。貝殻内部の輝沸石は結晶の基底部から先端にかけてSi/Al比が低下しており、生成時の環境変化を示している可能性がある。また、巻貝化石の下層階(入口近く)を充填する砕屑物粒子の粒間や化石を含む母岩の砂岩中の基質部において、細粒のモンモリロナイトと沸石(~10㎛)が空隙を充填するように生成している様子が観察された。
 一方、炭酸塩コンクリ―ション中の巻貝化石の内部にも自形の輝沸石とモルデン沸石が観察されたが、全体として生成量は小規模であった。さらに、それらの沸石を覆うよう数mmサイズの大きな方解石の自形結晶も観察された。  
 以上のような産状から、本研究地域に産する巻貝化石内部における沸石の形成プロセスは以下の様に進行したと考えられる。
1)火山砕屑物と巻貝化石を含む地層の埋没
2)埋没深度増加に伴う温度上昇による微化石や火山砕屑物粒子の溶解(沸石や粘土鉱物の材料となる元素が間隙流体中へ溶出)
3)巻貝化石内部に滞留した高過飽和溶液からの沸石の晶出
 つまり、巻貝化石内部において沸石が優先的に形成されたのは、続成過程において貝殻内に高過飽和流体が長期間保持されていたためと推測される。火山砕屑物の溶解反応(Zhi and Ying,1993)では元素ごとの溶解速度の違いによって流体組成に経時変化が生じ得ることが知られており、化石内部と母岩の基質部で間隙流体の組成にギャップが生じていた可能性が高い。結果として、貝化石内部では比較的Siに富んだ沸石の形成が促進され、基質部では沸石に加えて相対的にSiに乏しい粘土鉱物も生成されたと考えられる。
R1-10