一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

ポスター

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R1P-02] エジリンーオージャイトのM1席を占めるFe3+のメスバウアー四極子ダブレットの強度テンソル

*篠田 圭司1、小林 康浩2 (1. 大公大・院理、2. 京大・複合研)

キーワード:エジリンーオージャイト、メスバウアー分光法、強度テンソル

輝石は典型的な多席固溶体で、結晶構造中にはM1席とM2席があることが知られている。Caを含む単斜輝石((Ca, Mg, Fe)SiO3)ではM1席は正八面体に近い6配位席で、M2席はM1席より大きく歪んだ八配位席である。一般的にMgはM1席を、CaはM2席を占め、Fe2+は両席を占めるとされている。Fe3+M1席を占める。メスバウアースペクトルにおいて、輝石中の鉄イオンは四極子分裂によるダブレットピークを示す。M1席を占めるFe2+の四極子分裂はM2席を占めるFe2+の四極子分裂よりわずかに大きい。M1席とM2席にFe2+が分布する輝石では、四極子分裂のわずかに異なるダブレットが重なることになる。四極子分裂ダブレットピークは、アイソマーシフト、四極子分裂幅、半値幅、ピーク強度の4つのパラメーターで特徴づけられる。4つのパラメーターのうちピーク強度は、Zimmermann (1975)のreduced intensityの定義に従って、ダブレットピークの全強度に対する高エネルギー側のピーク強度の割合とする。粉末試料のメスバウアースペクトルではダブレットピークのピーク強度は0.5、つまり2本のピークの高さは等しいとみなせる。一方、薄片などの輝石単結晶試料のメスバウアースペクトルでは、2本のピークの高さは等しいとは限らず、ピーク強度はガンマ線入射方向に対する結晶方向によって変化する。顕微メスバウアー分光法には、従来の粉末試料を用いたメスバウアー分光法に比べ薄片試料の局所分析が可能になるという利点がある一方で、ピーク分離の際ダブレットピークのパラメータが1つ増え、輝石のM1席M2席のFe2+ダブレットが重なっている場合、ピーク分離解が収束しないという問題が発生する。輝石単結晶薄片のメスバウアースペクトルを解析する際には、測定の輝石単結晶薄片のM席毎のダブレットピークのピーク強度は非常に重要なパラメーターとなる。
 Zimmermann (1975)は単結晶試料に対するメスバウアーダブレットピークのピーク強度の計算方法を以下のように提案した。結晶中に直交軸を設定し、その直交軸系に対してガンマ線の入射方向を方向余弦で表すと、ピーク強度と方向余弦はテンソル(3行3列の行列)を介して一定の関係にある。Tennant et al. (2000)はZimmermannの方法を用いてMg-hedenbergiteのM1席を占めるFe2+の強度テンソルを求めた。Fukuyama et al. (2022)は、diopside, augite, hedenbergiteを用いてM1席を占めるFe2+の強度テンソルを求め、Tennant et al. (2000)の結果を合わせて強度テンソル各成分の固溶成分依存性を検討した。その結果、Caに富む輝石の場合、M1席を占めるFe2+の強度テンソル成分はFs成分依存性は弱い一方で、Wo成分依存性が強いと考えられることを報告した。しかし、この系以外での輝石の強度テンソルの固溶成分依存性は求められていない。Shinoda and Kobayashi (2019)はaegirineの定方位薄片を用いてaegirineのM1席を占めるFe3+の強度テンソルを求めた。本発表では、Ca含有のaegirine-augiteでM1席を占めるFe3+のメスバウアーダブレットの強度テンソルを求め、Ca固溶成分依存性を検討したので報告する。パキスタン産のaegirine-augite単結晶の結晶方位を、背面バックラウエカメラX線回折を用いて特定しabc軸に垂直な薄片を作成した。それぞれの方向の薄片についてプリセッションカメラを用いて結晶方位を定め、メスバウアースペクトルを測定した。6方向のメスバウアースペクトルから求めた強度テンソルは、aegirineのM1席のFe3+の強度テンソル(Shinoda and Kobayashi (2019))とaugiteのM1席のFe3+の強度テンソル(Fukuyama et al. (2022))と近い値を示した。年会の発表では9方向の単結晶のメスバウアースペクトルをまとめた結果を報告する予定である。