一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

ポスター

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R1P-04] EPMAによる斜長石中のSr濃度定量分析手法の提案

*岩橋 くるみ1、安田 敦2、西原 歩1 (1. 産総研、2. 地震研)

キーワード:EPMA、ストロンチウム、斜長石、定量分析

本発表では,電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いた斜長石中のストロンチウム(Sr)の非破壊定量分析手法を提案する.  
 これまで,斜長石中のSr濃度分析は,主にレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)やnano-SIMS等により実施されてきた.しかし,これらの手法は破壊分析であり,多くの場合,分析に使用しうるビーム径は比較的大きい(~20 µm). そこで,非破壊であり,ビーム径をより絞ることができ,かつ簡便な分析が可能なEPMAによる分析がこれまでに提案されてきた(e.g., 氏家, 2001). 本研究では,先行研究の手法を改良・発展させ,より狭いビーム径における非破壊かつ簡便な斜長石中のSr濃度の定量分析を可能にする方法を確立した.
 EPMAによる斜長石中のストロンチウム(Sr)含有量の分析に当たって,本研究では,検量線法を用いた.分析条件は,十分なカウント数が得られる条件である30kV,50nA,ビーム径10μmとした.分析に使用する検量線作成に際しては,Sr濃度が知られている2つの標準試料と、濃度が均質であることが先行研究(e.g., Kimura et al., 2013)により知られている 天然の斜長石の3個の標準試料を使用した.
 次に,得られた検量線を使った分析における分析精度の検討を実施した.この検討は,三宅島アノーサイトを用いて行った.三宅島アノーサイトは,先行研究によって均質であることが確かめられている (Arakawa et al., 1992; Kimura et al., 2013; Seino et al., 2021).そこで,まず二つの三宅島アノーサイトについてLA-ICP-MSによる分析を行い,EPMA分析結果と比較するための基準となる値を得た.その結果,三宅島アノーサイトのSr含有量は0.034wt.%であった. この値を参考値として,EPMA分析結果と比較した.その結果,EPMAによる分析結果とLA-ICP-MSによる分析結果の差は0.0044 wt.%以下であった.この結果は,EPMA分析が信頼性の高い定量値を得られることを裏付けている.
 最後に,雲仙火山1663年噴火の斜長石に対して,我々の手法を適用した。この分析では、累帯構造を有する斜長石のリム部分からコア部分にかけて、ビーム径10µm, 分析点間の距離10µmで分析を実施し、9点の分析点を得ることができた。得られた濃度範囲は、SrO濃度 0.065–0.0725 wt.%であった。また、本研究では、EPMAによるSr濃度定量分析の分析誤差は、0.0018 wt.% と見積もられた。このプロファイルからは、例えば共存メルトの組成と温度の変化を推定したり、拡散計算を実施することが可能である.本手法は、将来的に斜長石中のSrを利用した様々な取り組み,例えば,マグマ供給系の組成の変遷やマグマ溜りでのマグマ蓄積のタイムスケールなどの解明に広く貢献できる.