12:00 〜 14:00
[R1P-07] 栃木県足尾鉱山産Claraite
キーワード:クララ石、足尾鉱山
はじめに
栃木県足尾鉱山小滝坑露頭から産した試料を調査したところ、本邦初産となるClaraiteと一致するデータが得られた。 Claraiteは現在知られている鉱物の中で唯一の、砒酸基、硫酸基、炭酸基を持つ世界的にも珍しい鉱物である。足尾産Claraiteについて、その産状と観測されたデータについて紹介する。
Claraiteについて
Claraiteは、原産地であるドイツの黒い森にあるClara鉱山に因んで命名された鉱物で、当初、三斜晶系(擬六方晶系として指数付けは行われている)で、(Cu,Zn)3CO3(OH)4・4H2Oの理想化学式を持つと報告された(Walenta and Dunn 1982)。この時点では、単結晶X線回折のデータはなく、粉末X線回折の結果のみが報告されている。その後、三斜晶系に基づいた格子定数と指数付けが行われた(Walenta 1999)ほか、化学組成にAsやSを含む点が指摘されてきた。 現在ではBiagioni and Orlandi (2017)によって、結晶構造が明らかにされるとともに、理想式が(Cu,Zn)15(AsO4)2(CO3)4(SO4)(OH)14·7H2Oと再定義された。
足尾鉱山の鉱脈露頭について
Claraiteは栃木県日光市足尾町にある備前楯山西側の露頭から産出した。この産出地点は、沼尾ほか(2005)によって、フィリップスボーン石、ミメット鉱や葉銅鉱といった砒酸塩鉱物、ブロシャン銅鉱、青鉛鉱といった硫酸塩鉱物、炭酸青針銅鉱、孔雀石といった炭酸塩鉱物の産出が報告された地点と同一である。沼尾ほか(2005)によると、現地には閃亜鉛鉱や黄銅鉱、方鉛鉱等の各種金属鉱物を含む石英脈と、それらが風化して生じた二次鉱物が、露頭やそれ由来の転石で観察されたが、露頭の崩落により鉱脈露頭部は埋もれたとある。
調査した試料について
調査した試料は、2005年ごろに同地から産し、筆者の1人の丹羽が譲り受け、入手したものである。母岩となる流紋岩に鉱脈の風化で生じた褐鉄鉱が付着し、その隙間に種々の二次鉱物を生じている。Claraiteはその1つとして産し、ターコイズブルーをした球形の集合体で、顕微鏡で観察すると薄板状の結晶集合体であり、破面では完全な劈開が確認できる。同様の産状で、葉銅鉱、ブロシャン銅鉱や孔雀石等が産出する。
ラマン分光分析について
名古屋大学の Nicolet Almega XR(Thermo Scientific 社製)により、Nd-YAG レーザー(λ=532 nm)を用いて測定。共焦点顕微鏡 (Olympus BX51) 、10倍対物レンズ(NA = 0.25)使用した。 Biagioni and Orlandi (2017)は、砒酸基、硫酸基、炭酸基に起因するスペクトルが記録されている200〜1,200の範囲と、水酸基、結晶水に起因するスペクトルが記録されている3,000〜4,000の範囲における、ホロタイプ標本と分析に用いられたcarrara産の標本のラマンスペクトルを報告しており、足尾産のClaraiteから得られたスペクトルは、それとよく一致している。このことから、砒酸基、硫酸基、炭酸基のいずれもが存在することが裏付けられる。
化学組成について
EDSにより定量分析を試みたが、極めて微細な結晶の集合であるため、十分な研磨ができず、完全なデータは得られなかった。しかし、検出された元素は、Cu, Zn, As, Sで、Claraiteの主要元素が過不足なく検出されている。
X線回折について
微小部XRDにより測定したため、低角側のデータは無い。Claraiteの最強線は底角側にあり、観測できなかったのは残念だが、観測できた範囲では、よく一致している。観測された値で計算した格子定数は、a = 10.34853Å, b = 12.81070Å, c = 14.74675Å, α = 113.102°, β = 90.793°, γ = 89.760°, V = 1798.051ųで、Biagioni and Orlandi (2017)による値 a = 10.3343(6) Å , b = 12.8212(7) Å , c = 14.7889(9) Å , α = 113.196(4)°, β = 90.811(4)°, γ = 89.818(4)°, V = 1800.9(2) ųとよく一致している。
まとめ
化学組成、X線回折のいずれのデータにも、まだ改善の余地が残されているが、現状で得られているデータはClaraiteであることを支持している。 産出した露頭が埋没しているため、追加調査は困難な状況であるが、追加試料の入手をして、より精度の高いデータ取得を目指したい。
栃木県足尾鉱山小滝坑露頭から産した試料を調査したところ、本邦初産となるClaraiteと一致するデータが得られた。 Claraiteは現在知られている鉱物の中で唯一の、砒酸基、硫酸基、炭酸基を持つ世界的にも珍しい鉱物である。足尾産Claraiteについて、その産状と観測されたデータについて紹介する。
Claraiteについて
Claraiteは、原産地であるドイツの黒い森にあるClara鉱山に因んで命名された鉱物で、当初、三斜晶系(擬六方晶系として指数付けは行われている)で、(Cu,Zn)3CO3(OH)4・4H2Oの理想化学式を持つと報告された(Walenta and Dunn 1982)。この時点では、単結晶X線回折のデータはなく、粉末X線回折の結果のみが報告されている。その後、三斜晶系に基づいた格子定数と指数付けが行われた(Walenta 1999)ほか、化学組成にAsやSを含む点が指摘されてきた。 現在ではBiagioni and Orlandi (2017)によって、結晶構造が明らかにされるとともに、理想式が(Cu,Zn)15(AsO4)2(CO3)4(SO4)(OH)14·7H2Oと再定義された。
足尾鉱山の鉱脈露頭について
Claraiteは栃木県日光市足尾町にある備前楯山西側の露頭から産出した。この産出地点は、沼尾ほか(2005)によって、フィリップスボーン石、ミメット鉱や葉銅鉱といった砒酸塩鉱物、ブロシャン銅鉱、青鉛鉱といった硫酸塩鉱物、炭酸青針銅鉱、孔雀石といった炭酸塩鉱物の産出が報告された地点と同一である。沼尾ほか(2005)によると、現地には閃亜鉛鉱や黄銅鉱、方鉛鉱等の各種金属鉱物を含む石英脈と、それらが風化して生じた二次鉱物が、露頭やそれ由来の転石で観察されたが、露頭の崩落により鉱脈露頭部は埋もれたとある。
調査した試料について
調査した試料は、2005年ごろに同地から産し、筆者の1人の丹羽が譲り受け、入手したものである。母岩となる流紋岩に鉱脈の風化で生じた褐鉄鉱が付着し、その隙間に種々の二次鉱物を生じている。Claraiteはその1つとして産し、ターコイズブルーをした球形の集合体で、顕微鏡で観察すると薄板状の結晶集合体であり、破面では完全な劈開が確認できる。同様の産状で、葉銅鉱、ブロシャン銅鉱や孔雀石等が産出する。
ラマン分光分析について
名古屋大学の Nicolet Almega XR(Thermo Scientific 社製)により、Nd-YAG レーザー(λ=532 nm)を用いて測定。共焦点顕微鏡 (Olympus BX51) 、10倍対物レンズ(NA = 0.25)使用した。 Biagioni and Orlandi (2017)は、砒酸基、硫酸基、炭酸基に起因するスペクトルが記録されている200〜1,200の範囲と、水酸基、結晶水に起因するスペクトルが記録されている3,000〜4,000の範囲における、ホロタイプ標本と分析に用いられたcarrara産の標本のラマンスペクトルを報告しており、足尾産のClaraiteから得られたスペクトルは、それとよく一致している。このことから、砒酸基、硫酸基、炭酸基のいずれもが存在することが裏付けられる。
化学組成について
EDSにより定量分析を試みたが、極めて微細な結晶の集合であるため、十分な研磨ができず、完全なデータは得られなかった。しかし、検出された元素は、Cu, Zn, As, Sで、Claraiteの主要元素が過不足なく検出されている。
X線回折について
微小部XRDにより測定したため、低角側のデータは無い。Claraiteの最強線は底角側にあり、観測できなかったのは残念だが、観測できた範囲では、よく一致している。観測された値で計算した格子定数は、a = 10.34853Å, b = 12.81070Å, c = 14.74675Å, α = 113.102°, β = 90.793°, γ = 89.760°, V = 1798.051ųで、Biagioni and Orlandi (2017)による値 a = 10.3343(6) Å , b = 12.8212(7) Å , c = 14.7889(9) Å , α = 113.196(4)°, β = 90.811(4)°, γ = 89.818(4)°, V = 1800.9(2) ųとよく一致している。
まとめ
化学組成、X線回折のいずれのデータにも、まだ改善の余地が残されているが、現状で得られているデータはClaraiteであることを支持している。 産出した露頭が埋没しているため、追加調査は困難な状況であるが、追加試料の入手をして、より精度の高いデータ取得を目指したい。