一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

ポスター

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R1P-09] 広島県能美島の花崗岩ペグマタイト産プロト鉄直閃石

*大西 政之1、下林 典正2、浜根 大輔3、篠田 圭司4、延寿 里美5 (1. 無所属、2. 京大・院理、3. 東大・物性研、4. 阪公大・院理、5. 愛媛大・院理工)

キーワード:プロト鉄直閃石、角閃石、花崗岩ペグマタイト、能美島、江田島

1. はじめに
 プロト鉄直閃石はSueno et al. (1998, 2002)[1][2]によって岐阜県中津川市 (旧蛭川村) および米国コロラドのCheyenneの花崗岩ペグマタイトから記載された直方晶系でプロト型 (空間群Pnmn) のマグネシウム-鉄-マンガン角閃石の一種で,最新の角閃石スーパーグループの命名規約[3]による端成分組成は,□Fe2+2Fe2+5Si8O22(OH)2である.本鉱物の産出報告は少なく,原記載以外では香川県小豆島小浜,愛媛県鉢巻山および立岩のペグマタイトからの記載があるものの,鉱物学的性質は示されていない[4].今回,広島県能美島南東部 (江田島市大柿町大君) の花崗岩ペグマタイトからプロト鉄直閃石を見出したので,その産状および鉱物学的性質を報告する.

2. 産状
 本地域には,呉花崗岩と呼ばれる白亜紀後期の中~粗粒黒雲母花崗岩が分布している[5].この中にはしばしば脈状・塊状のペグマタイトが発達しており,花崗岩側からアプライト帯-文象帯-巨晶帯-石英帯の帯状構造が認められる.プロト鉄直閃石は,このうちの巨晶帯 (10 cm以上に達する粗大な石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母からなる) から,鉄かんらん石,磁鉄鉱,黒雲母,石英に伴い,最大長さ4 mmの針~毛状結晶の集合体をなして産出する.集合体はしばしば磁鉄鉱の粒状結晶 (直径0.5 mm以下) を中心に放射状をなす.肉眼的には白~無色または淡褐色,透明,条痕は白色である.制限視野電子回折 (SAED) ではプロト鉄直閃石のみとそれに鉄直閃石を伴う試料が認められたが,肉眼的に区別することはできない.

3. 鉱物学的性質
 本研究における光学的データ,化学組成および粉末X線回折 (XRD) の測定には,プロト鉄直閃石のみからなる試料 (Fig. 1a) を用いた.浸液法による屈折率はα = 1.670(3),β = n.d.,γ = 1.704(3) で,伸長は正,多色性は認められない.SEM-EDSによる10点の平均的な分析値 (FeはすべてFeOとした) は,Na2O 0.32,K2O 0.03,FeO 44.22,MgO 1.63,MnO 2.54,CaO 0.10,Al2O3 0.50,Cr2O3 0.04,SiO2 46.65,TiO2 0.09,H2Ocalc. 1.78,合計97.89 wt%で,無水部分をO = 22として求めた実験式は (□0.89Na0.10K0.01)∑1.00(Fe6.24Mg0.41Mn0.36Ca0.02Cr0.01Ti0.01)∑7.05(Si7.90Al0.10)∑8.00O22(OH)2である.SAEDではプロト型の回折パターンを示す (Fig. 1b).ガンドルフィカメラ (CuKα) による主な粉末XRDデータ [d Å (I) hkl] は,8.32 (100) 110,3.07 (51) 231,2.77 (45) 330,2.51 (35) 170,2.64 (33) 002,2.21 (27) 142,9.1 (25) 020,2.10 (24) 152,3.29 (22) 221,1.598 (22) 551,3.48 (20) 211,1.517 (20) 253で,最小二乗法によって求めた格子定数は,a = 9.43(3),b = 18.13(3),c = 5.34(1) Åである.なお,本鉱物を乳鉢で粉末化すると,単斜晶系 (空間群C/2m) のグリュネル閃石に相転移するようである.

4. 成因
 能美島産プロト鉄直閃石は,その産状から花崗岩ペグマタイト形成末期に鉄かんらん石の熱水変質によって生成したものと考えられる.

引用文献
[1] Sueno, S. et al. (1998) Phys. Chem. Miner., 25, 366-377.
[2] Sueno, S. et al. (2002) J. Mineral. Petrol. Sci., 97, 127-136.
[3] Hawthorne, F.C. et al. (2012) Am. Mineral., 97, 2031–2048.
[4] 皆川鉄雄,西尾大輔 (2004) 愛媛大学理学部紀要,9・10,17-68.
[5] 松浦浩久 (1997) 倉橋島及び柱島地域の地質.地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅),地質調査所,53p.
R1P-09