一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R1P-10] 岩手県舟子沢鉱山および小玉川鉱山から産出するノリッシュ雲母について

*浜根 大輔1、永嶌 真理子2、鈴木 保光 (1. 東大・物性研、2. 山口大・創成科学)

キーワード:ノリッシュ雲母、舟子沢鉱山、小玉川鉱山

舟子沢鉱山および小玉川鉱山は岩手県洋野町~軽米町に位置し、粘板岩やチャートに胚胎される層状マンガン鉱床であり、東方に分布する花崗岩類によって接触変成作用を受けている。舟子沢鉱山では南部石をはじめアルミノ杉石、マンガンチェルキアラ石、フェリリーキ閃石の産出が確認され、フェリリーキ閃石については小玉川鉱山からも見いだされた。これらはいずれもリチウムを主成分とする、もしくは固溶し、当該地域はリチウムの交代作用を強く被っていると考えられる。本研究では検証をさらにすすめ、舟子沢鉱山及び小玉川鉱山からリチウムを主成分とするノリッシュ雲母が多量に産出することを確認した。
  ノリッシュ雲母(norrishite: KLiMn3+2Si4O10O2)は1989年にHoskins鉱山(オーストラリア)から見いだされたリチウムを主成分とする酸化雲母であり、土壌科学者Keith Norrishにちなんで命名された。その後、Wessels鉱山(南アフリカ)やCerchiara鉱山(イタリア)からも産出が確認され、日本でも2013年に古宮鉱山(愛媛県)から50μm程度であるが産出することが報告された。いずれの産地でも(アルミノ)杉石の産出が知られており、Wessels鉱山ではノリッシュ雲母と杉石の共存が報告されている。一方で、舟子沢鉱山においてはアルミノ杉石(alminossugilite: KNa2Al2Li3Si12O30)やその変質物であるSwinefordite: Ca0.2(Li,Al,Mg,Fe)3(Si,Al)4O10(OH,F)2·nH2Oとノリッシュ雲母の共存はいまのところ確認されていない。舟子沢鉱山及び小玉川鉱山のノリッシュ雲母の産状は共通し、粘板岩の片理と平行な薄層に褐色透明の薄板状もしくは箔状結晶で産出する。外観はいわゆる黒雲母に相当し、一般に0.5 mm以下の大きさだが、最大で2 mmとなる。ノリッシュ雲母を含む層は微細な石英を主体とし、エジリン、フェリリーキ閃石などの角閃石、およびブラウン鉱が伴われる。
  後述する単結晶XRD実験からリチウムと三価マンガンの存在が明白であったため、EDSによる分析値はAl + Si = 4で規格化したのちにMサイトの不足をリチウムとみなして解析された。化学組成はK1.02(Mn3+2.10Mg0.07Ti0.02Li0.81)Σ3(Al0.17Si3.83)Σ4O12.16(舟子沢鉱山)、K1.00(Mn3+1.94Mg0.13Ti0.06Li0.87)Σ3(Al0.24Si3.76)Σ4O11.94(小玉川鉱山)となった。
  透過型電子顕微鏡よる観察ではM1型ポリタイプ構造のみであったが、強い選択配向の影響で粉末X線回折では00l回折しか検出できなかったため、結晶構造の検討は単結晶XRDで行われ、より包有物の少ない舟子沢産の結晶が用いられた。単結晶XRDでは空間群C2/mにおいてa = 5.3024(2), b = 8.9520(4), c = 10.0812(5)Å, β = 98.191(4)°, V = 473.65(3) Å3の格子定数が得られ、構造の精密化はR1=4.3%で収束した。M1サイトはLiとMnで占有率を見積もってLi0.944(4)Mn0.056となり、M2サイトについてはMnのみで占有率を見積もってMn0.970(3)の結果となったことから、リチウムとマンガンは完全に秩序化しているとみなせる。BVS計算ではM1サイト=1.02、M2サイト=3.08、O4サイト=1.68の結果となり、M1=リチウム、M2=三価マンガン、かつ無水というノリッシュ雲母の特徴と調和的な結果が得られた。またM2サイトは三価マンガンのヤーン・テラー効果で強くひずんでおり、このことはM2サイトへほかの元素の固溶を拒む原因になると考えられる。このような特徴によりノリッシュ雲母はほかのケイ酸塩雲母とはごく限られた固溶体しか作らない可能性があり、実際に本研究やこれまで報告されたノリッシュ雲母の化学組成は常に端成分に近い。
R1P-10