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[R2-05] インハウス単結晶X線回折測定装置を用いた固体地球構成物質の結晶構造決定
「発表賞エントリー」
キーワード:単結晶X線回折測定
固体地球内部の物理・化学的性質を理解する上で、地球構成物質の結晶構造は欠かすことのできない基礎的な情報である。X線回折測定(XRD)は結晶構造の決定に広く用いられている手法であるが、なかでも単結晶XRDは結晶構造を精密決定する上で大変有力な手法である。固体地球科学分野の研究においても高圧力実験回収試料、ダイヤモンド包有物試料、隕石中衝撃脈中試料に対し単結晶XRD測定を行うことで、数多くの発見がなされている。従来のインハウス測定装置では比較的大きい結晶を用いる必要があったが、近年の技術的な進歩の結果、粒径数10 mmの微小単結晶試料で測定が行われるようになってきている。今回私たちはX線回折測定装置(Bruker, D8 Venture)を用い、高圧力実験回収試料と、高圧力下その場単結晶XRD測定をインハウスで行った。ImS3.0マイクロフォーカス線源とコンフォーカル多層膜ミラー(HELIOS Optic)を用いることでX線を高効率で集光し、低加速電圧でも微小試料に対し良いシグナルを得ることができる。陽極ターゲットはダイヤモンドアンビルセル(DAC)内の酸化物試料測定に適したMoを用いた。検出器は二次元検出器(PHOTON Ⅲ)を用い、測定後のデータ処理には統合解析ソフトウェアAPEX4を用いた。結晶構造精密化にはAPEX4に組み込まれたSHELXLを用いた。高圧力実験の回収試料測定では、マルチアンビルセルを用い合成されたFeとAlを含むbridgmaniteと、高温高圧下で安定な酸化鉄Fe5O6を測定した。回収試料内の粒径数10 mmスケールの微小単結晶試料を測定することができ、結晶構造精密化もR ~ 0.02まで達成することができた。高圧力下その場測定ではZrSiO4ジルコンを測定した。高圧力発生にはBoehler-Almaxタイプの開口角が広いDACを用いた。R値が比較的大きいものの、高圧力下測定で結晶構造精密化を行うことができた。決定した結晶構造データを用い、bridgmaniteとFe5O6に関して、原子間距離からbond valence sum法により電荷を計算した。Fe5O6中のFeは、FeO6三角柱プリズムサイトではほぼ+2であり、FeO6八面体サイトでは+2と+3の中間であった。この結果は、FeO6八面体サイトで形成される連続鎖が高圧酸化鉄の電気伝導性を支配するとした先行研究と整合的であった。高圧力下単結晶XRDの結果から、DAC試料内の静水圧性や、試料の精密な位置決めによってデータの質が大きく左右されることが示された。インハウス装置は放射光施設における測定と比べて時間の制限がないため、多数の試料を測定する必要がある場合に効果を発揮すると考えられる。高圧力実験回収試料に限らず、地質学的試料や隕石試料の分析などの測定に際し、放射光施設と補完的に用いることで固体地球科学研究の進展に寄与することができると期待される。