10:30 AM - 10:45 AM
[R2-06] Calorimetric study of cation disordering in MgAl2O4 spinel
Keywords:MgAl2O4, spinel, drop-solution calorimetry, cation disorder
スピネル型酸化物AB2O4において、四面体型と八面体型の陽イオンサイト間で陽イオンAとBの交換反応:(A)tet + [B]oct ⇌ (B)tet + [A]oct を考え、四面体サイトを占めるBイオンのモル分率をxとしたとき、一般的な化学式は(A1-xBx)[B2-xAx]O4と表される。xは無秩序の程度と呼ばれる。この交換反応において、完全秩序化状態のx = 0とある無秩序状態xとのギブスエネルギー差ΔGDが最も大きな負の値(極小値)となるところが平衡状態であることから、dΔGD/dx = dΔHD/dx -T(dΔSD/dx)= 0 よりxとTの関係式:
RTln[x2/(1-x)(2-x)]=-ΔHD/dx (1)
が導かれる。ΔHDおよびΔSDは、無秩序化のエンタルピーとエントロピーである。そして、ΔSDは実質的に完全ランダムを仮定した配置のエントロピーに等しいとしている。 スピネル型構造の名前の由来でもあるMgAl2O4スピネルにおいては、地質温度計としての有用性からx-T関係を明らかにする試みが多くの研究者によってなされてきた。しかしながら、室温下のNMR測定や単結晶X線回折測定でxが決定されているものの、xが凍結されている温度は不明であった(例えばMillard et al., 1991; Andreozzi et al., 2000)。また、高温その場NMR測定によるx-T関係の直接決定(Maekawa et al., 1997)もあるが、データのばらつきが大きい。したがって、MgAl2O4スピネルについてのx-T関係は未だに明確にはなっていない。本研究では、xが既知なMgAl2O4試料について落下溶解熱測定を行うことによりΔHDを決定し、式(1)よりx-T関係を制約することを試みた。
MgO:Al2O3=1:1(モル比)の混合物をペレットにし、1773 Kで14時間加熱してMgAl2O4スピネルを合成した。それを973 Kで600時間、1373 Kで47時間、または1973 Kで17時間アニール後、急冷した3種類の試料を準備した。それぞれについてリートベルト解析により酸素の原子座標パラメータuを決定し、Andreozzi and Princivalle (2002)によるx-u関係からxの値を求めた。落下溶解熱測定にはカルベー型高温微少熱量計を用いた。978 Kの熱量計内に置かれたホウ酸鉛(2PbO·B2O3)溶媒に熱量計の外からペレット状に固めた約3 mgの試料を落下させ、室温から978 Kまでの熱含量と溶解エンタルピーの和である落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)を測定した。なお、試料の溶解促進のためにArガスを使った泡により溶媒を攪拌させた。
リートベルト解析の結果から得られたuより、973、1373、または1973 Kの各温度でアニールした試料のxは、それぞれ0.23、0.30、0.35と決定された。また、落下溶解熱測定を行った結果をFig. 1に示す。973、1373、または1973 Kでアニールした試料のΔHd-sは、それぞれ163.1±1.1、161.4±1.0、159.8±1.0 kJ/molと測定された。xの増加に伴いΔHd-sはほぼ直線的に減少する傾向が見られる。x=0の時に完全に秩序化されたMgAl2O4スピネルを基準とすると、xの無秩序の程度を持つ試料はΔHDだけより高いエネルギー準位にあるため、ΔHd-sはその分小さくなると解釈できる。このことを式で表すと
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(x=0) -ΔHD (x) (2)
となる。また、ΔHd-sとxの直線関係(つまりΔHD=αx)を仮定し、ΔHd-s(x=0)とαを変数として式(2)を最小二乗フィットすると、ΔHd-s(x=0) =169.6(7) kJ/mol、α = 28(2) kJ/molが得られる。よって、熱量測定からΔHD を決定する手法により、x-T関係は RTln[x2/(1-x)(2-x)] = -28 と求められた。この式を用いて、熱測定試料のアニール温度である978、1373、1973 Kについてxを計算すると、それぞれ0.21(2),0.32(2),0.41(2)となる。1400K付近まではxはアニール温度の状態でほぼ凍結されているが、それ以上の温度では急冷時にxの低下が起こっていることが示唆される。このことはAndreozzi and Princivall (2002)により示されたMgAl2O4スピネルの陽イオン無秩序のカイネティクスと調和的である。
RTln[x2/(1-x)(2-x)]=-ΔHD/dx (1)
が導かれる。ΔHDおよびΔSDは、無秩序化のエンタルピーとエントロピーである。そして、ΔSDは実質的に完全ランダムを仮定した配置のエントロピーに等しいとしている。 スピネル型構造の名前の由来でもあるMgAl2O4スピネルにおいては、地質温度計としての有用性からx-T関係を明らかにする試みが多くの研究者によってなされてきた。しかしながら、室温下のNMR測定や単結晶X線回折測定でxが決定されているものの、xが凍結されている温度は不明であった(例えばMillard et al., 1991; Andreozzi et al., 2000)。また、高温その場NMR測定によるx-T関係の直接決定(Maekawa et al., 1997)もあるが、データのばらつきが大きい。したがって、MgAl2O4スピネルについてのx-T関係は未だに明確にはなっていない。本研究では、xが既知なMgAl2O4試料について落下溶解熱測定を行うことによりΔHDを決定し、式(1)よりx-T関係を制約することを試みた。
MgO:Al2O3=1:1(モル比)の混合物をペレットにし、1773 Kで14時間加熱してMgAl2O4スピネルを合成した。それを973 Kで600時間、1373 Kで47時間、または1973 Kで17時間アニール後、急冷した3種類の試料を準備した。それぞれについてリートベルト解析により酸素の原子座標パラメータuを決定し、Andreozzi and Princivalle (2002)によるx-u関係からxの値を求めた。落下溶解熱測定にはカルベー型高温微少熱量計を用いた。978 Kの熱量計内に置かれたホウ酸鉛(2PbO·B2O3)溶媒に熱量計の外からペレット状に固めた約3 mgの試料を落下させ、室温から978 Kまでの熱含量と溶解エンタルピーの和である落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)を測定した。なお、試料の溶解促進のためにArガスを使った泡により溶媒を攪拌させた。
リートベルト解析の結果から得られたuより、973、1373、または1973 Kの各温度でアニールした試料のxは、それぞれ0.23、0.30、0.35と決定された。また、落下溶解熱測定を行った結果をFig. 1に示す。973、1373、または1973 Kでアニールした試料のΔHd-sは、それぞれ163.1±1.1、161.4±1.0、159.8±1.0 kJ/molと測定された。xの増加に伴いΔHd-sはほぼ直線的に減少する傾向が見られる。x=0の時に完全に秩序化されたMgAl2O4スピネルを基準とすると、xの無秩序の程度を持つ試料はΔHDだけより高いエネルギー準位にあるため、ΔHd-sはその分小さくなると解釈できる。このことを式で表すと
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(x=0) -ΔHD (x) (2)
となる。また、ΔHd-sとxの直線関係(つまりΔHD=αx)を仮定し、ΔHd-s(x=0)とαを変数として式(2)を最小二乗フィットすると、ΔHd-s(x=0) =169.6(7) kJ/mol、α = 28(2) kJ/molが得られる。よって、熱量測定からΔHD を決定する手法により、x-T関係は RTln[x2/(1-x)(2-x)] = -28 と求められた。この式を用いて、熱測定試料のアニール温度である978、1373、1973 Kについてxを計算すると、それぞれ0.21(2),0.32(2),0.41(2)となる。1400K付近まではxはアニール温度の状態でほぼ凍結されているが、それ以上の温度では急冷時にxの低下が起こっていることが示唆される。このことはAndreozzi and Princivall (2002)により示されたMgAl2O4スピネルの陽イオン無秩序のカイネティクスと調和的である。