2023 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R2: Crystal structure, crystal chemistry, physical properties of minerals, crystal growth and applied mineralogy

Fri. Sep 15, 2023 9:00 AM - 12:00 PM 820 (Sugimoto Campus)

Chairperson:Kazuki 小松 Komatsu, Ryo Yamane(Tohoku Univ.), Mariko Nagashima

11:15 AM - 11:30 AM

[R2-09] Effect of solution pH at synthesis on the crystallization behavior of amorphous calcium carbonate

*Chiho Morita1, Kensuke Muraoka1, Hiroki Kobayashi1, Hiroyuki Kagi1 (1. Tokyo Univ. Sci.)

Keywords:Amorphous calcium carbonate, Calcite, Vaterite

代表的なバイオミネラルである炭酸カルシウムにはカルサイト、アラゴナイト、ファーテライトと呼ばれる3つの多形が存在する。さらに、組成式CaCO3・nH2O (n<1.5) で表される非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate: ACC) も存在し、高温や高圧、高湿度条件で容易に炭酸カルシウムに結晶化する。ACCは生体内で結晶多形の前駆体として存在しており、高湿度環境でのACCの結晶化挙動の観察は、バイオミネラリゼーションの機構解明に貢献しうる。本研究ではACCを高湿度条件に曝して生成する結晶多形の種類や量比を制御する1つの要因として、合成時の溶液のpHを考慮した。
ACC試料は、氷冷された0.1 M塩化カルシウム水溶液10 mLと0.1 M炭酸ナトリウム水溶液10 mLを混合し、懸濁液を0.45 μmのメンブレンフィルターで吸引濾過したのち10 mLのアセトンで2回洗浄し、得られた濾過物を真空デシケーターで1日乾燥することで得た。なお、混合溶液のpHは炭酸ナトリウム水溶液に1 M水酸化ナトリウム水溶液を加えることで調節し、3種類の溶液 (9.3, 9.8, 10.2) から試料を合成した。 高湿度条件での結晶化実験は、3 Lビーカー内にACC試料、温湿度計、約30 mLの水を入れた50 mLビーカーを入れ、ラップで蓋をし、30 ℃に保ったインキュベーター内に2時間静置することで行った。なお、この時3 Lビーカー内の湿度は約90%に保たれていた。得られた試料の多形や量比は粉末X線回折 (XRD) パターンを測定して求めた。また、高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのBL-18Cにて時間分解X線回折を測定し、高湿度条件での結晶化の様子をその場観察した。ACCおよび結晶化後の粒子形状を走査型電子顕微鏡 (SEM) で観察した。合成したACCの含水量は、常温から800 ℃まで昇温速度10 ℃/minの熱分析 (TG-DTA) を用いて求めた。また全反射測定(ATR)法により、合成したACC及び結晶化後の試料の赤外スペクトルを取得した。
合成したACC試料 (CaCO3・1.3H2O) のXRDパターンには結晶由来のシャープなピークが見られなかったことから、湿潤条件下での結晶化実験に用いた試料はACC単相であることが確かめられた。時間分解X線回折の結果から、高湿度条件下でのACCの結晶化は約2時間で完結していることが確認された。XRDパターンから、結晶化により晶出した多形はカルサイトとファーテライトであることがわかった。図1にリートベルト解析により求めた2つの多形の量比と合成時に加えたNaOHの量との関係を示す。NaOHの添加量が増え、溶液中のpHが上がるとともに、カルサイト/ファーテライト比が直線的に増加することが明らかになった。またSEMで得た二次電子像の観察結果から、ACCは直径50 ~ 100 nm程度の小球状で、合成時のpHの差異による変化は特に見受けられなかった。結晶化後の試料には、一辺100 ~ 200 nm程度の菱形状の結晶および直径100 nm程度の球状結晶がいずれの試料にも観察された。これはそれぞれカルサイト、ファーテライトであると考えられるが、pHの高い条件で合成した試料の方が菱形状の結晶をより含み、XRDパターンから得られた多形量比の結果と調和的であった。
TG-DTAの結果から、各ACC試料は330 ℃付近で結晶化していたが、その後400 ℃付近に重量減少と弱い吸熱ピークが見られ、またその重量減少量は合成時のpHの上昇に伴い増加することが分かった。これは炭酸カルシウム中に存在するOHイオンの脱離で説明できる可能性があり、合成時のpHの上昇がACCの組成を変化させることが示唆された。これは湿潤条件下で、結晶化後の多形がカルサイトに偏りやすくなる要因である可能性がある。
今後の展望として、NaOH水溶液ではなくアンモニア水など他の塩基性溶液や塩酸など酸性溶液によるpH変化についても検討し、より広いpHの範囲で結晶化後の多形の変化を検証したいと考えている。
R2-09