12:00 〜 14:00
[R2P-02] 漂着軽石を出発物質としたカリ質ケイ酸質鉱物肥料合成の試み
「発表賞エントリー」
キーワード:漂着軽石、カリ質ケイ酸質鉱物肥料、カリオフィライト、カルシライト、オケルマナイト
2021年8月に発生した福徳岡ノ場の海底火山噴火により、南西諸島を中心に日本の海岸各地には、大量の軽石が漂着し、船舶の航行や漁業、観光業などに大きな被害をもたらしたことは記憶に新しい。漂着軽石はコンクリートの材料、テトラポットの製造、水はけを良くする土壌改良剤や、鉱山跡地への埋め戻しに使うなど、その扱いには苦慮していた。
本研究ではそれらの漂着軽石の有効な活用法の一つとして、カリ質ケイ酸質鉱物肥料の合成を試みた。カリ質珪酸質鉱物肥料「けい酸加里」は水稲用肥料として、40年にわたり製造、販売、利用されている、土壌中へK、Siを供給する肥料である。「けい酸加里」は、火力発電の副産物として生じる石炭灰(フライアッシュ)を原料とし、KOHやMg(OH)2などの添加物を加え、1000℃超えの高温で焼成して製造されている。漂着軽石はフライアッシュとよく似た(SiとAlを主成分とした)全岩組成を有し、全体的にガラス質であることから、「けい酸加里」と同等の性質をもつ鉱物肥料の合成は可能であると予想される。そこで本研究では、漂着軽石を出発物質としたカリ質珪酸質鉱物肥料の合成を試みた。
漂着軽石は蒸留水で洗浄し、乾燥後、鉄乳鉢及びメノウ乳鉢を用いて粉末にした。XRF分析で求めた軽石の全岩化学組成をもとに、市販の「けい酸加里」に近い組成になるようにKOH溶液 (5 M), Al(OH)3, Mg(OH)2, Ca(OH)2の各試薬を添加し、磁性るつぼに入れ、130℃で予備乾燥を行った後、電気炉中で加熱合成を行った。加熱温度は800℃、900℃、1000℃、1100℃、加熱時間は2時間を基準とした。また、加熱時間の違いによる生成物の変化を見るために、加熱温度1100℃で加熱時間を5分、1時間、12時間とした実験も行った。加熱後、電気炉ごと徐冷して試料を回収した。回収試料の評価、化学組成の分析には、粉末XRD及びSEM-EDSを用いた。
XRD測定の結果、800℃、900℃からの回収試料からはカリオフィライト(理想組成KAlSiO4)とマグネサイトのピークが検出された。前者は市販の「けい酸加里」の主要構成相であり、軽石を出発原料に用いた場合でもKOHとの反応によりカリオフィライトが生じることを確認できた。一方、マグネサイトは試薬として加えたMg(OH)2と空気中のCO2との反応によって生じたものと推測される。一方、1000℃以上からの回収試料では、カリオフィライトに加え多形であるカルシライト、及び製品の「けい酸加里」の第二相を構成するオケルマナイトのピークが認められた。1100℃で加熱時間を変えた実験では、加熱時間の増加に伴いカルシライトとオケルマナイトのピークが高くなり、相対的にカリオフィライトのピークは低くなった。先行研究(Dimitrijevic and Dondurt, 1994)においても加熱温度の上昇もしくは加熱時間の増加に応じてカルシライトが増加していくことから、カリオフィライトは準安定相として生成されていると考えられる。
SEM-EDSによる試料断面の観察の結果、800℃~900℃からの試料は空隙に富み、出発物質の火山ガラスの粒子形状がほぼ保たれていたが、1000℃以上からの回収試料では各粒子が連結・癒着し、空隙が減少している様子が確認された。断面においてKAlSiO4相(カリオフィライト/カルシライト)の粒子形状は不明瞭で全体として塊状であるのに対して、オケルマナイトは単柱状の自形結晶としてKAlSiO4相の基質中に析出していた。900℃からの回収試料では、軽石由来の火山ガラス粒子の周縁からKとAlが拡散してきているような組成累帯が観察され、オリジナルの粒子形状を残していることを踏まえても、KAlSiO4相およびオケルマナイトの生成は、固相反応によって進行すると考えられる。
本研究の結果、漂着軽石を原料として1100℃で、2時間程度加熱することにより、製品の「けい酸加里」とほぼ同等なカリ質ケイ酸質鉱物肥料の合成が可能であることが分かった。近年では小笠原諸島やトンガの例にみられるように、海底火山の爆発的噴火により大量の軽石が発生し、沿岸域に漂着することは今後も繰り返される可能性が高い。邪魔者扱いされ、処理に困る漂着軽石であるが、水稲用の鉱物肥料への転換はその有効活用の1つとなり得るだろう。
本研究ではそれらの漂着軽石の有効な活用法の一つとして、カリ質ケイ酸質鉱物肥料の合成を試みた。カリ質珪酸質鉱物肥料「けい酸加里」は水稲用肥料として、40年にわたり製造、販売、利用されている、土壌中へK、Siを供給する肥料である。「けい酸加里」は、火力発電の副産物として生じる石炭灰(フライアッシュ)を原料とし、KOHやMg(OH)2などの添加物を加え、1000℃超えの高温で焼成して製造されている。漂着軽石はフライアッシュとよく似た(SiとAlを主成分とした)全岩組成を有し、全体的にガラス質であることから、「けい酸加里」と同等の性質をもつ鉱物肥料の合成は可能であると予想される。そこで本研究では、漂着軽石を出発物質としたカリ質珪酸質鉱物肥料の合成を試みた。
漂着軽石は蒸留水で洗浄し、乾燥後、鉄乳鉢及びメノウ乳鉢を用いて粉末にした。XRF分析で求めた軽石の全岩化学組成をもとに、市販の「けい酸加里」に近い組成になるようにKOH溶液 (5 M), Al(OH)3, Mg(OH)2, Ca(OH)2の各試薬を添加し、磁性るつぼに入れ、130℃で予備乾燥を行った後、電気炉中で加熱合成を行った。加熱温度は800℃、900℃、1000℃、1100℃、加熱時間は2時間を基準とした。また、加熱時間の違いによる生成物の変化を見るために、加熱温度1100℃で加熱時間を5分、1時間、12時間とした実験も行った。加熱後、電気炉ごと徐冷して試料を回収した。回収試料の評価、化学組成の分析には、粉末XRD及びSEM-EDSを用いた。
XRD測定の結果、800℃、900℃からの回収試料からはカリオフィライト(理想組成KAlSiO4)とマグネサイトのピークが検出された。前者は市販の「けい酸加里」の主要構成相であり、軽石を出発原料に用いた場合でもKOHとの反応によりカリオフィライトが生じることを確認できた。一方、マグネサイトは試薬として加えたMg(OH)2と空気中のCO2との反応によって生じたものと推測される。一方、1000℃以上からの回収試料では、カリオフィライトに加え多形であるカルシライト、及び製品の「けい酸加里」の第二相を構成するオケルマナイトのピークが認められた。1100℃で加熱時間を変えた実験では、加熱時間の増加に伴いカルシライトとオケルマナイトのピークが高くなり、相対的にカリオフィライトのピークは低くなった。先行研究(Dimitrijevic and Dondurt, 1994)においても加熱温度の上昇もしくは加熱時間の増加に応じてカルシライトが増加していくことから、カリオフィライトは準安定相として生成されていると考えられる。
SEM-EDSによる試料断面の観察の結果、800℃~900℃からの試料は空隙に富み、出発物質の火山ガラスの粒子形状がほぼ保たれていたが、1000℃以上からの回収試料では各粒子が連結・癒着し、空隙が減少している様子が確認された。断面においてKAlSiO4相(カリオフィライト/カルシライト)の粒子形状は不明瞭で全体として塊状であるのに対して、オケルマナイトは単柱状の自形結晶としてKAlSiO4相の基質中に析出していた。900℃からの回収試料では、軽石由来の火山ガラス粒子の周縁からKとAlが拡散してきているような組成累帯が観察され、オリジナルの粒子形状を残していることを踏まえても、KAlSiO4相およびオケルマナイトの生成は、固相反応によって進行すると考えられる。
本研究の結果、漂着軽石を原料として1100℃で、2時間程度加熱することにより、製品の「けい酸加里」とほぼ同等なカリ質ケイ酸質鉱物肥料の合成が可能であることが分かった。近年では小笠原諸島やトンガの例にみられるように、海底火山の爆発的噴火により大量の軽石が発生し、沿岸域に漂着することは今後も繰り返される可能性が高い。邪魔者扱いされ、処理に困る漂着軽石であるが、水稲用の鉱物肥料への転換はその有効活用の1つとなり得るだろう。