2023 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Poster presentation

R2: Crystal structure, crystal chemistry, physical properties of minerals, crystal growth and applied mineralogy

Fri. Sep 15, 2023 12:00 PM - 2:00 PM 83G,H,J (Sugimoto Campus)

12:00 PM - 2:00 PM

[R2P-04] Synthetic of potassium silicate minerals from a weathered granite with alkaline fluxes

[Presentation award entry]

*Hiroki Ishida1, Hiroaki Ohfuji1 (1. Tohoku Univ. Sci.)

Keywords:weathered granite, potassic silicic fertilizer, kaliophilite, åkermanite

はじめに
 カリウムは, 植物の成長において欠かすことができない重要な元素で, 窒素(N)やリン(P)と合わせて植物の三大必須栄養素である. 一方, 自然界に存在するカリウムの大半はカリ長石や黒雲母などの造岩鉱物に含まれる不溶性形態であり, そのまま肥料として用いることは難しい.資源としては可溶性の塩化カリウムが採掘されているが,その産出はカナダやロシアなどごく一部の国に限られている.よって,日本を含めた多くの国では,それらの産出国から輸入することでカリウム需要を満たしている. 昨今, 世界情勢の不安定化によってカリウム価格が高騰し,農業用肥料としてのカリウムの安定確保が重要な課題となっている. 水稲用の緩効性カリ肥料として,石炭火力発電で生じるフライアッシュ(石炭灰)を原料として製造される「けい酸加里」が知られている.けい酸加里はフライアッシュにカリウムやアルミニウム, マグネシウム分を添加し,約1100℃で焼成して製造されている.カリウムに加えてケイ酸を多く含むため, 組織内に非晶質シリカ(プラントオパール)を蓄積するイネの栽培にとって「けい酸加里」は重要な肥料である.「けい酸加里」の原料のフライアッシュは石英,ムライトおよびガラス質で構成されSiO₂とAl₂O₃に富むバルク組成を持っている.本研究では,フライアッシュの代替として比較的バルク組成の似た風化花崗岩(マサ土)を用いたケイ酸質カリ質鉱物肥料の合成を試みた.将来的には,風化花崗岩中のカリ長石や雲母類に含まれるカリウムの利用を検討したいが,まずは生成相や生成プロセスを理解するため,カリウムを添加した系における実験を行った.
出発物質と手法
 出発原料として愛媛県松山市北条産のマサ土(領家花崗岩の風化物)を用いた. 光学顕微鏡観察やSEM-EDS, XRF分析を行いマサ土の含有鉱物やバルク組成を調べた. 合成実験には磁製るつぼを用い, 粉末にしたマサ土試料2 gに5M濃度のKOH溶液および Al(OH)₃, Ca(OH)₂, Mg(OH)₂粉末試薬を規定量加え, 爪楊枝を使って攪拌した後130℃で乾燥させ,その後, 電気炉中で800-1100℃で10-720分の加熱を行った. その後徐冷して試料を回収し, 粉末XRDおよびSEM-EDSを用いて生成相の同定と微細組織観察, 化学分析を行った.
結果と考察
 出発試料として用いたマサ土は主に石英, 斜長石, カリ長石, 黒雲母から構成され, 黒雲母は部分的にバーミキュライト化が進行していた. XRFによるバルク組成分析から70.8 wt.%のSiO₂と14.7 wt.%のAl₂O₃, 3.6 wt.%のK₂Oが含まれていることが分かった. 実験回収試料のXRDの結果, 800℃で120分間焼成したものでは原料であるマサ土の構成鉱物である石英や長石が多く残っていたが, リューサイト(KAlSi₂O₆)と製品の「けい酸加里」の主要構成相であるカリオフィライト(KAlSiO4)が少量生成されていた. 900℃で120分間焼成したものでは800℃よりは反応が進んでいたものの石英のピークが残留していた. 1000~1100℃で120分間焼成したものでは出発物質は全て反応し, 主にカリオフィライト, リューサイト, オケルマナイト(Ca₂MgSi₂O₇)で構成されていたが, カリオフィライトの生成量はより高温条件で多く,また, 同じ焼成温度では,加熱時間を長くするほど多くなる傾向が見られた. 次に, 回収試料の断面をSEM-EDSで観察した結果, 焼成温度の上昇に伴い,石英や長石粒子の周縁からK,Alが拡散し,固相のまま出発粒子を交代してゆく様子が観察された. 元素ごとに拡散速度に差がありKは拡散が速く, Alは遅く, カリオフィライトの生成はAlの拡散速度に律速されていることが分かった.XRDの結果を合わせて考えると,[OH1] 反応初期には拡散速度の速いKが先行して石英,長石粒子内部に浸透し,非晶質相が形成される. その後, Alが拡散してくると,非晶質領域はまずSiO₂に富むリューサイトが結晶化し,K,Alの拡散が十分に進行した領域ではリューサイトよりもSiO₂に乏しいカリオフィライトが生成されたと推測される. 焼成温度が1000℃, 1100℃と上昇するにつれて出発物質の鉱物粒子の境界は不明瞭になり, (多孔質ではあるが)全体として塊状の組織へと変化していく様子が確認された.
 以上より,出発物質に風化花崗岩を用いた場合でも,1000℃程度の加熱による固相反応の結果「けい酸加里」と同等のカリ質ケイ酸質鉱物肥料が合成できることが分かった.