一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R2P-05] イソプロピルアミンを包接するシリカクラスレート自形結晶の合成とその特徴

*磯谷 舟佑1、玉井 伸幸1、横山 優花1、谷 篤史1、瀬戸 雄介2 (1. 神戸大・院人間発達環境、2. 大阪公立大・院理)

キーワード:シリカクラスレート、千葉石、合成

シリカクラスレートは,二酸化ケイ素(SiO2)がホストとしてかご状構造を形成し,かごの中に入っているガス分子をゲスト分子として包接する化合物である.ゲスト分子のサイズにより,構造の異なるメラノフロジャイト,千葉石,房総石などの鉱物に分類される.
 千葉石は,千葉県南房総市荒川の海洋堆積層群の石英脈から発見された鉱物であり,十二面体と十六面体のかごが組み合わさって,メタン,エタン,プロパンやイソブタンといった炭化水素ガスを包接する構造を持つ[1].この産地の千葉石は堆積岩層の形成後に生成したと考えられているが,正確な生成年代についてはよく分かっていない.我々は,この千葉石を電子スピン共鳴法 (ESR) により観察しtert-ブチルラジカルなどの有機ラジカル種が天然の状態で残存していることが明らかにした.さらにこれらの有機ラジカル種が年代とともに増加していくことを想定し,年代測定が可能かについて検討を行ったところ,有機ラジカル種とゲスト分子の間で水素引抜反応が起こることが示唆された[2].すなわち,ESR年代測定に必要な総被曝線量の評価には千葉石構造におけるラジカル種の挙動を調べる必要があり,そのためには組成を制御した千葉石が必要となる.以上の背景を踏まえ,本研究では,実験室で良質の千葉石を合成し,その鉱物学的特徴を明らかにすることを目的とした.
 まず,一種類の炭化水素分子を包接する千葉石の合成を試みたが,炭化水素ガスの水への溶解度が低いこともあり,試料合成は困難であった.そのためイソブタンのメチル基がアミノ基となったイソプロピルアミンに着目し,これを包接した千葉石と同様の構造をもつ結晶を次のように合成した.まず,オルトケイ酸テトラエチル (TEOS) と水を混合し,加水分解させてオルトケイ酸溶液を作製した.これにイソプロピルアミン水溶液を10:3の体積比で混ぜ,テフロン内筒耐圧容器に入れて180 ºCで約1.5か月静置した.回収した溶液には,Fig. 1に示すような直径500 µm程度の八面体構造の自形結晶の生成が確認された.これらの生成物の粉末X線回折測定を行ったところ,千葉石と同様の結晶構造を持つことが分かった.また,ラマン分光測定により結晶中にイソプロピルアミンが含まれていることが確認された.発表では,薄片観察の結果に加え,光学特性,発達した成長面の面指数,単結晶X線回折,およびγ線照射により生成するラジカル種についても報告する.
[1] K. Momma et al. (2011) Nature Comm., 2, 199 [2] S. Isogai et al., (2023) Radiat. Phys. Chem. in review
R2P-05