一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R2P-08] アルファリコイルトラック検出のための合成ジルコンの作成・検証

*濵田 麻希1、長谷部 徳子2 (1. 金沢大学・理工、2. 金沢大学環日本海域環境研究センター)

キーワード:合成ジルコン、アルファリコイルトラック、フラックス法

アルファリコイルトラック(ART)は,鉱物中のUやThなどの重原子がアルファ壊変する際に,元の原子核が反跳することで形成する傷で年代を決定するために用いられる.またARTがジルコン中に多く形成することで,古い時代のジルコンのメタミクト化が起こると考えられている.ジルコンは物理的にも化学的にも強く,風化の影響を受けにくいため,ARTやフィッショントラックを保存できるという利点がある.しかしこれまでにジルコン中のARTを観測した例がなく,ARTがどのように見えるのかは誰も知らない.したがって本研究では,ARTを持たない合成ジルコンに人工的にARTを発生させ,原子間力顕微鏡下でどのように見えるか検証するため,均質なジルコンの合成およびその特徴を調査するための研磨およびエッチングを行った.今回の実験でジルコン中のARTを認定する方法を確立できれば,将来的に多様な原子核やイオンの衝突による構造の認定にも道を拓き,宇宙からの粒子線の検出など,年代測定以外の分野にも応用ができるため,均質・かつ欠陥のない合成ジルコンの作成法の確立は重要だと考える.  ジルコンはフラックス法で合成をした.Shinno (1987)と同様にZrO2,MoO3,Li2MoO4,およびLi2SiO3を84:10:3:3 molの割合で混合した出発物質を,1270℃で2時間加熱し,その後10℃/minで900℃まで冷却した.この温度条件で形成したジルコンは多くが両錐,または柱状の自形結晶であり,大きさは36 - 296 mmである.大きい自形結晶は包有物を含む.合成された結晶の1/3程度は,成長線がよく見える薄い透明の結晶であった.化学組成分析の結果,こちらもジルコンであると明らかになった.化学組成が同じであり,成長線がよく見えるため,この結晶はジルコンの骸晶であると考えられる. 生成した合成ジルコン中の骸晶の割合を減らし,均質な自形結晶を作成するため,900度まで5℃/minで温度を下げて合成を行った.結晶の大きさは37 - 375 mmであり,結晶の外形は両錐及び柱状,針状である.ゆっくり冷却を行ったためできた結晶は大きくなったが,骸晶の割合は初めに作成したものよりも多く,半分程度が骸晶であった.一見自形に見える結晶も裏側が骸晶であることが多い. 合成ジルコンのうち,比較的均質な柱状の7粒子の表面を研磨し,その後,230ºCのNaOH:KOH = 1:1の溶液で13時間エッチングを行った.観察面には研磨による傷のほかに,それに垂直な短い傷がいくつか観察された.特に粒子の最表層は不均質なエッチングによる構造が現れた。結晶内部の短い傷は研磨の際についた傷か,結晶中の線欠陥であると考えられる.この傷がART発生に影響を及ぼさないかを検討するため,ARTの観察時と同等の研磨・エッチング条件で試料を調整し,原子間緑顕微鏡を用いて観察を行う.