12:00 〜 14:00
[R2P-09] ラマンスペクトルによるAl-Fe3+系緑簾石中のFe3+含有量の見積り
キーワード:ラマン分光、緑簾石、クリノゾイサイト、鉄含有量
本研究では15試料の天然Al-Fe3+系緑簾石[Ca2(Al, Fe3+)3Si3O12(OH)] 33分析点から得られた化学分析値およびラマンスペクトルに基づいて,Al-Fe3+系緑簾石中のFe3+含有量とラマンピークの関係を提案する.各鉱物粒の化学組成と組成変化をEPMAで検討し,ラマンスペクトル取得に適した分析点を選定した.選定された分析点から得られた緑簾石のFe3+含有量は0.22-1.13 Fe apfu (atoms per formula unit)である.ラマンスペクトルは格子振動に由来するピークが出現する15-1215 cm-1とOH伸縮振動に由来するピークが出現する3215-3615 cm-1の範囲で取得された.OH伸縮振動に由来するピークは赤外分光スペクトルの場合と同様,緑簾石中のFe3+含有量の増加に伴い高波長側にシフトするため,その関係から OHに由来するピークはFe3+の見積もりに適しているように考えられるが,本ピークは結晶方位による強度変化が著しく,さらに重複した複数のピークが存在するため,Fe3+含有量の見積もりに本ピークを使用することは避けるべきである.一方,格子振動に由来するピークはFe3+含有量の増加に伴い全体に低波長側にシフトする.特に250, 570, 600, 1090 cm-1付近でみられる4つのピークは,Fe3+含有量の変化に伴ってピーク位置が直線的に変化する.これらのうち6配位席MO6に由来する250cm-1付近のピークは結晶方位に強い依存性を示し,通常,隣接したピークとの重複も観察されるため,得られたスペクトルで本ピークが十分な強度を持ち,且つ隣接したピークからよく分離している場合を除き,Fe3+含有量の見積もりに使用することは難しい.一方,Si2O7振動モードに由来する他の3つのピーク(570, 600, 1090 cm-1)は結晶方位による強度変化がみられるものの,いずれも周囲のピークからよく分離される傾向がある.特に570 cm-1付近のピークは最も半価幅が狭く(< 10 cm-1),独立したピークとしての認識が容易である.したがって,570 cm-1付近のピークのピーク位置とFe3+含有量から得られた関係式 w570 = 577.1(3)-12.7(4)x (R2 = 0.97, 分析点数 = 33)を用いて見積もったFe3+含有量x (apfu)は最も信頼性が高いと結論付けられる.見積もられたxの誤差は±0.04 apfuである.さらに600 cm-1および1090 cm-1付近のピークから得られた次の関係式 w600 = 611.6(2)-13.8(4)x (R2 = 0.98),w1090 = 1098.8(3)-13.5(5)x (R2 = 0.96) を相補的に用いることで,より正確な緑簾石のFe3+含有量の見積もりにつながるだろう.