9:15 AM - 9:30 AM
[R3-02] The change in the hydrous mechanism of enstatite with Al incorporation
Keywords:Hydrous mechanism, DFT calculation, FT-IR
1. 目的
無水鉱物中に水はOH基として取り込まれ、極微量でも鉱物物性に大きな影響を与えることから、盛んに研究が行われている。特に、上部マントルの主要鉱物である斜方輝石(Orthopyroxene:以下Opx)はAl濃度の増加に伴い飽和含水量が増加することが知られている(Rauch and Keppler, 2002)。しかし、Alを固溶することで水素の置換様式がどのように変化し、飽和含水量が増加するのかは未だ明らかではない。 そこで本研究では、実験から得られたIRスペクトルと、計算から得られた振動数・強度比をもとに再現したIRスペクトルを比較することで、Opx中の水素原子がどのような置換反応により取り込まれるかを決定し、Opxの含水メカニズムがAlの固溶でどのように変化するのかを考察した。
2. 方法
密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算により、様々な位置に水素を配置したOpx中のOH伸縮振動を求め、高温高圧実験(Sakurai et al., 2014)で得られたIR吸光スペクトルとの比較を行った。ユニットセルはa = 18.233 Å,b = 8.8191 Å,c = 5.1802 Åの直方体(Demelza et al., 1994)、K点メッシュは1×2×4、価電子のみをあらわに扱う擬ポテンシャル法を採用し、平面波のカットオフエネルギーは40 Ryとした。電子の交換相関項の近似は一般化された勾配近似(GGA-PBE)を用いた。計算コードにはQuantum-ESPRESSO(Giannozzi et al., 2009)を用いた。Opxは、結晶構造の対称性によって、2種のSiO4四面体(それぞれT1, T2 siteと呼ばれる)と2種のMgO6八面体(それぞれM1, M2 site)と区別でき、SiO4四面体が単鎖構造をなしている。本研究では(1)T2 siteのSiを4個のHで置換した構造、(2)M1またはM2 siteのMgを2個のHで置換した構造、(3) T2 siteのSiをAlとHで置換した構造、(4) M1とM2 site2個のMgをAlとHで置換した構造、および(5)(1)のうち1種類と(3)を同一セル中で同時に置換した構造を考え、それぞれの全エネルギーとOH伸縮振動・強度比を計算した。スペクトルの分布にはガウシアン分布を使用した。
3. 結果・考察
Al-free Opxでは、高波数のピーク(>3450 cm-1)は主に(1) Si→4Hの置換反応によって得られ、(2) Mg→2Hの置換からは3400 cm-1より小さい波数しか得られないことが分かった。一方OpxがAlを固溶するとき、水素とともに置換反応を生じる(4) 2Mg→Al+Hの置換が新たに可能になり、この構造から得られる波数は実験から得たIRスペクトルの最強線(~3575 cm-1)を再現した。さらに、OpxがAlを固溶するとき、周囲の電子状態の変化を考察するため、LUMOを計算した。結果、(3) Si→Al+Hの置換によってOpxがAlを固溶するとき、近傍のT2 siteの反応性が上がることが分かった。この結果は、反応性の上昇したT2 siteにおいて、新たに(1) Si→4Hの置換が生じる(5)のペアの置換が起こりうることを示唆する。つまり、本研究から得られた結果は、Alの固溶により含水メカニズムに変化が生じ、含水量の大幅な増加が生じたことを示すものであり、化学組成の変化が含水量に与える影響が理論的に明らになった。今回明らかになったAlを伴う含水メカニズムが、ほかのマントル鉱物中でも生じると、ブリッジマナイトを含むAlを固溶するマントル鉱物は大きな水溶性を持つ可能性がある。
無水鉱物中に水はOH基として取り込まれ、極微量でも鉱物物性に大きな影響を与えることから、盛んに研究が行われている。特に、上部マントルの主要鉱物である斜方輝石(Orthopyroxene:以下Opx)はAl濃度の増加に伴い飽和含水量が増加することが知られている(Rauch and Keppler, 2002)。しかし、Alを固溶することで水素の置換様式がどのように変化し、飽和含水量が増加するのかは未だ明らかではない。 そこで本研究では、実験から得られたIRスペクトルと、計算から得られた振動数・強度比をもとに再現したIRスペクトルを比較することで、Opx中の水素原子がどのような置換反応により取り込まれるかを決定し、Opxの含水メカニズムがAlの固溶でどのように変化するのかを考察した。
2. 方法
密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算により、様々な位置に水素を配置したOpx中のOH伸縮振動を求め、高温高圧実験(Sakurai et al., 2014)で得られたIR吸光スペクトルとの比較を行った。ユニットセルはa = 18.233 Å,b = 8.8191 Å,c = 5.1802 Åの直方体(Demelza et al., 1994)、K点メッシュは1×2×4、価電子のみをあらわに扱う擬ポテンシャル法を採用し、平面波のカットオフエネルギーは40 Ryとした。電子の交換相関項の近似は一般化された勾配近似(GGA-PBE)を用いた。計算コードにはQuantum-ESPRESSO(Giannozzi et al., 2009)を用いた。Opxは、結晶構造の対称性によって、2種のSiO4四面体(それぞれT1, T2 siteと呼ばれる)と2種のMgO6八面体(それぞれM1, M2 site)と区別でき、SiO4四面体が単鎖構造をなしている。本研究では(1)T2 siteのSiを4個のHで置換した構造、(2)M1またはM2 siteのMgを2個のHで置換した構造、(3) T2 siteのSiをAlとHで置換した構造、(4) M1とM2 site2個のMgをAlとHで置換した構造、および(5)(1)のうち1種類と(3)を同一セル中で同時に置換した構造を考え、それぞれの全エネルギーとOH伸縮振動・強度比を計算した。スペクトルの分布にはガウシアン分布を使用した。
3. 結果・考察
Al-free Opxでは、高波数のピーク(>3450 cm-1)は主に(1) Si→4Hの置換反応によって得られ、(2) Mg→2Hの置換からは3400 cm-1より小さい波数しか得られないことが分かった。一方OpxがAlを固溶するとき、水素とともに置換反応を生じる(4) 2Mg→Al+Hの置換が新たに可能になり、この構造から得られる波数は実験から得たIRスペクトルの最強線(~3575 cm-1)を再現した。さらに、OpxがAlを固溶するとき、周囲の電子状態の変化を考察するため、LUMOを計算した。結果、(3) Si→Al+Hの置換によってOpxがAlを固溶するとき、近傍のT2 siteの反応性が上がることが分かった。この結果は、反応性の上昇したT2 siteにおいて、新たに(1) Si→4Hの置換が生じる(5)のペアの置換が起こりうることを示唆する。つまり、本研究から得られた結果は、Alの固溶により含水メカニズムに変化が生じ、含水量の大幅な増加が生じたことを示すものであり、化学組成の変化が含水量に与える影響が理論的に明らになった。今回明らかになったAlを伴う含水メカニズムが、ほかのマントル鉱物中でも生じると、ブリッジマナイトを含むAlを固溶するマントル鉱物は大きな水溶性を持つ可能性がある。