11:30 AM - 11:45 AM
[R3-10] Increase of hydrogen-induced volume expansion by incorporation of Si into iron and the effect in estimated hydrogen content in the Earth’s core
[Presentation award entry]
Keywords:High-pressure experiments, Neutron diffraction, Light element in the core, Hydrogen, Silicon
水素は高圧条件下で金属鉄に固溶し鉄水素化物を生成する。さらに、水素は高温高圧下では非常に親鉄性が高まり、ケイ酸塩よりも金属鉄へ強く分配される。一方、地震学的観測から地球核には軽元素が溶け込んでいることが古くより知られている。水素は上で述べた性質を持つことから核の重要な軽元素候補である。鉄水素化物は高圧環境下のみで安定で、常圧状態に鉄水素化物を回収することは極めて難しい。古くには、急冷回収試料や急速脱圧によって水素量や水素の固溶サイトを決定した革新的な研究はあるものの、鉄水素化物が安定な高温高圧条件におけるその場観察により、水素の固溶量ならびに固溶サイトを決定することが必要である。中性子回折は水素の散乱断面積が大きいため金属中の水素量決定に有効な手法だが、中性子と原子核の相互作用は弱く、大きな試料体積が必要となるため、高温高圧下での中性子回折測定は放射光X線回折と比較すると困難をともなう。 Machida et al. (2014)によるfcc構造を持つ重水素化鉄の高温高圧下中性子回折の成功を皮切りに、中性子回折実験による鉄水素化物の研究が数多く行われた。しかし、これらの研究のほとんどは鉄―水素2成分系での実験であり、他の元素を含んだ系での水素化を調べた実験はきわめて少ない。また、核の密度欠損と照らし合わせる際に重要な指標である水素誘起体積膨張への軽元素共存効果はこれまで調べられていない。本研究では同じく軽元素の候補であり、特に内核の軽元素候補として有力なケイ素に着目し、ケイ素がもたらす鉄の水素誘起体積膨張への影響を調べた。また、ここで得られた結果を用いて先行研究から求められる核の水素量の再計算をおこなった。
水素誘起体積膨張とは単位胞内に水素原子1個が固溶することによる体積膨張を単位胞内のホスト原子数で規格化した量である。水素誘起体積膨張を求めるためには、水素化物の単位胞体積と水素原子の占有率に加えて、水素を含まない試料の単位胞体積を決める必要がある。本研究では、前者をJ-PARC MLF BL-11での高温高圧中性子回折実験から、後者を放射光施設SPring-8 BL04B1でのX線回折実験から状態方程式を求めることによって決定した。 両実験の出発試料としてFe0.95Si0.05粉末を用いた。Fe0.95Si0.05は常温常圧下では純鉄同様にbcc構造をとるが、12 GPaを超えた付近でhcp構造に相転移する。hcp構造は内核温度圧力相当の条件下において、純鉄ならびにケイ素を含んだ鉄の安定構造のひとつである。中性子回折において軽水素は角度依存性のない非干渉性弾性散乱が強く、結晶構造の精密化に使用する回折プロファイルのS/N比を著しく下げる。また、これまでの金属水素化物の研究により水素誘起体積膨張の同位体効果は誤差の範囲内で一致するとの結果があり、現に、fcc鉄水素化物高温高圧中性子回折実験では水素誘起体積膨張に関して顕著な同位体効果は見られていない。そこで、本研究では高温下で分解して水素を放出する重水素化アンモニアボランを用いて試料の水素化をおこなった。Fe0.95Si0.05試料をhcp領域まで常温で加圧したのちに、加熱して水素源を分解、放出された水素をFe0.95Si0.05に固溶させて重水素化物を生成した。重水素化による体積膨張を確認したのちに、13.5 GPa、900 Kでの回折プロファイルを39時間かけて測定した。更に、温度を300 Kまで下げ、12.1 GPa、300 Kの回折プロファイルを47時間測定した。得られたプロファイルは、リートベルト法をもちいた結晶構造精密化をおこなった。一方、高温高圧下X線回折実験は12-27 GPa, 300-800 Kで行い、得られたデータにバーチ・マーナハンの状態方程式を適用させた。
以上の実験の結果、hcp相Fe0.95Si0.05の水素誘起体積膨張は純鉄の値に比べ、約15%大きいことが明らかになった。Tagawa et al. (2016) ではSiを含んだhcp鉄水素化物の圧縮曲線を用いて内核外核境界の密度を満たすようなSi, H量を見積もった。ただし、ここで見積もられた水素量はAntonov et al. (1998) による鉄重水素化物の急冷回収試料の水素誘起体積膨張が用いられている。本研究で得られた結果を用いると、核の水素量を著しく (内核では約5割減、Tagawa et al. (2016) らが推定している外核では約3割) 低下させることがわかった。これは、Siを含んだ系において単純にhcp構造を持つ純鉄の水素誘起体積膨張を用いて水素量を計算した場合、核の水素量の過大評価になることに他ならない。
水素誘起体積膨張とは単位胞内に水素原子1個が固溶することによる体積膨張を単位胞内のホスト原子数で規格化した量である。水素誘起体積膨張を求めるためには、水素化物の単位胞体積と水素原子の占有率に加えて、水素を含まない試料の単位胞体積を決める必要がある。本研究では、前者をJ-PARC MLF BL-11での高温高圧中性子回折実験から、後者を放射光施設SPring-8 BL04B1でのX線回折実験から状態方程式を求めることによって決定した。 両実験の出発試料としてFe0.95Si0.05粉末を用いた。Fe0.95Si0.05は常温常圧下では純鉄同様にbcc構造をとるが、12 GPaを超えた付近でhcp構造に相転移する。hcp構造は内核温度圧力相当の条件下において、純鉄ならびにケイ素を含んだ鉄の安定構造のひとつである。中性子回折において軽水素は角度依存性のない非干渉性弾性散乱が強く、結晶構造の精密化に使用する回折プロファイルのS/N比を著しく下げる。また、これまでの金属水素化物の研究により水素誘起体積膨張の同位体効果は誤差の範囲内で一致するとの結果があり、現に、fcc鉄水素化物高温高圧中性子回折実験では水素誘起体積膨張に関して顕著な同位体効果は見られていない。そこで、本研究では高温下で分解して水素を放出する重水素化アンモニアボランを用いて試料の水素化をおこなった。Fe0.95Si0.05試料をhcp領域まで常温で加圧したのちに、加熱して水素源を分解、放出された水素をFe0.95Si0.05に固溶させて重水素化物を生成した。重水素化による体積膨張を確認したのちに、13.5 GPa、900 Kでの回折プロファイルを39時間かけて測定した。更に、温度を300 Kまで下げ、12.1 GPa、300 Kの回折プロファイルを47時間測定した。得られたプロファイルは、リートベルト法をもちいた結晶構造精密化をおこなった。一方、高温高圧下X線回折実験は12-27 GPa, 300-800 Kで行い、得られたデータにバーチ・マーナハンの状態方程式を適用させた。
以上の実験の結果、hcp相Fe0.95Si0.05の水素誘起体積膨張は純鉄の値に比べ、約15%大きいことが明らかになった。Tagawa et al. (2016) ではSiを含んだhcp鉄水素化物の圧縮曲線を用いて内核外核境界の密度を満たすようなSi, H量を見積もった。ただし、ここで見積もられた水素量はAntonov et al. (1998) による鉄重水素化物の急冷回収試料の水素誘起体積膨張が用いられている。本研究で得られた結果を用いると、核の水素量を著しく (内核では約5割減、Tagawa et al. (2016) らが推定している外核では約3割) 低下させることがわかった。これは、Siを含んだ系において単純にhcp構造を持つ純鉄の水素誘起体積膨張を用いて水素量を計算した場合、核の水素量の過大評価になることに他ならない。