2:30 PM - 2:45 PM
[R3-14] Quantitative chemical analysis of the fine textures of natural and synthetic materials using ATEM
Keywords:Analytical TEM, Quantitative chemical analysis, Absorption correction
1. はじめに
天然の鉱物及び合成による生成物の微細組織の化学組成分析には,分析電顕は欠かせない.特に,粒径の小さな事の多い高圧合成試料の解析にはなくてはならない.しかし,分析電顕による微細組織の吸収補正による定量化学分析は,未だ確立されているとは言えない.それは,測定点の吸収補正計算でどのような厚さを用いたら良いか,またその厚さは実際の厚さに等しいかどうかが,確立されてないためである.我々はこの問題を解決するために,化学組成と厚さの分かったガーネットとオリビン試料を用いて,吸収補正計算で各種の試みを行った.その結果,精度の良い定量化学組成値を得る方法を見い出したので,報告する.
2.分析電顕による定量化学分析の問題点
分析電顕による鉱物の定量化学分析には,CLiff-Lorimerの式(1975)にGoldsteinらの吸収補正項 kir (1977)を組み込んだ以下の式が広く用いられている.
Ci /Cr = kir (Xi /Xr) (i = 1, 2, , ,) (1)
ここに,Ci, Cr はそれぞれ i 及び参照元素 r (ケイ酸塩鉱物では Si が用いられる)の化学組成,Xi, Xr は i 及び r 元素の特性X線カウント数である.この kir に,測定点の薄膜の厚さが含まれる.最近の分析電顕に組み込まれた吸収補正計算のソフトウエアでは,ほぼこの計算式が用いられている.問題は,これらのソフトウエアで測定点の厚さを入力すれば,正しい化学組成が得られるかどうかであるが,我々が行った実験では,正しい化学組成値は得られなかった.実際の分析電顕による定量分析の運用をみてみると,面倒な測定点の厚さを求めることはせずに,いろいろな薄膜の厚さをソフトウエアに入力して定量計算結果を得ているのが現状である.
分析電顕による定量計算では,酸素も他の元素と同様に扱う方法(以下“酸素独立”と称す)と,酸素以外の元素を酸化物として扱い,酸素は独立の元素として扱わない方法(以下“酸化物”と称す)がある.前者の場合は,薄膜の厚さとして計算の結果得られる酸素や Si などの特定の元素の値が理想化学式に合うような厚さを選ぶ,あるいは計算の結果電荷中和が得られるような厚さを選ぶ(Van Cappellen and Doukhan, 1994)等のことが行われる.一方,後者の場合は,計算の結果得られる酸素やSiの値が理想化学式に合うような厚さを選ぶ等のことが行われる.しかし,いずれの場合もどのように測定点の厚さを選べば正確な化学組成が得られるかが確立されておらず,そのとき選んだ薄膜の厚さが実際の厚さと同じかどうかについても,ほとんど議論されてこなかった.
我々は,同じガーネットの試料を異なる200 kVの分析電顕システムA,Bで,またオリビンの試料をシステムBで定量化学分析を行った.その結果,いずれのシステムでも実測の厚さでは正確な化学組成は得られないことが判明した.
3.正確な化学組成を得る新たな解析法
我々は,分析電顕で正確な化学組成を得る新たな方法として,以下に述べるSSRを用いるのが有効であることを見い出した.
SSR(t) = [n1 - {n11(t) + . . }]2+ . . + [ni - {ni1(t) + . . + nij(t) + . . }]2+ . . (2)
ここに t は吸収補正計算で用いた測定点の厚さ,ni は分析試料の i サイトの理想原子%,ni1(t) + . .+ nij(t) + . . は吸収補正計算で得られた i サイトを占める各種イオンの原子%の和である.(2)式は,SSR(t)が試料のすべての原子サイトの niと計算で得られた i サイトのイオンの総和との差の二乗和を示す.このSSRの値が最小となる厚さ t での計算ソフトウエアの値が,最適な化学組成を与えることが判明した.
各試料についての計算の結果,”酸素独立”の計算の場合より”酸化物”の計算の場合の方が,SSRの最小値が低くなることが判明した.以下,詳細については,講演で述べる.
天然の鉱物及び合成による生成物の微細組織の化学組成分析には,分析電顕は欠かせない.特に,粒径の小さな事の多い高圧合成試料の解析にはなくてはならない.しかし,分析電顕による微細組織の吸収補正による定量化学分析は,未だ確立されているとは言えない.それは,測定点の吸収補正計算でどのような厚さを用いたら良いか,またその厚さは実際の厚さに等しいかどうかが,確立されてないためである.我々はこの問題を解決するために,化学組成と厚さの分かったガーネットとオリビン試料を用いて,吸収補正計算で各種の試みを行った.その結果,精度の良い定量化学組成値を得る方法を見い出したので,報告する.
2.分析電顕による定量化学分析の問題点
分析電顕による鉱物の定量化学分析には,CLiff-Lorimerの式(1975)にGoldsteinらの吸収補正項 kir (1977)を組み込んだ以下の式が広く用いられている.
Ci /Cr = kir (Xi /Xr) (i = 1, 2, , ,) (1)
ここに,Ci, Cr はそれぞれ i 及び参照元素 r (ケイ酸塩鉱物では Si が用いられる)の化学組成,Xi, Xr は i 及び r 元素の特性X線カウント数である.この kir に,測定点の薄膜の厚さが含まれる.最近の分析電顕に組み込まれた吸収補正計算のソフトウエアでは,ほぼこの計算式が用いられている.問題は,これらのソフトウエアで測定点の厚さを入力すれば,正しい化学組成が得られるかどうかであるが,我々が行った実験では,正しい化学組成値は得られなかった.実際の分析電顕による定量分析の運用をみてみると,面倒な測定点の厚さを求めることはせずに,いろいろな薄膜の厚さをソフトウエアに入力して定量計算結果を得ているのが現状である.
分析電顕による定量計算では,酸素も他の元素と同様に扱う方法(以下“酸素独立”と称す)と,酸素以外の元素を酸化物として扱い,酸素は独立の元素として扱わない方法(以下“酸化物”と称す)がある.前者の場合は,薄膜の厚さとして計算の結果得られる酸素や Si などの特定の元素の値が理想化学式に合うような厚さを選ぶ,あるいは計算の結果電荷中和が得られるような厚さを選ぶ(Van Cappellen and Doukhan, 1994)等のことが行われる.一方,後者の場合は,計算の結果得られる酸素やSiの値が理想化学式に合うような厚さを選ぶ等のことが行われる.しかし,いずれの場合もどのように測定点の厚さを選べば正確な化学組成が得られるかが確立されておらず,そのとき選んだ薄膜の厚さが実際の厚さと同じかどうかについても,ほとんど議論されてこなかった.
我々は,同じガーネットの試料を異なる200 kVの分析電顕システムA,Bで,またオリビンの試料をシステムBで定量化学分析を行った.その結果,いずれのシステムでも実測の厚さでは正確な化学組成は得られないことが判明した.
3.正確な化学組成を得る新たな解析法
我々は,分析電顕で正確な化学組成を得る新たな方法として,以下に述べるSSRを用いるのが有効であることを見い出した.
SSR(t) = [n1 - {n11(t) + . . }]2+ . . + [ni - {ni1(t) + . . + nij(t) + . . }]2+ . . (2)
ここに t は吸収補正計算で用いた測定点の厚さ,ni は分析試料の i サイトの理想原子%,ni1(t) + . .+ nij(t) + . . は吸収補正計算で得られた i サイトを占める各種イオンの原子%の和である.(2)式は,SSR(t)が試料のすべての原子サイトの niと計算で得られた i サイトのイオンの総和との差の二乗和を示す.このSSRの値が最小となる厚さ t での計算ソフトウエアの値が,最適な化学組成を与えることが判明した.
各試料についての計算の結果,”酸素独立”の計算の場合より”酸化物”の計算の場合の方が,SSRの最小値が低くなることが判明した.以下,詳細については,講演で述べる.