一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R3:高圧科学・地球深部

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R3P-03] 冷たいスラブにおけるポストアンチゴライト反応

*久保 友明1、吉田 真吾1、本田 陸人1、平本 雄大1、辻野 典秀2、柿澤 翔2、肥後 祐司2 (1. 九州大学、2. JASRI)

キーワード:放射光その場観察、高圧実験、脱水反応、深部スラブ

アンチゴライトはスラブかんらん岩における代表的な含水鉱物であり、沈み込みにともなうポストアンチゴライト反応は地球深部への水の輸送および(稍)深発地震の発生にとって重要である。その高圧相平衡に関する研究は多いが、特に深発地震が起こるような冷たいスラブ(thermal parameterが4000km以上、深さ240km付近で400-500℃)におけるポストアンチゴライト反応はあまりよくわかっていない。また金属カプセル等を用いた閉鎖系での実験や、出発試料に粉末や酸化物混合体を用いた実験が多く、それらのデータを用いて実際のスラブ条件下での反応プロセスやカイネティクスを議論することは難しい。我々は、冷たいスラブコアで実際に起っているポストアンチゴライト反応の実体、その反応にともなうDHMSおよび(無水)かんらん岩相への水の移動、それらのレオロジーへの影響等を明らかにするための実験研究を行っている。本発表では特に、深発地震を起こしうる冷たいスラブでのポストアンチゴライト反応プロセスとカイネティクスに着目し、圧力5-9GPa付近での予備的実験結果を報告する。
 実験はSPring-8のBL04B1およびBL05XUにおいてDIA型の高圧装置にMA6-6型装置を組み込んで行った。前者ではBM放射光と分光結晶を用いて得られた60keVの単色光により50-300秒毎の時分割測定、後者ではアンジュレータ放射光と多層膜ミラーを用いて得られた100keVの単色光により100msec毎の時分割測定を行った。実験条件は5-9GPa, 450-750度付近である。出発試料には長崎県川原木場産の比較的等粒状の天然アンチゴライト多結晶を直径1.4mmにコア抜きしたものを用い、それをNaCl媒体に埋め込んで金属カプセル等は用いない開放系で実験を行った。
 圧力6.5GPa付近までは、過去の研究と同様に、アンチゴライトがオリビンとタルク相に脱水分解していく反応が観察された。一方で約8GPa前後ではアンチゴライトがPhase Eと10Å相に分解する反応が新たに観察された。この反応は450度では約1時間で半分くらい進行、510度では約30分でおおよそ完了するペースであった。さらに610度ではPhase Eと10Å相からオリビンと高圧単斜輝石へのゆっくりとした脱水反応が観察された。一方で8GPa付近でアンチゴライトを直接700度以上の条件にもっていくと、始めの1秒前後で急速にPhase Eと10Å相の分解が起こり、その後比較的ゆっくりと数分以内のペースでオリビンと高圧単斜輝石に脱水分解する様子も観察された。
 今回新たに見いだされたアンチゴライトからPhase Eと10Å相への分解はほとんど脱水が起こっておらず、地震性低温スラブコアにおいてアンチゴライトの水をより深部へ輸送する重要な反応となる可能性も否定できない。今後カイネティクスも含めてより詳細な検討を行いスラブで存在できる可能性を探りつつ、このポストアンチゴライト反応がレオロジーに与える影響も検討していく。