一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R3:高圧科学・地球深部

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R3P-06] 近赤外線加熱法による回転式ダイヤモンドアンビルセルの高温条件の実現

*東 真太郎1、岡崎 啓史2、上杉 健太朗3、安武 正展3、夏井 文凛1、Jayawickrama Eranga2、野村 龍一4 (1. 東京工業大学、2. 広島大学、3. 高輝度光科学研究センター、4. 京都大学)

キーワード:回転式ダイヤモンドアンビルセル、高温高圧、近赤外加熱法

これまで地球科学における高圧(変形)実験のための様々な高温技術が開発されてきた。特にダイヤモンドアンビルセル(DAC)における高温技術は、外熱式抵抗加熱、内熱式抵抗加熱、レーザー集光加熱など、抵抗加熱の素材、形状やレーザ媒質も含めて多岐にわたっており、それらは目的や温度条件に合わせて使い分けられている。一方で、我々研究グループは超高圧変形実験のために開発した回転式DACに適応できる高温技術の開発に取り組んできた。回転式DACに応用できる高温技術にはいくつかの制限がある。例えば、応力や結晶選択配向(CPO)測定のための高輝度X線を回転軸に対して斜め入射させることから、ダイヤモンドアンビルの周囲に入射X線と回折X線の経路を確保する必要や、長時間の変形を行うために安定かつ試料室全体の均質な昇温が不可欠である。そこで我々研究グループでは、これらの要件を満たした加熱を行えるように、新たに回転式DAC試料部に近赤外線を集光する装置を導入した。本発表では、この近赤外線加熱装置を用いて、融点が既知の試料に対して加熱融解実験を行なった結果を報告する。本加熱実験は、回転式DACと近赤外線加熱装置をSPring-8(BL47XU)のビームライン上に設置して行われた。近赤外線加熱装置は、2対のハロゲンランプ、リフレクター、交流電源(2000 W)、温調器から構成され、リフレクターの内側には金メッキが施されている。実験中、ハロゲンランプとリフレクターはキュレットやガスケットに平行になるように、回転式DAC用の真空チャンバーに固定される。加熱する試料には、ディスク上に加工された銀(直径0.09 mm、融点961 ℃@大気圧)と粉末のMgOを用いた。試料はタングステンガスケットに空けられた直径約0.15 mmの穴に封入され、キュレットサイズ0.3 mmのダイヤモンドアンビルに挟みこまれて加熱された。温度測定には熱電対(R-type)を2対使用しており、1対は試料室外側のガスケットに限りなく近づけ、もう1対はダイヤモンドとガスケットに挟み込むことで測定を行なった。加熱実験中は真空引きをしつつ(<100 Pa)、電流、電圧、温度をモニタリングしながら、高輝度X線(36 keV)による試料部のXRD測定とラジオグラフィーによる撮像を行なった。加熱実験により、熱電対の温度が〜970 ℃に到達すると、それまで観察されていた銀の回折ピークが消失したことを確認できた。試料部全体をカバーするようにXRD測定を行なったが、銀の回折ピークを検出することはできなかったため、試料に用いた銀は均質に加熱され、融点を超えたことを示している。ラジオグラフィーによる撮像からは、加熱前には確認できていた銀の形状が融点以上の温度で確認できなくなったことに加え、銀の溶融によって試料室の形状が変形していることが確認された。他にも蛇紋石を用いた高圧加熱実験でも、安定領域の境界温度付近で回折ピークが消失し、脱水分解していることが確認された。以上の結果から、今回導入した近赤外線加熱装置は回転式DACを用いた高圧変形実験においても、必要条件(X線経路の確保、安定かつ均質な昇温)を満たせる有効な加熱法であると考えられる。