一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R3:高圧科学・地球深部

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R3P-07] 透過型電子顕微鏡内その場圧縮観察による応力測定と高圧相転移の可能性

*三宅 亮1、伊神 洋平1、野村 龍一1 (1. 京都大学)

キーワード:透過型電子顕微、高圧相転移、その場観察

【はじめに】材料科学の分野において、透過型電子顕微鏡内で荷重をかけ材料の圧縮試験や破壊のその場観察実験が多く行われている。このとき、試料の微小領域にはおおきな圧縮応力がかかっている。そこで、我々は電子顕微鏡内での圧縮実験をおこない、微小領域での応力を求め、高圧相転移のその場観察実験に取り組んでいる。三宅ほか(日本鉱物科学会2021年年会)では、電子回折図形から格子の圧縮率を求め、それをもとに微小領域での圧縮応力を求めた発表を行ったが、そのときは試料が封圧されていないなどの課題が残っていた。そこで本発表では、さらなる改良を行い実験を行ったので、その結果について報告を行う。
【試料と手法】試料は、ダイヤモンドおよびFeの単結晶を用いた。試料加工は集束イオンビーム加工装置(Thermo Fisher Scientific社製Helios NanoLab G3 CX)を用い、板状およびロッド状の試料を作製した。作製した試料に対して、透過型電子顕微鏡内でその場圧縮実験を荷重制御により行った。圧縮実験は、電界放射型透過型電子顕微鏡(JEOL社製 JEM-2100F)内で試料に対してダイヤモンド圧子を押し込むことが可能な専用ホルダ(Bruker社製 Hysitron PI95 TEM PicoIndenter)を使用して行った。実験は、20~1000 μNの荷重で行い、電子回折図形および、その2次元マッピング(4D-STEM, Diffraction mapping)を取得した。得られた回折図形から圧縮率を求め、圧縮応力(圧力)の推定を行った。 本発表では、以下の2実験について発表を行う。
1.ダイヤモンドのロッドを作製し、ダイヤモンドの板に押し付けて、最大圧縮応力を求める実験
2.厚さ約200nmのダイヤモンドの板を作製し、その断面に50~100nmの穴をあける。その後、その穴にFeを埋め、ダイヤモンドのロッドでそのFe試料を押す実験
【結果と考察】 1.ダイヤモンドロッドを用いた実験において、荷重1000 μNの圧縮実験では顕著な応力集中が発生し、ロッド先端の約20nm径の領域で圧縮方向に約17%もの格子の縮みが見られた。そこから約400 GPa以上の圧縮応力が局所的にかかっていることがわかった。その一方、圧縮方向と垂直な方向には、ほとんど変化しないことがわかった。
2.Feは、室温で約14 GPaで、bcc (α相) から hcp (ε相)へ相転移することが知られている。Fe(α相)をダイヤモンドの穴の中で圧縮する実験では、荷重200 μNでの圧縮の結果、Feの圧縮率から最大応力約14GPaの結果を得た。このとき、得られた電子回折図形を解析したところ、ダイヤモンドおよびFeのα相では指数がつかない反射が出現しており、これはFeのε相で矛盾がない反射であった。つまり、局所的にε相へ相転移したと考えられる。
課題として、圧子全体のクリープに伴い、測定中に試料から圧子がずれる、あるいは試料が壊れるなどが起きてしまうことが挙げられる。このための改良が、電子顕微鏡内での高圧実験を行う上での大きな課題である。