一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2023年9月15日(金) 09:00 〜 11:30 822 (杉本キャンパス)

座長:宇都宮 聡(九州大学)、横山 正(広島大学)、川野 潤(北海道大学)

09:45 〜 10:00

[R4-04] スメクタイト層間陽イオン交換選択係数の測定と分光学的キャラクタリゼーション

*野路 陽平1、福士 圭介2、長 勇一郎3,2、田畑 陽久3 (1. 金沢大・院自然、2. 金沢大、3. 東京大)

キーワード:スメクタイト

現在の火星は寒冷・乾燥化した惑星であるが、約40億年前は温暖な時期があり、表面では大規模な水循環が存在していたことが明らかとなっている(Wordsworth, 2016, Annual Review)。NASAの火星探査車パーサヴィアランスは、かつての湖であったジェゼロクレーターを探査している。ジェゼロクレーターには、湖成堆積物としてスメクタイト族のサポナイトなどの鉱物が存在することが確認されている(Ehlmann et al., 2008)。溶液中でサポナイト構造内の層間陽イオンは溶液内の陽イオンと交換しやすいという性質を持つ。したがって、サポナイトの層間陽イオン組成からかつて接触していた間隙水の水質を制約することが可能である(Fukushi et al., 2019)。サポナイトの層間陽イオン組成を水質に変換するためには、様々なイオン種のサポナイト層間への入りやすさを表す数値である選択係数を求める必要がある。特定のイオン種における選択係数から、サポナイトが接触していた水中のイオン濃度が推定できる。スメクタイトの陽イオン交換選択係数は古くから測定されているが、その多くは大陸地殻表層に存在するモンモリロナイトのものであり、火星など太陽系天体で水質変成作用によって生成したサポナイトではほとんど測定例がない。そこで本研究ではサポナイトによる陽イオン選択係数を実験的に求め、これまで報告されているスメクタイトの選択係数と比較することを目的とした。 実験はオーストラリア産サポナイト、 山形県月布産のモンモリロナイトであるクニピア-Fを使用した。イオン交換実験に先立ち層間陽イオンが完全Na型のスメクタイト懸濁液を作成した。遠心管に作成したNa⁺型スメクタイト懸濁液、溶液中のK⁺,Mg²⁺,Ca²⁺濃度が順に4–26 mM程度になるように、KCl溶液、またはMgCl₂溶液、またはCaCl₂を添加し、その後、全量が40 mLになるようにイオン交換水を添加した。作成した懸濁液を25℃の温度条件下で、24時間インキュベーター内でミックスローターにより攪拌し、反応させ、遠心分離機にて固相と液相に分離した。さらに、液相をろ過したものをICP-OESにてNa⁺, K⁺,Mg²⁺,Ca²⁺の濃度測定を行い、測定した陽イオン濃度からNa-K,Na-Mg2,Na-Ca2選択係数を求めた。固相は凍結乾燥をして、ラマン分光測定を行う。 実験の結果、さまざまな層間陽イオン組成条件のおけるモンモリロナイトのNa-K選択係数、Na-Mg²+選択係数、Na-Ca²+選択係数が見積もられた。モンモリロナイトのNa-K選択係数は層間陽イオンの割合によって大きく変化しなかったが、Na-Mg²選択係数とNa-Ca²+選択係数は層間陽イオンとしてNa⁺の含有率が増大に伴って選択係数の値が小さくなるという似た挙動を示した。Na-Mg²選択係数の方がNa-Ca²選択係数より少し低いという結果になった。発表ではサポナイトの各陽イオン選択係数の測定結果とモンモリロナイトとの違いを報告する予定である。 また、Mars2020の探査車パーサヴィアランスは遠隔でのラマン分光測定を行う装置を搭載しており、含水鉱物に対して詳細な分析を行うはずである(Wiens et al., 2021)。パーサヴィアランスの測定データから層間陽イオン組成を見積もる方法を確立するために、本研究では、実験室で作成した層間陽イオン種が既知なスメクタイトをパーサヴィアランス搭載のラマン分光装置を模擬した時間ゲートラマン分光法により測定する。ラマン分光測定を行い、吸収率の増減や、ピーク位置のシフトについて分析することによって、今後パーサヴィアランスが火星で測定したスメクタイトのラマン分光測定の結果から、火星のスメクタイトの層間陽イオン組成を決定しうる可能性について検討する。