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[R4-06] 魚類耳石の中心近傍に見られる特異な構造と化学組成
「発表賞エントリー」
キーワード:バイオミネラリゼーション、炭酸カルシウム、vaterite、結晶多形、TEM
魚類の内耳中に形成される耳石は塊状の炭酸カルシウム(CaCO3)でできており、体の傾き、加速度、音などを検知するセンサーとして使われる。一般的な硬骨魚類には礫石、扁平石、星状石と呼ばれる3種類の耳石があり、礫石と扁平石はaragonite、星状石はvateriteでできているが、これらの多形をどのように作り分けているかはわかっていない。本研究では魚類耳石における多形選択機構を解明するため、稚魚における形成初期の各耳石を採取し、結晶成長の起点となる耳石の中心近傍の構造や化学組成を主に透過電子顕微鏡によって明らかにした。 試料として金魚(Carassius auratus)の稚魚から直径20~50 μm程度の礫石、扁平石、星状石を採取し、集束イオンビーム装置によってその中心部を含む薄膜を作製し、透過電子顕微鏡によって観察した。その結果、礫石と扁平石の中心部では、複数の球状の物質が凝集した構造が見られた(図1、2)。制限視野電子回折ではこれらの球状の物質からは単結晶のcalciteで説明できるパターンが得られた。そしてその周囲から微細なaragonite結晶が放射状に成長していた。これに対して星状石の中心は密度の低い物質(おそらく有機物)と複雑に入り組んだほぼ単結晶のvateriteが見られ(図3)、その周囲に成長する結晶はこれと概ね同じ方位を持つvateriteのモザイク結晶となっていた。また、走査透過電子顕微鏡に装着したエネルギー分散型X線検出器によってこれらの耳石中心部の元素分布を調べた。C、O、Ca以外に礫石と扁平石では、球状の物質にMnが、その周囲にFが局在していた(図4、5)。一方で、星状石の中心付近ではMnは殆ど検出されず、Fのみが局在していた(図6)。このように耳石の中心近傍の構造や化学組成はaragoniteの礫石・扁平石とvateriteの星状石で全く異なっており、これらの多形の選択は結晶の起点となる物質の違いに起因する可能性が考えられる。