10:45 〜 11:00
[R4-07] 石灰華上を覆うバイオマットの変色物質と要因の解明
~バイオマット中の鉱物晶出と酸化~
キーワード:バイオマット、藍鉄鉱、白骨温泉
【はじめに】
長野県安曇白骨温泉湧出地点周辺に分布する石灰華は,表面が透明のバイオマットに覆われており,採取から時間が経過すると,紫色,赤紫色および水色に表面が変色する。石灰華の表面が着色したバイオマットで覆われている例はあるが,緑色から黒色などが多い(伊藤他,2002)。バイオマットの着色要因については,白色,茶色および緑色について考察されており,その色の違いは,バイオマットを構成する微生物の種類,クロロフィルおよび微生物が作り出す硫黄,水酸化鉄,方解石などの生体鉱物を反映していると報告されている(大野他,2000)。しかし,本研究対象のような鮮やかな色や,透明のバイオマットに採取後に色がつく要因については報告例がなく,メカニズムも解明されていない。以上より,本研究対象であるバイオマットの変色物資と要因を明らかにすることは,着色要因である生体鉱物の形成メカニズムについて解明することにつながる。本研究対象である石灰華上のバイオマットを形成したバクテリアは,細胞の表面が典型的な陰イオンの性質をもつため,可用性の金属イオンを,生体鉱物として多量に吸着する能力もつ(田崎,1991)。そのため,バクテリアの生体鉱物形成メカニズムを解明することは,可用性のイオンの固定メカニズムの解明につながり,自然環境における元素循環を理解する上で重要である。
【目的】
本研究では,変色の経過観察,電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)による有色部の組成分析および透過型電子顕微鏡(TEM)像観察と局所での組成分析を行うことで,変色物質の特定と,変色要因の解明を目的として研究を行った。
【結果】
本研究対象である変色した石灰華本体は白色から灰色を呈し,表面のバイオマットの一部が紫色,水色および赤紫色を呈している。各色の境界は不明瞭で,漸移的に変色している。実体顕微鏡観察下では,石灰華の粒状結晶の上に短径5 µm以下の繊維状の色のついたバイオマットが絡みついている様子が観察される。採取直後の石灰華を空気中と真空中に分けて保存し,経過観察を行った。採取直後の石灰華の表面に透明のバイオマットが観察される。空気中に保存した石灰華は約1ヶ月後に変色が始まり,バイオマットの色が徐々に濃くなっていく。透明のまま変色しないバイオマットも観察される。真空中に保存した石灰華は,空気中に保存した石灰華に比べて変色が遅く,約半年後に変色が始まる。
FE-EPMAを用いて,紫色,赤紫色,および水色のバイオマットの観察及び組成分析を行った。観察では,各色の形態的特徴に差異は無く,繊維状物質の中心に筒状の空洞が見られた。定性分析では,各色共通で石灰華(CaCO3)の構成元素であるCaの他に,N,P,SおよびClが検出された。また、各色の遷移金属元素の種類および強度比に違いが見られた。紫色および赤紫色のバイオマットはFeおよびMnを含み,両者はFeの強度比が異なる。水色のバイオマットはFe,Mnに加えTiを微量に含む 。
変色しなかった透明のバイオマットおよび変色した紫色のバイオマットから走査電子顕微鏡搭載集束イオンビーム加工装置(FIB-SEM)を用いて薄膜を切り出し,TEM像観察およびEDS分析による組成分析を行った。どちらのバイオマットも,主にC,N,O,SおよびClからなる有機物のマトリックスの中に,全体に散在する直径10 nm程度の微粒子が確認された。微粒子に構造は確認できなかった。透明のバイオマットの微粒子はSiおよびOにより構成され,一方紫色のバイオマットの微粒子はFeおよびPにより構成される。
【考察】
FE-EPMAの結果,バイオマットの色ごとに含まれる遷移金属元素の種類と強度比が異なることから,変色には遷移金属元素が関わる可能性が高い。TEMによる局所分析の結果,紫色のバイオマット中の微粒子の構成元素としてFeが検出された。この結果からバイオマットの変色物質は微粒子であると考察される。上記に加え,真空中に保存した試料では変色が遅かったことから,変色は遷移金属元素であるFeの酸化によるものである可能性が高いと考えた。FeとPを構成元素し,2価鉄が3価鉄に変化することで,色が透明から藍色~青緑色に変化する生体鉱物として,藍鉄鉱(Fe3(PO4)2・H2O)が知られており,本研究で確認した紫色のバイオマット中に存在するFeとPからなる微粒子は藍鉄鉱である可能性が考えられる。
長野県安曇白骨温泉湧出地点周辺に分布する石灰華は,表面が透明のバイオマットに覆われており,採取から時間が経過すると,紫色,赤紫色および水色に表面が変色する。石灰華の表面が着色したバイオマットで覆われている例はあるが,緑色から黒色などが多い(伊藤他,2002)。バイオマットの着色要因については,白色,茶色および緑色について考察されており,その色の違いは,バイオマットを構成する微生物の種類,クロロフィルおよび微生物が作り出す硫黄,水酸化鉄,方解石などの生体鉱物を反映していると報告されている(大野他,2000)。しかし,本研究対象のような鮮やかな色や,透明のバイオマットに採取後に色がつく要因については報告例がなく,メカニズムも解明されていない。以上より,本研究対象であるバイオマットの変色物資と要因を明らかにすることは,着色要因である生体鉱物の形成メカニズムについて解明することにつながる。本研究対象である石灰華上のバイオマットを形成したバクテリアは,細胞の表面が典型的な陰イオンの性質をもつため,可用性の金属イオンを,生体鉱物として多量に吸着する能力もつ(田崎,1991)。そのため,バクテリアの生体鉱物形成メカニズムを解明することは,可用性のイオンの固定メカニズムの解明につながり,自然環境における元素循環を理解する上で重要である。
【目的】
本研究では,変色の経過観察,電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)による有色部の組成分析および透過型電子顕微鏡(TEM)像観察と局所での組成分析を行うことで,変色物質の特定と,変色要因の解明を目的として研究を行った。
【結果】
本研究対象である変色した石灰華本体は白色から灰色を呈し,表面のバイオマットの一部が紫色,水色および赤紫色を呈している。各色の境界は不明瞭で,漸移的に変色している。実体顕微鏡観察下では,石灰華の粒状結晶の上に短径5 µm以下の繊維状の色のついたバイオマットが絡みついている様子が観察される。採取直後の石灰華を空気中と真空中に分けて保存し,経過観察を行った。採取直後の石灰華の表面に透明のバイオマットが観察される。空気中に保存した石灰華は約1ヶ月後に変色が始まり,バイオマットの色が徐々に濃くなっていく。透明のまま変色しないバイオマットも観察される。真空中に保存した石灰華は,空気中に保存した石灰華に比べて変色が遅く,約半年後に変色が始まる。
FE-EPMAを用いて,紫色,赤紫色,および水色のバイオマットの観察及び組成分析を行った。観察では,各色の形態的特徴に差異は無く,繊維状物質の中心に筒状の空洞が見られた。定性分析では,各色共通で石灰華(CaCO3)の構成元素であるCaの他に,N,P,SおよびClが検出された。また、各色の遷移金属元素の種類および強度比に違いが見られた。紫色および赤紫色のバイオマットはFeおよびMnを含み,両者はFeの強度比が異なる。水色のバイオマットはFe,Mnに加えTiを微量に含む 。
変色しなかった透明のバイオマットおよび変色した紫色のバイオマットから走査電子顕微鏡搭載集束イオンビーム加工装置(FIB-SEM)を用いて薄膜を切り出し,TEM像観察およびEDS分析による組成分析を行った。どちらのバイオマットも,主にC,N,O,SおよびClからなる有機物のマトリックスの中に,全体に散在する直径10 nm程度の微粒子が確認された。微粒子に構造は確認できなかった。透明のバイオマットの微粒子はSiおよびOにより構成され,一方紫色のバイオマットの微粒子はFeおよびPにより構成される。
【考察】
FE-EPMAの結果,バイオマットの色ごとに含まれる遷移金属元素の種類と強度比が異なることから,変色には遷移金属元素が関わる可能性が高い。TEMによる局所分析の結果,紫色のバイオマット中の微粒子の構成元素としてFeが検出された。この結果からバイオマットの変色物質は微粒子であると考察される。上記に加え,真空中に保存した試料では変色が遅かったことから,変色は遷移金属元素であるFeの酸化によるものである可能性が高いと考えた。FeとPを構成元素し,2価鉄が3価鉄に変化することで,色が透明から藍色~青緑色に変化する生体鉱物として,藍鉄鉱(Fe3(PO4)2・H2O)が知られており,本研究で確認した紫色のバイオマット中に存在するFeとPからなる微粒子は藍鉄鉱である可能性が考えられる。