一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R5:地球外物質

2023年9月16日(土) 09:00 〜 12:00 821 (杉本キャンパス)

座長:松本  恵 (東北大学)、山本 大貴(九州大学)、瀬戸 雄介(大阪公立大学)、橘 省吾(東京大学)

09:00 〜 09:15

[R5-01] ルチルの衝撃変形微細組織

*梅田 悠平1、永井 優馬1、富岡 尚敬2、関根 利守3、宮川 仁4、小林 敬道4、遊佐 斉4、奥地 拓生1 (1. 京大・複合研、2. 海洋研究開発機構、3. 中国高圧科学研究中心、4. 物質材料研究機構)

キーワード:ルチル、衝撃回収実験、変形、欠陥

惑星構成鉱物の衝撃変形特性に関する研究は、インパクトクレーターの岩石や隕石が経験した衝突履歴を読み解くために必要不可欠である。二酸化チタン(TiO2)は圧力・温度によって様々な結晶構造に変化し[1]、常圧安定相としてはルチルがある。自然界では、TiO2の多形がドイツ・リースクレーター[2]、月クレーター[3]、コンドライト隕石[4]などから見つかっている。これらの衝撃を受けた岩石試料の組織分析から、積層欠陥などの衝撃変成組織やα-PbO2型構造への高圧相転移が確認されているが、その形成機構や高圧下での変形特性は十分に理解されていない。TiO2の衝撃変成についての実験的研究は、主に衝撃回収実験によって行われてきた。単結晶ルチルの衝撃回収試料には、強い剪断応力によって積層欠陥が形成され、その近傍でα-PbO2型構造への相転移が確認された[5]。一方で、高空隙率の粉末のルチルでは、同様の衝撃圧力においても積層欠陥および高圧相は確認されなかった[6]。このことから、出発試料の空隙に起因する衝撃温度の違いは、TiO2の衝撃変成機構や高圧相転移機構に大きな影響を与えることが示唆されている。
 本研究では、物質・材料研究機構の一段式火薬銃を用いて衝撃回収実験を行った。空隙の効果を検討するために、出発試料にはルチルの単結晶とペレット化した粉末(空隙率30%)を準備した。両者の衝撃圧力は30 GPaで行った。衝撃圧縮実験後、回収した試料について、X線回折法(XRD)による結晶相同定、透過型電子顕微鏡(TEM)による微細組織観察を行った。単結晶試料のXRDとTEM分析の結果、ルチルの{101}面に積層欠陥が卓越していることが明らかとなり、塑性変形における支配的な転位のすべり系が{101}<01>であったことが示唆された。また、一部のルチルがα-PbO2型構造へ相転移していることが確認され、その結晶方位関係は[010]Rt//[001]α-PbO2であった。トポロジー解析により、この相転移は中間構造としてフッ化カルシウム型構造を経由して、無拡散型の機構により起きた可能性が高いことが明らかとなった。一方、衝撃圧縮後の粉末試料は、ルチル相のみから成り、絡み合った転位を持つ粒子と転位がほとんどない再結晶化した粒子から構成されていることが分かった。積層欠陥はほとんど確認されなかった。粉末ルチルについては、すべり系{110}[001]が卓越した可能性が高いことが明らかとなった。

参考文献[1] Nishio-Hamane et al., Physics and Chemistry of Minerals, (2010).[2] El Goresy et al., Earth and Planetary Science Letters, (2001). [3] Hou et al., IOP Conf. Series: Earth and Environmental Science, (2021).[4] Xie et al., Acta Geochimica, (2023).[5] Kusaba et al., Physics and Chemistry of Minerals, (1988).[6] Tan et al., Journal of Physics: Condensed Matter, (2018).