9:15 AM - 9:30 AM
[R5-02] Microstructures of calcite deformed by 3-D shock experiments
Keywords:Calcite, Shock experiments, Dislocations, Transmission electron microscopy
【はじめに】衝突現象は太陽系の形成に基礎的なプロセスの一つである。この履歴を読み解くために隕石鉱物の衝撃実験が行われ、その回収試料と隕石試料の変形・相転移組織の比較から、衝撃変成度の評価が行われてきた [1] 。含水コンドライトの主要鉱物の一つである炭酸塩鉱物については、変形双晶・転位・分解が圧力指標として用いられているが、10GPa以下の低圧力領域では、明確な指標が存在しないのが現状である [2]。このような中我々は、3次元的に衝撃が減衰する、天然の衝突現象に近いジオメトリでのカルサイトの衝撃実験を行った[3]。その回収試料の偏光顕微鏡観察とiSALEコードを用いた圧力分布の見積もりに基づき、2.5–3.0 GPaを超える圧力では、粒子に波状消光が卓越することを明らかにした[3]。波状消光の観察は、簡便に薄片全体の低圧力条件の評価を行える利点がある。一方で、サンプルリターン試料の様に加工による試料損失を可能な限り避けたい微小・希少試料に対しては、観察が困難である。そこで本研究では、微小領域加工・観察が可能なFIB-TEM法によりカルサイトの変形微細組織を行い、その圧力効果を探ることを目的とした。
【実験】3次元衝撃実験は、Carara産大理石を直径30mm、長さ24mmの円筒形に加工し、チタン製コンテナに封入した後、惑星探査研究センターの2段式軽ガス銃を用いて、直径4.8mmのポリカーボネート球を衝突させ、衝突点近傍にてピーク圧力13GPaを発生させた [3]。本研究では、新たにピーク圧力が16 GPaでの実験も行った。これら2試料から研磨薄片を作成し、偏光顕微鏡にて光学性の観察を行った。更に、高知コア研究所のFIB(Hitachi SMI-4050)を用いて、超薄切片を作成し、透過電子顕微鏡(TEM: JEOL JEM-ARM200F)による微細組織観察を行った。非衝撃圧縮のカルサイトについても、同様にTEM観察を行った。
【結果】非衝撃圧縮のカルサイトは、偏光顕微鏡下でシャープな消光を示す。TEMによる観察では、双晶ラメラに加えて転位が観察され、その平均密度は1.4 x109 (1/cm2)であった。1–2 GPaの衝撃圧力を受けたカルサイト粒子は、非衝撃圧縮試料と同様にシャープな消光を示した。転位密度は4.1–7.4 x108 (1/cm2) で、非衝撃圧縮のカルサイトと顕著な差は認められない。一方4 GPaの試料は明瞭な波状消光を示す。TEM観察では、自由転位に加えて1µm以下の幅で絡まり帯状になった転位組織が観察された。「帯」以外の領域の転位密度は9.2x108 (1/cm2)で、2GPa以下の粒子と同程度である。同様に波状消光を示す5 GPaの試料では転位が絡まった領域が広く分布し、7–16GPaの試料では、切片の全領域で高密度に転位が絡まった組織を持つ。上記いずれの試料においても、制限視野電子線回折はシャープな単結晶パターンを示し、結晶亜粒界は認められなかった。
【考察】本研究で観察された自由転位の密度は圧力に依存せず、非圧縮のカルサイトが元々持っている組織に近いと考えられる。一方、波状消光を示す粒子が急増する約3GPa以上の圧力条件では、高密度に絡まった転位網が発達することが明らかになった。ユゴニオ弾性限界(1.2–1.4 GPa)を越える圧力条件では、大理石中の個々のカルサイト粒子は塑性変形をおこすが、歪速度が極めて早いために、特定の結晶面に転位の形成が集中すると考えられる。更に高い圧力条件では、結晶方位の依存性は小さくなり、絡まった転位が粒子全体に形成される。高密度転位歪によるミクロンスケールでの結晶方位の変化は、電子線回折で特定できないほど小さいものの、数百ミクロンスケールでは優位な変化量を持ち、偏光顕微鏡にて観察される波状消光を作り出している可能性が高い。
小惑星リュウグウの表層粒子は強い水質変成を受けカルサイトを含むが、その衝撃変形については、まだ詳しい報告はない。最近、微小断層や硫化物高圧相等の評価から、リュウグウの経験した圧力は約2GPaと見積られた [4]。今後カルサイトの転位組織観察を行うことで、衝撃圧力が更に制約できると期待できる。
文献 [1] Stöffler et al. (2008) MaPS, 53, 5–49. [2] Langenhorst (2002) Bull. Czech. Geol., Sur.,77, 265–282. [3] Kurosawa et al. (2022) JGR. Planet., 127, e2021JE007133. [4] Tomioka et al. (2023) Nat. Astron., 7, 669–677.
【実験】3次元衝撃実験は、Carara産大理石を直径30mm、長さ24mmの円筒形に加工し、チタン製コンテナに封入した後、惑星探査研究センターの2段式軽ガス銃を用いて、直径4.8mmのポリカーボネート球を衝突させ、衝突点近傍にてピーク圧力13GPaを発生させた [3]。本研究では、新たにピーク圧力が16 GPaでの実験も行った。これら2試料から研磨薄片を作成し、偏光顕微鏡にて光学性の観察を行った。更に、高知コア研究所のFIB(Hitachi SMI-4050)を用いて、超薄切片を作成し、透過電子顕微鏡(TEM: JEOL JEM-ARM200F)による微細組織観察を行った。非衝撃圧縮のカルサイトについても、同様にTEM観察を行った。
【結果】非衝撃圧縮のカルサイトは、偏光顕微鏡下でシャープな消光を示す。TEMによる観察では、双晶ラメラに加えて転位が観察され、その平均密度は1.4 x109 (1/cm2)であった。1–2 GPaの衝撃圧力を受けたカルサイト粒子は、非衝撃圧縮試料と同様にシャープな消光を示した。転位密度は4.1–7.4 x108 (1/cm2) で、非衝撃圧縮のカルサイトと顕著な差は認められない。一方4 GPaの試料は明瞭な波状消光を示す。TEM観察では、自由転位に加えて1µm以下の幅で絡まり帯状になった転位組織が観察された。「帯」以外の領域の転位密度は9.2x108 (1/cm2)で、2GPa以下の粒子と同程度である。同様に波状消光を示す5 GPaの試料では転位が絡まった領域が広く分布し、7–16GPaの試料では、切片の全領域で高密度に転位が絡まった組織を持つ。上記いずれの試料においても、制限視野電子線回折はシャープな単結晶パターンを示し、結晶亜粒界は認められなかった。
【考察】本研究で観察された自由転位の密度は圧力に依存せず、非圧縮のカルサイトが元々持っている組織に近いと考えられる。一方、波状消光を示す粒子が急増する約3GPa以上の圧力条件では、高密度に絡まった転位網が発達することが明らかになった。ユゴニオ弾性限界(1.2–1.4 GPa)を越える圧力条件では、大理石中の個々のカルサイト粒子は塑性変形をおこすが、歪速度が極めて早いために、特定の結晶面に転位の形成が集中すると考えられる。更に高い圧力条件では、結晶方位の依存性は小さくなり、絡まった転位が粒子全体に形成される。高密度転位歪によるミクロンスケールでの結晶方位の変化は、電子線回折で特定できないほど小さいものの、数百ミクロンスケールでは優位な変化量を持ち、偏光顕微鏡にて観察される波状消光を作り出している可能性が高い。
小惑星リュウグウの表層粒子は強い水質変成を受けカルサイトを含むが、その衝撃変形については、まだ詳しい報告はない。最近、微小断層や硫化物高圧相等の評価から、リュウグウの経験した圧力は約2GPaと見積られた [4]。今後カルサイトの転位組織観察を行うことで、衝撃圧力が更に制約できると期待できる。
文献 [1] Stöffler et al. (2008) MaPS, 53, 5–49. [2] Langenhorst (2002) Bull. Czech. Geol., Sur.,77, 265–282. [3] Kurosawa et al. (2022) JGR. Planet., 127, e2021JE007133. [4] Tomioka et al. (2023) Nat. Astron., 7, 669–677.