09:30 〜 09:45
[R5-03] 分化隕石中シリカ鉱物共存組織のFIB-TEM観察
キーワード:シリカ、分化隕石、相転移、熱履歴、トリディマイト
シリカにはいくつかの多形が存在し,分化隕石中にはシリカ多形が様々な組み合わせで共存している。シリカの各相はメルトやガラスからの結晶化か,結晶化後の相転移で形成されたと考えられる。常温常圧では石英が安定相であるため,多形の多様な組み合わせは,主に相転移時の温度と速度論に支配されている。そのため,シリカの組み合わせと隕石の熱履歴の対応関係が指摘されており(e.g., Ono et al. 2019; 2021),各相の相転移速度や相転移条件を精査することで冷却速度計としての利用が期待されている。本研究では分化隕石中のシリカの形成過程を精査するため,昨年度の単斜-擬直方トリディマイト共存組織(MC-trd, PO-trd)の観察(竹之内他2022)に引き続き,様々な組み合わせのシリカについて集束イオンビーム(FIB)による切り出しと透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。
試料加工と観察は京都大学大院理学研究科のFIB(Helios NanoLab G3 CX)とTEM(JEM-2100F)を用いた。試料はクリストバライト(Crs)と擬直方トリディマイト(PO-trd)の共存組織を持つ安山岩質の分化隕石Erg Chech 002(EC002)とCrsと石英(Qtz)の共存組織を持つユークライト隕石のStannern,単斜トリディマイト(MC-trd)とQtzの共存組織を持つユークライト隕石のMillbillillieを用いた。
EC002ではCrsとPO-trdの直線的な境界が観察され,境界には他形の曹長石と自形のチタン鉄鉱が分布していた。また,境界面と平行に(110)Crs//(110)PO及び [1-1-1]Crs//[001]POの方位関係が見られた。このtrdはアルカリ長石の包有物を含んでおり,回折像では超構造を示す回折点が観察されなかった。StannernではCrsとQtz間に明瞭な方位関係は今のところ観察されておらず,球状のCrsがQtz中に存在する組織が観察された。両者ともクロム鉄鉱やチタン鉄鉱の包有物を含み,Crsには積層欠陥や双晶が見られた。MillbillillieではMC-trd中に半自形で存在するQtzを観察したところ,複数のQtz粒子が同じ結晶学的方位で存在していた。QtzとMC-trd間に方位関係があると考えられるが,MC-trdの指数をつけることができていないため,今後電子後方散乱回折法(EBSD)も組み合わせて解析を進める予定である。また,Millbillillie中のQtz粒子には特徴的な毛鉤状の割れを持つ粒子が存在するため,それらも同様に観察を行った。毛鉤状の割れを持つQtzはいくつかの結晶で形成されており,各単結晶の中で弱い劈開面{10-11}に平行に割れが入っていることが確認された。
本研究によるとCrsとQtzの共存組織は方位関係を持たない形成過程をもつ。CrsとQtzの共存組織の比較的単純な形成過程としては,全体がCrsとして結晶化し,一部がQtzへ相転移する場合と,一部がCrsとして結晶化し,その後残ったメルトまたは固化したガラス部がQtzとして結晶化する場合などが考えられる。CrsからQtzへの相転移が方位関係を持つかは未確認であり,今回の結果だけでは形成過程を制約するには至らないが,球状のCrsの存在から後者の形成過程を経ている可能性が高いと考えられる。これに対し,CrsとPO-trd間,QtzとMC-trd間には方位関係が存在し,それらの多形は結晶方位関係を持つような形成過程を経ている。特にCrsとPO-trdはSiO4四面体が作る六員環シートの積層方向である[111]Crsと[001]POが平行であり,僅かな変位で相転移した組織であることが示唆された。これはCrsからtrdへの相転移途中でクエンチした組織と考えられ,EC002が比較的高温なtrdの安定領域から急に冷却したことを示唆している。MCとQtzの共存組織は,Crs+trdやCrs+Qtzの共存組織からCrsがQtzまたはtrdへと相転移する場合や,すべてMC-trdとなってから一部がQtzへ相転移する場合などが考えられる。前者の場合,QtzとMCの方位関係を説明するためにはCrsとQtzの共存組織または相転移時にも方位関係がある必要がある。一方,MC-trdは加熱実験により毛鉤状の割れを伴うQtzへ相転移するという報告(Ono et al. 2021)もあるため,MC-trdとQtzの共存組織はMC-trdからのQtzへの相転移により形成された可能性が高い。
本研究により一部のシリカ多形の組み合わせには明瞭な方位関係が存在し,相転移で形成されることが明らかとなった。今後も観察・実験を通して各シリカ組み合わせの形成過程を明らかにしていく。
試料加工と観察は京都大学大院理学研究科のFIB(Helios NanoLab G3 CX)とTEM(JEM-2100F)を用いた。試料はクリストバライト(Crs)と擬直方トリディマイト(PO-trd)の共存組織を持つ安山岩質の分化隕石Erg Chech 002(EC002)とCrsと石英(Qtz)の共存組織を持つユークライト隕石のStannern,単斜トリディマイト(MC-trd)とQtzの共存組織を持つユークライト隕石のMillbillillieを用いた。
EC002ではCrsとPO-trdの直線的な境界が観察され,境界には他形の曹長石と自形のチタン鉄鉱が分布していた。また,境界面と平行に(110)Crs//(110)PO及び [1-1-1]Crs//[001]POの方位関係が見られた。このtrdはアルカリ長石の包有物を含んでおり,回折像では超構造を示す回折点が観察されなかった。StannernではCrsとQtz間に明瞭な方位関係は今のところ観察されておらず,球状のCrsがQtz中に存在する組織が観察された。両者ともクロム鉄鉱やチタン鉄鉱の包有物を含み,Crsには積層欠陥や双晶が見られた。MillbillillieではMC-trd中に半自形で存在するQtzを観察したところ,複数のQtz粒子が同じ結晶学的方位で存在していた。QtzとMC-trd間に方位関係があると考えられるが,MC-trdの指数をつけることができていないため,今後電子後方散乱回折法(EBSD)も組み合わせて解析を進める予定である。また,Millbillillie中のQtz粒子には特徴的な毛鉤状の割れを持つ粒子が存在するため,それらも同様に観察を行った。毛鉤状の割れを持つQtzはいくつかの結晶で形成されており,各単結晶の中で弱い劈開面{10-11}に平行に割れが入っていることが確認された。
本研究によるとCrsとQtzの共存組織は方位関係を持たない形成過程をもつ。CrsとQtzの共存組織の比較的単純な形成過程としては,全体がCrsとして結晶化し,一部がQtzへ相転移する場合と,一部がCrsとして結晶化し,その後残ったメルトまたは固化したガラス部がQtzとして結晶化する場合などが考えられる。CrsからQtzへの相転移が方位関係を持つかは未確認であり,今回の結果だけでは形成過程を制約するには至らないが,球状のCrsの存在から後者の形成過程を経ている可能性が高いと考えられる。これに対し,CrsとPO-trd間,QtzとMC-trd間には方位関係が存在し,それらの多形は結晶方位関係を持つような形成過程を経ている。特にCrsとPO-trdはSiO4四面体が作る六員環シートの積層方向である[111]Crsと[001]POが平行であり,僅かな変位で相転移した組織であることが示唆された。これはCrsからtrdへの相転移途中でクエンチした組織と考えられ,EC002が比較的高温なtrdの安定領域から急に冷却したことを示唆している。MCとQtzの共存組織は,Crs+trdやCrs+Qtzの共存組織からCrsがQtzまたはtrdへと相転移する場合や,すべてMC-trdとなってから一部がQtzへ相転移する場合などが考えられる。前者の場合,QtzとMCの方位関係を説明するためにはCrsとQtzの共存組織または相転移時にも方位関係がある必要がある。一方,MC-trdは加熱実験により毛鉤状の割れを伴うQtzへ相転移するという報告(Ono et al. 2021)もあるため,MC-trdとQtzの共存組織はMC-trdからのQtzへの相転移により形成された可能性が高い。
本研究により一部のシリカ多形の組み合わせには明瞭な方位関係が存在し,相転移で形成されることが明らかとなった。今後も観察・実験を通して各シリカ組み合わせの形成過程を明らかにしていく。