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[R5-04] 玄武岩と火星模擬土壌の短時間加熱実験による火星隕石の衝撃溶融の検証
「発表賞エントリー」
キーワード:火星隕石、シャーゴッタイト、加熱実験、レゴリス、マスケリナイト
はじめに:火星隕石は岩石・鉱物学的特徴からシャーゴッタイト、ナクライト、シャシナイトの大きく3種類に分類される。このうちシャーゴッタイトには、EETA 79001など火星での強い衝撃によって形成した衝撃溶融物(shock melt)を豊富に含むものが存在する(Bogard and Johnson, 1983)。また、これらの衝撃溶融物には、火星の土壌(レゴリス)成分が含まれている可能性があることが長年議論されてきた(e.g., Rao et al., 2018, 2021; Walton et al., 2010)。しかし、実際の衝撃溶融は岩石と微粒の土壌との間の反応であり、そのような再現実験はこれまで実施されていない。そこで我々はシャーゴッタイトの衝撃溶融を想定して、玄武岩バルク試料と火星の模擬土壌を用いた短時間の加熱実験を行った。特に、火星土壌候補として火星土壌模擬物質(JSC Mars-1)と火星探査機により火星表層で豊富に発見されている鉄明礬石粉末(e.g., Tosca rt al., 2005; King et al., 2010)を用いた検証を行い、本学会ではその経過を報告する。
方法:本研究の加熱実験では、カンラン石フィリック質シャーゴッタイトを模した、ハワイ島産のピクライト玄武岩を使用し、火星土壌の模擬物質としてJSC Mars-1(Allen et al., 1997)と鉄明礬石粉末(スペインEl Descuido 鉱山)の2種類を使用した。2枚の玄武岩スライス(約1 x 1 x 0.2 cm)の間にいずれかの模擬土壌粉末を挟み、全体をPt箔で包み、これを白金るつぼに入れ、酸素分圧制御縦型電気炉(株式会社シリコニット製)を用いて1100~1300度における10秒~60分までの加熱を行った。実際の衝撃溶融は高温・高圧下で起こっているが、高圧の継続時間よりも残留熱の寄与する時間の方がはるかに長く、溶融の主要因と考えられるため(e.g., Takenouchi et al., 2017)、本実験では圧力はあえて考慮せずに高温のみを模擬した実験とした。加熱実験は全圧1気圧下で行い、H2とCO2の混合ガスにより火星マグマ固化時の酸素雰囲気に近いlogfO2=QFM-1に設定した。各実験時間後には室温で急冷し、実験生成物を断面が見えるように切断して研磨片を作製した。岩石組織は反射光学顕微鏡で観察し、鉱物およびガラス組成の分析はEPMA(JEOL JXA-8900L及びJEOL JXA-8530F、いずれも東京大学)により行った。
結果:表1にJSC Mars-1を用いた実験の結果を示す。1150度の5分、10分、60分加熱ではシャーゴッタイトの衝撃溶融に似た組織が生成した。また、元の玄武岩に比べて輝石と斜長石の量が減少しており、一部の結晶は完全に、残りの結晶でもリムの溶融が確認された。JSC Mars-1粉末は60分間で完全に溶融し、5分間と10分間で部分的に溶融した。また、異なる位置に生成したガラスの組成分析では有意な組成差が確認されず、加熱中に融液が試料内部に広く運ばれ、メルト組成が均一化したことが示唆された。1分以上の加熱によって生成したメルト組成は輝石及び斜長石の混合物(輝石:斜長石=3:2)に近いものであったが、1分未満の加熱では輝石のみが溶融しており、JSC Mars-1や斜長石の溶融はほとんど観察されなかった。1125度での鉄明礬石粉末の実験では、10秒間の加熱で部分的に溶融し、30秒と1分間の加熱では完全に溶融していた。
考察と結論:本研究から、カンラン石フィリック質シャーゴッタイトを模擬したピクライト玄武岩のバルク試料と火星模擬土壌との混合に対応する溶融温度条件は、〜1150度であることが判明した。一般的に火星隕石をはじめとする玄武岩組成では、斜長石は輝石よりも溶融温度が低いことから、斜長石の方がより早く溶融すると予想されるが、加熱時間が1分より短いと斜長石はほとんど溶融せず、輝石の寄与が大きい溶融物が形成された。このような短時間の加熱における斜長石の溶融しにくさは、斜長石溶融のカイネティクスに依存すると考えられるが、シャーゴッタイトに含まれるマスケリナイトは溶融することなく非晶質化したことが指摘されており(e.g., Milton and De Carli, 1963; Fritz et al., 2005)、本実験の結果は衝撃変成によるマスケリナイトの形成に関連していると考えられる。1分以下の短時間溶融実験では、JSC Mars-1に比べて鉄明礬石粉末の方がより溶融しやすかった。これは、これらの粒径の違い(JSC Mars-1:0.3mm, 鉄明礬石粉末:0.1mm)に関連していると考えられるが、衝撃溶融時の火星土壌の取り込みをよりよく理解するために追加の実験(特に高温で短時間の実験)を行う予定である。
方法:本研究の加熱実験では、カンラン石フィリック質シャーゴッタイトを模した、ハワイ島産のピクライト玄武岩を使用し、火星土壌の模擬物質としてJSC Mars-1(Allen et al., 1997)と鉄明礬石粉末(スペインEl Descuido 鉱山)の2種類を使用した。2枚の玄武岩スライス(約1 x 1 x 0.2 cm)の間にいずれかの模擬土壌粉末を挟み、全体をPt箔で包み、これを白金るつぼに入れ、酸素分圧制御縦型電気炉(株式会社シリコニット製)を用いて1100~1300度における10秒~60分までの加熱を行った。実際の衝撃溶融は高温・高圧下で起こっているが、高圧の継続時間よりも残留熱の寄与する時間の方がはるかに長く、溶融の主要因と考えられるため(e.g., Takenouchi et al., 2017)、本実験では圧力はあえて考慮せずに高温のみを模擬した実験とした。加熱実験は全圧1気圧下で行い、H2とCO2の混合ガスにより火星マグマ固化時の酸素雰囲気に近いlogfO2=QFM-1に設定した。各実験時間後には室温で急冷し、実験生成物を断面が見えるように切断して研磨片を作製した。岩石組織は反射光学顕微鏡で観察し、鉱物およびガラス組成の分析はEPMA(JEOL JXA-8900L及びJEOL JXA-8530F、いずれも東京大学)により行った。
結果:表1にJSC Mars-1を用いた実験の結果を示す。1150度の5分、10分、60分加熱ではシャーゴッタイトの衝撃溶融に似た組織が生成した。また、元の玄武岩に比べて輝石と斜長石の量が減少しており、一部の結晶は完全に、残りの結晶でもリムの溶融が確認された。JSC Mars-1粉末は60分間で完全に溶融し、5分間と10分間で部分的に溶融した。また、異なる位置に生成したガラスの組成分析では有意な組成差が確認されず、加熱中に融液が試料内部に広く運ばれ、メルト組成が均一化したことが示唆された。1分以上の加熱によって生成したメルト組成は輝石及び斜長石の混合物(輝石:斜長石=3:2)に近いものであったが、1分未満の加熱では輝石のみが溶融しており、JSC Mars-1や斜長石の溶融はほとんど観察されなかった。1125度での鉄明礬石粉末の実験では、10秒間の加熱で部分的に溶融し、30秒と1分間の加熱では完全に溶融していた。
考察と結論:本研究から、カンラン石フィリック質シャーゴッタイトを模擬したピクライト玄武岩のバルク試料と火星模擬土壌との混合に対応する溶融温度条件は、〜1150度であることが判明した。一般的に火星隕石をはじめとする玄武岩組成では、斜長石は輝石よりも溶融温度が低いことから、斜長石の方がより早く溶融すると予想されるが、加熱時間が1分より短いと斜長石はほとんど溶融せず、輝石の寄与が大きい溶融物が形成された。このような短時間の加熱における斜長石の溶融しにくさは、斜長石溶融のカイネティクスに依存すると考えられるが、シャーゴッタイトに含まれるマスケリナイトは溶融することなく非晶質化したことが指摘されており(e.g., Milton and De Carli, 1963; Fritz et al., 2005)、本実験の結果は衝撃変成によるマスケリナイトの形成に関連していると考えられる。1分以下の短時間溶融実験では、JSC Mars-1に比べて鉄明礬石粉末の方がより溶融しやすかった。これは、これらの粒径の違い(JSC Mars-1:0.3mm, 鉄明礬石粉末:0.1mm)に関連していると考えられるが、衝撃溶融時の火星土壌の取り込みをよりよく理解するために追加の実験(特に高温で短時間の実験)を行う予定である。