10:45 AM - 11:00 AM
[R5-07] Nano-CT and TEM analysis of impact melt splashes and microcraters on asteroid Ryugu samples
Keywords:asteroid (162173) Ryugu, micrometeoroid impact, impact melt splash
探査機はやぶさ2が持ち還った小惑星リュウグウ粒子は、主にMgに富む層状ケイ酸塩からなり、Fe-Ni硫化物、マグネタイト、炭酸塩、アパタイトを含み、CIコンドライトに類似した化学的・岩石鉱物学的特徴をもつ[e.g., 1,2]。これらの粒子のなかには、表面に微隕石衝突によって生成したと考えられるマイクロクレータや衝突溶融メルトが見られ、小惑星表層で宇宙空間への暴露を経験したと考えられるものが見つかっている[e.g., 3]。本研究では、このような粒子のうち、A0067、A0094粒子について観察を行い、多数のマイクロクレータと衝突溶融メルトを確認した。本発表では、このうち比較的大きな衝突溶融メルト(A0067-melt#1, A0094-melt#1)とマイクロクレータ(A0067-crater#1)について、走査型電子顕微鏡(SEM)、放射光X線ナノCT(7-8 keV)、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察・分析を行った結果を報告する。 A0067-melt#1は径~20 µmの液滴形状を示し、ケイ酸塩ガラス部分とその上に付着する液滴状のFeに富む硫化物(径~10 µm)からなる。これを集束イオンビーム(FIB)を用いてA0067粒子本体から切り出し、ナノCT/TEMによる断面観察を行ったところ、ケイ酸塩ガラスと硫化物の境界は滑らかで、ガラス内部には径~7 µmの気泡が含まれていた。ケイ酸塩ガラスは均質でMg-Feに富む組成(Mg#:~0.64)をもつ。硫化物部分は、トロイライトとペントランダイトからなるマトリクス中にデンドライト様のα-(Fe-Ni)粒子(200-300 nm)を多数含んでおり、Fe-S-Niメルトの急冷により形成したと考えられる。 A0094-melt#1は砂時計様の形状を示し(~15×5 µm)、2つのケイ酸塩ガラス液滴が接合して固化したものと考えられる。これについても同様にナノCT/TEM観察を行ったところ、内部は不均質で、径2-5 µm程度の大きさのFeに富む領域(Mg#: ~0.52-0.55)とFeに乏しい領域(Mg#:~0.79)からなるまだら状組織を示した。両領域の境界は不鮮明で、どちらの中にも多数の気泡(径<2 µm)および少量の低結晶炭素質物質(径0.3-1 µm)が見られた。低結晶炭素質物質は多孔質で、微小なFe-Ni硫化物粒子やMg-Feケイ酸塩ガラスを含むものもあり、彗星塵中に見られる始原的有機物によく似た組織をもつ[e.g., 4]。また、Feに富む領域中には多数の球形~不定形のFe-Ni硫化物(径<500nm)、カンラン石(径1-2 µm)粒子が見られた。 A0067-crater#1は径~5 µm、深さ~4 µmのすり鉢形状を示し、クレータ壁面は衝突溶融メルトによって覆われていた。メルトは壁面に平行に発達したケイ酸塩ガラス層と硫化鉄層からなる互層構造を示す(層厚30-250 nm)。硫化鉄層は主にトロイライト粒子(径200-500 nm)からなる。ケイ酸塩ガラス層は、大部分を占めるMg-Feに富むケイ酸塩ガラス部(Mg#: ~0.72)とクレータ壁面沿って分布するシリカに富むガラス部からなり、両者は滑らかで明瞭な境界をもつ。また、どちらのケイ酸塩ガラスも気泡(径<200 nm)と硫化鉄粒子(径<100 nm)を含む。産状および化学組成から、これらのケイ酸塩ガラスは、ケイ酸塩メルトの液相不混和により分離したものではなく、もともと異なる組成をもつケイ酸塩がガラス転移点付近の温度で混合した可能性が高い。 本研究の衝突溶融メルトは、微隕石衝突時の加熱により、リュウグウ表層物質や衝突体が溶融急冷し形成したと考えられる。A0094-melt#1に見られるまだら状の組織は、衝突溶融メルト中に複数の起源の異なる物質が混合している可能性を示唆する。衝突溶融メルトの大部分を占めるMg-Feケイ酸塩ガラスの組成は、上述のようにMg#にバリエーションをもつが、これらの組成は(Si+Al)–Mg–Fe三角ダイヤグラム上で、CI(太陽)組成[5]とFe頂点を結ぶラインの延長上にプロットされる。このことは、本研究の衝突溶融メルトがいずれも同じ材料物質から生成したことを示唆する。発表では、これらの材料物質の起源および衝突溶融メルトの形成過程について議論する。 [1] Yokoyama et al. (2022) Science. [2] Nakamura et al. (2022) Science. [3] Noguchi et al. (2022) Nat. Astronom. [4] Matrajt et al. (2012) MAPS. [5] Lodders (2021) Space Sci. Rev.