一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R5:地球外物質

2023年9月16日(土) 09:00 〜 12:00 821 (杉本キャンパス)

座長:松本  恵 (東北大学)、山本 大貴(九州大学)、瀬戸 雄介(大阪公立大学)、橘 省吾(東京大学)

11:45 〜 12:00

[R5-11] コンドライトのサブタイプ3.0分類の検討

*木村 眞1、ワイスバーク マイケル2、山口 亮1 (1. 国立極地研究所、2. ニューヨーク市立大学)

キーワード:コンドライト、分類

コンドライトは始源的隕石とされるが、大部分のものは様々な程度に熱変成作用や水質変成作用などの二次的作用を被っている。このような作用を反映する岩石鉱物学的特徴などにより、コンドライトは岩石学的タイプ1−6に分類されている。その中でもタイプ3コンドライトは二次的作用の影響が少ない最も始源的なものとされている。しかしながらタイプ3コンドライトも軽微な熱変成作用や水質変成作用を受けており、その程度は様々である。そのため熱変成作用を反映するサブタイプがタイプ3コンドライトには提唱され、熱ルミネッセンス法によりサブタイプ3.0から3.9に細分類されている [1]。それらの中ではサブタイプ3.0コンドライトが二次的作用の影響が最少で始原的な特徴をほぼ保存しているものと考えられている。このため母天体集積以前のコンドライト構成物質の岩石鉱物学的特徴や化学組成・同位体組成、年代などを明らかにするためにサブタイプ3.0コンドライトは最も重要な試料となっている。
 サブタイプ3.0コンドライトの分類に関しては様々な基準がさらに検討されてきた。本研究では多種の鉱物データを文献からまとめ、このように重要な試料であるサブタイプ3.0の分類基準を主として岩石鉱物学的観点から再検討した。特に着目したものはカンラン石の微量元素分布と長石中の[ ]Si4O8およびMgO成分である。これらの含有量からサブタイプ3.0とサブタイプ3.1以上を区別することが可能である。またFe-Ni金属の組織および化学的特徴によってもサブタイプ3.0は他と区別することが可能である [2]。加えて純粋なクロム鉄鉱の存在、Amoeboid olivine inclusion中のFeに富むオリビンのリム幅、ラマン分光分析などによってもサブタイプ3.0は特徴づけられる。またサブタイプ3.0のコンドライトはサブタイプ3.1以上のものに比べてAl-Mg年代やコンドルール中の構成鉱物の酸素同位体組成が乱されていないといった特徴も保持している。なおサブタイプ3.0はオリビン中のCr組成 [3] やFe-Ni金属の組織 [2] によりさらに3.00-3.10に区分されているが、このような細分類は他の鉱物あるいは化学的特徴では困難である。
 一方、水質変成作用を受けたCM及びCRコンドライトは岩石鉱物学的特徴によりサブタイプ 3.0-2.0 (あるいは1)に分類されている [4, 5]。しかしながら、上記のような鉱物組成に基づいてサブタイプ3.0と≤2.9を区別することは困難である。また同位体組成などでも区別は困難である。したがって、サブタイプ3.0と≤2.9を区別するために次の基準を提案する。1)タイプ3.0コンドライトでは、主要なケイ酸塩鉱物(カンラン石、輝石、斜長石)、金属鉄、及び硫化鉱物は水質変成作用による組織上の変化を光学顕微鏡あるいはSEMスケールでは示さない。2)難揮発性包有物やコンドルール中では水質変成作用に弱いとされるメリライトや斜長石は変質の特徴を全く示さない。これらはサブタイプ≤2.9では変質し存在量も減少する。3)最も水質変成作用に弱いコンドルール中のガラスはサブタイプ3.0では大部分が変質しないで残っているが、サブタイプ≤2.9では変質し、存在量は減少する。なお酸素を含むプレソーラー粒子やマトリックス中の非晶質物質の存在度はサブタイプ3.0と≤2.9の区分と調和的である。
 サブタイプ3.0はすべてのコンドライトグループで確認されているわけではない。CI, CV, CK, R, H, EH, ELグループではサブタイプ3.0は報告されていない。サブタイプ3.0が存在しないことは、主に母天体におけるコンドライトグループ間の二次的作用の程度の違いを反映していると思われる。

文献: [1] Sears et al. 1980. Nature 287: 791-795. [2] Kimura et al. 2008. MAPS 43: 1161-1177. [3] Grossman and Brearley. 2005. MAPS 40: 87-122. [4] Rubin et al. 2007. GCA 71: 2361-2382. [5] Kimura et al. 2020. Polar Sci. 26: 100565.