一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2023年9月16日(土) 10:15 〜 12:00 820 (杉本キャンパス)

座長:湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

10:15 〜 10:30

[R6-01] 東南極リュツォ・ホルム複合岩体の天文台岩に産する変花崗岩類をもたらした火成活動

*亀井 淳志1、市川 もも1、外田 智千2、谷 健一郎3、北野 一平4、馬場 壮太郎5、Setiawan Nugroho6、Nantasin Prayath7、Dashbaatar Davaa-ochir8、本吉 洋一2 (1. 島根大学、2. 国立極地研究所、3. 国立科学博物館、4. 北海道大学、5. 琉球大学、6. Universitas Gadjah Mada、7. Kasetsart University、8. Mongolian University of Science and Technology)

キーワード:変花崗岩、天文台岩、リュツォ・ホルム複合岩体、東南極

原生代にはKenorland (約2.7~2.4 Ga),Columbia (約1.8~1.5 Ga),Rodinia (約1.2~0.7 Ga),Pannotia (約6.0 Ga)の超大陸が相次いだ(Hoffman, 1991など).超大陸研究は若いPannotiaで進むがKenorland~Rodiniaには北アメリカ・北ヨーロッパが中心で(Goodge et al., 2008など),その「外側」に未解明が多い.そこで我々は,この「外側」にあたる東南極リュツォ・ホルム複合岩体(全長約450km)の変花崗岩研究を進めている.最近,本岩体のジルコンU-Pb年代より約2.5 Ga, 1.85 Ga, 1.0 Gaの火成活動が浮き彫りとなったが(Dunkley et al., 2020),成因や活動場の情報は未だ限られる.本報告では当岩体の天文台岩に産する変花崗岩類の記載的・年代学的特徴について述べる.
 天文台岩は氷床沿岸部に約3×1 km2の範囲で露出し,基盤は層状黒雲母普通角閃石片麻岩とミグマタイト質黒雲母普通角閃石片麻岩を主体とする(Shiraishi et al., 1985).これらはザクロ石黒雲母片麻岩や角閃岩を伴い,小規模なドーム状花崗岩や岩脈も散在する.我々はミグマタイト質黒雲母普通角閃石片麻岩の露岩域に変花崗岩類を認め,桃色変花崗岩14試料と灰色変トーナル岩3試料を採取した.桃色変花崗岩は主に石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母で構成され,灰色変トーナル岩は主に石英,斜長石,黒雲母で構成される.両者とも片麻状構造が明瞭で,鏡下における火成岩組織は残していない.
 両変花崗岩類は中カリウム系列のカルクアルカリ組成をもち,SiO2量は68~78 wt%で比較的高い.MORBで規格化したスパイダー図にはNbとTiに負異常があり,LIL元素に富む.コンドライトで規格化した希土類元素パターンにはEu負異常があってLREEにやや富む.Pearce et al. (1984)のRb vs Y+Nb判別図では火山弧型花崗岩となる.  ジルコンのU-Pb年代では桃色変花崗岩の206Pb/ 238U比と207Pb/ 235U比の年代値が約950~560 Maを示し,ほぼ全てコンコーディア曲線に一致する.ただしTh/U比が0.2以上の粒子は780 Maより古く,その中心値は約890 Maである.ジルコンCL像は暗くて明瞭さに欠けるが,プリズム状の累帯構造を確認できる.これらより火成作用は~890 Ma頃であり,若い粒子は変成作用の影響を受けていると推測される.この様な年代極性はTakamura et al. (2020)が天文台岩の苦鉄質グラニュライトからも報告している(高Th/U:808~614 Ma,低Th/U:582~481 Ma).一方,灰色変トーナル岩は同コンコーディア図で約550 Maに分析点が集中し,2点のみ古い年代値を示した.ただし古い粒子はコンコーディア曲線から外れる.CL像は暗くて判読しにくいが不規則な同心円状のものが多い.約550 Maの粒子群は全てTh/U比が0.2以下であるため変成年代を示す可能性が高い.ここでは760 Ma~550 Maを変成作用に関連すると考えており,これはTakamura et al. (2020)やKitano et al. (2023)が当地の苦鉄質グラニュライトもしくは準片麻岩から報告した620~530 Maの変成年代と矛盾しない.両変花崗岩類より得たSr・Nd同位体比組成を890 Maで補正したイプシロン図では,プロットがバルクアースよりもやや枯渇した領域に入る.このことから変花崗岩類の形成場はやや未成熟な火山弧と解釈される.
 天文台岩での変成作用と年代の解析は最近充実しつつある.従来,リュツォ・ホルム岩体の変成作用は時計回りのP-T経路とされ(Motoyoshi et al., 1989;Hiroi et al., 1991),Takamura et al. (2020)も天文台岩の準片麻岩解析でこれを支持した.しかしBaba et al. (2023)は同地の準片麻岩から反時計回り経路を見出し,既存研究と比較して,地質構造レベルの異なる複数レイヤーの存在を提案した.一方,ジルコンU-Pb年代ではTakamura et al. (2018)やKitano et al. (2023)による準片麻岩のデータに3330~900 Maの砕屑性ジルコンがあるが,本論の変花崗岩類やTakamura et al. (2018)の苦鉄質グラニュライトにはそれが無い.この様な状況より,天文台岩は小露岩ながら複数の異なる地質履歴を持つ原岩が寄せ集まり,Pannotia超大陸期に620~530 Maの変成作用を様々な経路で経たレイヤーが接合して現在に至ると考えられる.Rodinia超大陸以前の位置づけは単純でないが新たなデータを示しながら議論したい.