一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2023年9月16日(土) 10:15 〜 12:00 820 (杉本キャンパス)

座長:湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

10:45 〜 11:00

[R6-03] ミュオグラフィー観測が明かすオマーンオフィオライトの海洋地殻ーマントルの密度構造

*海野 進1、田中 宏幸2、オラー ラズロ2、バルガ デジュー4、森下 知晃1、平松 良宏1、草野 有紀3 (1. 金沢大学、2. 東京大学、3. 産業技術総合研究所、4. ウイグナー物理学研究所)

キーワード:ミュオグラフィー、オマーンオフィオライト、海洋地殻ーマントル、モホ遷移帯、密度構造

海洋リソスフェアは地震波の反射面と速度構造によって地殻(第1~3層)とマントル(第4層)に分けられる。第1層―2層境界は堆積物と基盤岩の境界に対応する。一方,第2層―3層境界(上部―下部地殻境界)と第3層ー4層境界(モホ面)は,観測の困難さから構成する地質・岩相の実体という基本的な理解も十分ではない。従来,オフィオライトの地質と比較して第2,3,4層はそれぞれ岩脈群,ハンレイ岩,カンラン岩に対比されてきた。しかし,第2―3層境界を貫通した唯一の深海掘削504B孔では岩脈群の中程に境界が位置し,変質と空隙率の減少のためとされたa。ハンレイ岩まで貫通した1256D孔では第2―3層境界は未到達であるb。モホ面の掘削は次期IODPのフラッグシップ研究課題であり,モホール計画の最重要ターゲットであるが,未だに達成されていない。従って,オフィオライトとの比較が地震波速度構造と地質の対応を理解するための唯一の手がかりとなる。とりわけ世界最大で最も保存状態がよいオマーンオフィオライトは高速拡大地殻・マントルのアナログとして注目されてきた。 海底構造探査によれば,海底下モホは明瞭な反射面や多重反射面,不明瞭なものなど多様であるc。オマーンオフィオライトの“モホ”に相当する岩相境界は遷移帯であり,マントルカンラン岩から下部地殻ハンレイ岩まで構成岩石が漸移する。海嶺軸セグメント中心ではダナイトーハンレイ岩が互層する厚いモホ遷移帯が発達するd。マグマが乏しいセグメント端ではモホ遷移帯は薄い。これが観測されるモホの多様性を生み出した可能性がある。 マグマ供給率が高い海嶺軸セグメント中心はマグマの貫入付加だけで地殻が形成・拡大し,地殻全体が高密度となる。そのためバルク密度の勾配が変わる第2層―3層境界は,岩脈群―ハンレイ岩境界よりも下位の上部ハンレイ岩―集積岩境界となる可能性がある。一方,セグメント端では地殻の拡大量をまかなう十分なマグマがないため,マグマの貫入付加で生じる下部地殻は薄く,上部地殻は断層によって破壊・引き延ばされ,低密度で厚くなる。このようにマグマ供給率と呼応してモホ遷移帯や地殻の地質構造・バルク密度構造は海嶺軸セグメントに沿って変化するe,f。 従来,掘削コアやオフィオライトの岩石試料の弾性波速度から海洋地殻~マントルの速度構造が推定されてきたg,h。しかし,数cm大の試料スケールは地震波トモグラフィーの解像度(>~1 km)とは大きく異なる上,岩相は<数mスケールで鉛直・水平方向に変化する。亀裂や破砕帯の3次元分布の把握は困難であるため,弾性波速度への影響は考慮されない。そのため岩石試料から推定される地殻~マントルの速度構造は実際の海底構造探査の結果とは乖離している可能性がある。 金沢大学,東大地震研,ハンガリーウイグナー物理学研究所,オマーンエネルギー鉱物省は共同して,オマーンオフィオライトの地殻―マントル境界,上部―下部地殻境界,第2A-2B層境界に相当する岩相境界について,海底構造探査データと直接対比可能な100 m~kmスケールのバルク密度構造をミュオグラフィーによってイメージ化する国際共同プロジェクトを今秋から実施するi。本講演ではプロジェクトの概要と予備調査の結果について紹介する。 a. Detrick, R. et al. 1994 Nature, 370, 288–290; b. Ildefonse, B. et al. 2014 Developments in Marine Geology, 7, Elsevier, Amsterdam, 449–505; c. Ohira, A. et al. 2017 Earth, Planets and Space, 476, 111–121; d. 荒井章司・阿部なつ江 2008 地学雑誌, 117, 110–123; e. 海野 進・草野有紀 2021.地学雑誌 130, 599 – 614, doi:10.5026/jgeography.130.599; f. Umino S. et al. 2021 Sci. Dril. 29, 69 – 82; g. Christensen, N.I. and Smewing, J.D. 1981 J. Geophys. Res., 86, 2545–2555; h. Katayama, I. et al. 2020 J. Geophys. Res., 125, e2019JB018698; i. 海野 進ほか 2023 J-DESCニュースレター, 16, 30–31
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