一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2023年9月16日(土) 10:15 〜 12:00 820 (杉本キャンパス)

座長:湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

11:00 〜 11:15

[R6-04] 岩船閃緑岩の成因

「発表賞エントリー」

*山崎 陽生1,2、江島 輝美1,2、昆 慶明2 (1. 信州大・理、2. 産総研)

キーワード:閃緑岩、マグマ成因、岩船岩体 、筑波山地

岩船岩体は,茨城県城里町に位置する深成岩体であり,その周辺には,領家帯および山陽帯の東縁部にあたる 八溝山地および筑波産地の深成岩類が分布している。後期白亜紀から古第三紀は,西南日本において深成岩類の形成が活発であった年代であり,この年代のマグマ形成場を明らかにすることは,日本列島の地殻形成史を解明する上で重要である。西南日本東縁部の後期白亜紀から古第三紀の火成活動は,斑れい岩と花崗岩の成因については報告されているが(Wang et al., 2021),閃緑岩の成因については報告されていない。岩船岩体は,西南日本東縁部の閃緑岩の中では地表露出面積が大きく,代表的な閃緑岩体である。したがって,岩船閃緑岩の初生メルトの成因を明らかにすることは,後期白亜紀から古第三紀のマグマ形成場をより詳細に理解するために必要である。そこで本研究では,岩船閃緑岩の初生メルトの成因を議論する。
岩船岩体は,閃緑岩と小規模に分布する花崗岩から構成される深成岩体である。岩船閃緑岩は,構成鉱物および量比から主岩相である閃緑岩と直方輝石を含む直方輝石閃緑岩に区分される。閃緑岩中の直方輝石および単斜輝石の鉱物化学組成はそれぞれEn42.4–52.4Fs44.9–48.9Wo2.2–3.2,En31.5 – 43.5Fs18.7–24.4Wo37.7–45.7であり,直方輝石閃緑中のものはそれぞれEn52.0–56.5Fs40.8–46.5Wo1.5–3.1,En35.9 –38.8Fs16.3–18.3Wo43.4–47.8である。閃緑岩のSiO2含有量(56.99–58.61 wt%)は,直方輝石閃緑岩の値(54.75–54.90 wt%)と比較して高い値を示す。C1-コンドライト(McDonough and Sun, 1995)で規格化した[La]N/[Yb]N,[Yb]Nは,閃緑岩はそれぞれ5.49-5.99,14.8-18.4,直方輝石閃緑岩は5.03-5.13,13.4-14.7であり,両者はともに重希土類元素に枯渇していない特徴を持つ。
岩船岩体の閃緑岩のなかでも直方輝石閃緑岩は,最もSiO2含有量が低く,輝石の En成分が高い特徴を持つ。この直方輝石閃緑岩から単斜輝石および斜長石を分別することで岩船閃緑岩の組成変化が説明できるため(山崎ほか, 2023),直方輝石閃緑岩の化学組成が岩船閃緑岩の中で最も未分化であり,岩船閃緑岩の初生メルト組成に最も近い値であると考えられる。そこで,岩船岩体の直方輝石閃緑岩組成が,岩船閃緑岩の初生メルトの組成であるとして,以下の考察を行う。 
閃緑岩の初生メルトの成因として,マントルかんらん岩の部分溶融によって生じた玄武岩質マグマの結晶分化作用 もしくは玄武岩質な下部地殻の部分溶融によって生じた安山岩質マグマが挙げられる。
岩船閃緑岩の初生メルトの成因を考察するにあたり,岩船閃緑岩形成時の上部マントルおよび下部地殻のSr同位体比を推定した。岩船岩体の近傍に分布し,かつ同時期に活動した深成岩類で,先行研究(Wang et al., 2021)において,マントルかんらん岩の部分溶融に由来することが報告されている斑れい岩(筑波山地の斑れい岩)および下部地殻の部分溶融に由来することが報告されている花崗岩(筑波山地の花崗岩)のSr同位体初生値(SrI)を,岩船閃緑岩が活動した時期の上部マントルおよび下部地殻のSr同位体比であると仮定した。考察に使用したSrI値は,Arakawa and Takahashi, (1989), Shibata and Ishihara (1979)および 柴田・高木(1989)らにより報告されたものを,U-Pb年代(Wang et al., 2021; 山崎ほか,2023)で補正したものを用いた。 岩船閃緑岩のSrIは,形成時の上部マントルのSr同位体比とは一致しない。一方,形成時の下部地殻のSr同位体比は誤差の範囲で岩船閃緑岩のSrIと一致することから,岩船閃緑岩の初生メルトは下部地殻の部分溶融で形成した可能性が高いと考察される。
次に,下部地殻の部分溶融で岩船閃緑岩の初生メルト組成が生じるかを検討した。直方輝石閃緑岩が重希土類元素に枯渇していない特徴を示すことおよび下部地殻の温度(Coinde, 2005)から,岩船閃緑岩形成時の下部地殻は,約0.8 GPaで水に飽和していない環境であったと考えられる。この条件を満たす玄武岩の部分溶融実験(Rapp and Watson, 1995)で形成したメルトの化学組成は,直方輝石閃緑岩の全岩化学組成とほぼ一致する。
したがって,岩船閃緑岩の初生メルトは下部地殻の部分溶融で形成された可能性が最も高いと結論される。