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[R6P-03] アダカイト質マグマの大陸地殻浅部への貫入・定置機構:北上山地,堺ノ神深成岩体を例として
「発表賞エントリー」
キーワード:フレアアップ、(非)アダカイト質マグマ、空間的岩石学的特徴、P-T履歴、t-T履歴
島弧-海溝系の沈み込み帯で生じるカルクアルカリ~ショショナイト質マグマの形成は,大陸地殻の発達・進化に大きく寄与することが報告されている(例えば,Gill, 1981; 巽, 2004).このような島弧-海溝系ではマグマの生成量が増加する時期「フレアアップ(Chapman et al., 2021)」が生じており,大陸地殻の発達・進化を理解する上でフレアアップを把握する必要がある.
北上山地の深成岩類は島弧-海溝系のマグマ活動によって形成され,125~110 Maの年代を示すことが知られている(沢田,2018).さらに白亜紀砕屑性ジルコンのU-Pb年代から,約112 Maにピークを持つフレアアップによって北上山地の深成岩類が形成されたことが報告されている(Pastor-Galán et al., 2021).これに加えて,北上山地の深成岩ではアダカイト由来の岩石の産出が確認されている(土屋,2015).つまり,北上山地の深成岩類はカルクアルカリ~ショショナイト質マグマである非アダカイト質マグマとアダカイト質マグマの両方から形成され,白亜紀フレアアップは非アダカイト質マグマだけではなく,アダカイト質マグマとの関連性も示されてきた.そのため,島弧-海溝系の沈み込み帯における白亜紀フレアアップを理解する上で,アダカイト質マグマと非アダカイト質マグマ活動の解明は重要である.北上山地の深成岩類はアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの両方から形成されるため,島弧-海溝系の白亜紀フレアアップの理解するモデルとして妥当な地域である.特に,アダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの貫入・定置機構(特にマグマの貫入・上昇,定置,固化に至るまでの冷却過程,貫入速度)は不明瞭であり,この解明はフレアアップ期の大量のマグマ供給に由来する大陸地殻の発達・進化の理解につながる.
北上山地に産する深成岩類の多くは白亜紀フレアアップに形成された岩体である.しかし,岩石学的特徴の違い(特にアダカイト質岩の有無)から土屋ほか (2015)では岩体を2つのタイプに分類,異なる貫入・定置機構を有すると論じている.1つが非アダカイト質マグマ単独で形成される岩体(例えば久喜岩体など)で,もう1つがアダカイト質マグマを中心として形成された岩体であり,中心部にアダカイト質岩,周囲に非アダカイト質岩の累帯構造を示す岩体(例えば遠野岩体など)である.一方,我々の露頭調査や岩石学的研究により,堺ノ神深成岩体はアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマによって形成された岩体であり,中心部がアダカイト質岩の産出を伴うため後者のタイプに類似するものの,明瞭な累体構造を呈さないことが分かっている.このことから,これまでの2つの分類とは外れる岩体である.我々は白亜紀フレアアップのアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマで形成され,土屋ほか (2015)のモデルに該当しない堺ノ神岩体を研究対象とする.このような堺ノ神岩体をモデルとすることで,白亜紀フレアアップ期のアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの貫入・定置機構の解明を行う.
この岩体において岩石学的研究と年代学的研究を実施した.岩石学的研究ではサンプル112個を疎がないように,岩体の標高差の異なる露頭から採取し,岩体内における広域の空間的岩石学的特徴(露頭情報,モード,全岩化学組成)を取得した.これらの結果から,堺ノ神深成岩体は5つの岩相に区分される(図1).これに加え,ホルンブレンド粒子内の同一地点の化学組成から,地質温度計・圧力計に基づき圧力と温度条件を同時に導出し,圧力-温度履歴(P-T)履歴を構築した.このP-T履歴をアダカイト質マグマ(温度・圧力範囲:740~842℃,133~151 MPa)と非アダカイト質マグマ(温度・圧力範囲:708~934℃,151~594 MPa)で求めた.一方で,年代学的研究では学習院大学のLA-ICP-MSを用いて,ジルコンU-Pb年代・Ti濃度同時定量を実施した.U-Pb年代からはジルコンの結晶化年代,Ti濃度からは結晶化温度を鉱物中の同一地点から同時に定量し,時間-温度(t-T)履歴を構築した.このt-T履歴をアダカイト質マグマ(年代・温度範囲:145~113 Ma,736~971℃)と非アダカイト質マグマ(年代・温度範囲:144~114 Ma,827~1066℃)で求めた.本報告では,これらP-T履歴とt-T履歴を組み合わせることでマグマの貫入・上昇,定置,固化に至るまでの冷却過程,およびマグマの定性的な貫入速度の違いの議論を行う.なお,本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(JPJ007597)の成果の一部である.
北上山地の深成岩類は島弧-海溝系のマグマ活動によって形成され,125~110 Maの年代を示すことが知られている(沢田,2018).さらに白亜紀砕屑性ジルコンのU-Pb年代から,約112 Maにピークを持つフレアアップによって北上山地の深成岩類が形成されたことが報告されている(Pastor-Galán et al., 2021).これに加えて,北上山地の深成岩ではアダカイト由来の岩石の産出が確認されている(土屋,2015).つまり,北上山地の深成岩類はカルクアルカリ~ショショナイト質マグマである非アダカイト質マグマとアダカイト質マグマの両方から形成され,白亜紀フレアアップは非アダカイト質マグマだけではなく,アダカイト質マグマとの関連性も示されてきた.そのため,島弧-海溝系の沈み込み帯における白亜紀フレアアップを理解する上で,アダカイト質マグマと非アダカイト質マグマ活動の解明は重要である.北上山地の深成岩類はアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの両方から形成されるため,島弧-海溝系の白亜紀フレアアップの理解するモデルとして妥当な地域である.特に,アダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの貫入・定置機構(特にマグマの貫入・上昇,定置,固化に至るまでの冷却過程,貫入速度)は不明瞭であり,この解明はフレアアップ期の大量のマグマ供給に由来する大陸地殻の発達・進化の理解につながる.
北上山地に産する深成岩類の多くは白亜紀フレアアップに形成された岩体である.しかし,岩石学的特徴の違い(特にアダカイト質岩の有無)から土屋ほか (2015)では岩体を2つのタイプに分類,異なる貫入・定置機構を有すると論じている.1つが非アダカイト質マグマ単独で形成される岩体(例えば久喜岩体など)で,もう1つがアダカイト質マグマを中心として形成された岩体であり,中心部にアダカイト質岩,周囲に非アダカイト質岩の累帯構造を示す岩体(例えば遠野岩体など)である.一方,我々の露頭調査や岩石学的研究により,堺ノ神深成岩体はアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマによって形成された岩体であり,中心部がアダカイト質岩の産出を伴うため後者のタイプに類似するものの,明瞭な累体構造を呈さないことが分かっている.このことから,これまでの2つの分類とは外れる岩体である.我々は白亜紀フレアアップのアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマで形成され,土屋ほか (2015)のモデルに該当しない堺ノ神岩体を研究対象とする.このような堺ノ神岩体をモデルとすることで,白亜紀フレアアップ期のアダカイト質マグマと非アダカイト質マグマの貫入・定置機構の解明を行う.
この岩体において岩石学的研究と年代学的研究を実施した.岩石学的研究ではサンプル112個を疎がないように,岩体の標高差の異なる露頭から採取し,岩体内における広域の空間的岩石学的特徴(露頭情報,モード,全岩化学組成)を取得した.これらの結果から,堺ノ神深成岩体は5つの岩相に区分される(図1).これに加え,ホルンブレンド粒子内の同一地点の化学組成から,地質温度計・圧力計に基づき圧力と温度条件を同時に導出し,圧力-温度履歴(P-T)履歴を構築した.このP-T履歴をアダカイト質マグマ(温度・圧力範囲:740~842℃,133~151 MPa)と非アダカイト質マグマ(温度・圧力範囲:708~934℃,151~594 MPa)で求めた.一方で,年代学的研究では学習院大学のLA-ICP-MSを用いて,ジルコンU-Pb年代・Ti濃度同時定量を実施した.U-Pb年代からはジルコンの結晶化年代,Ti濃度からは結晶化温度を鉱物中の同一地点から同時に定量し,時間-温度(t-T)履歴を構築した.このt-T履歴をアダカイト質マグマ(年代・温度範囲:145~113 Ma,736~971℃)と非アダカイト質マグマ(年代・温度範囲:144~114 Ma,827~1066℃)で求めた.本報告では,これらP-T履歴とt-T履歴を組み合わせることでマグマの貫入・上昇,定置,固化に至るまでの冷却過程,およびマグマの定性的な貫入速度の違いの議論を行う.なお,本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(JPJ007597)の成果の一部である.