一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R6P-05] 鉱物中に分布する物質移動に資する内部構造の三次元的な評価: 土岐花崗岩体のカリ長石中の微小孔

*野中 麻衣1,2、湯口 貴史3 (1. 山形大学、2. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、3. 熊本大学)

キーワード:微小孔、カリ長石、物質移動、三次元的評価、土岐花崗岩

花崗岩は日本列島に普遍的に分布しており,石油や天然ガスをはじめとした資源の地下貯蔵の場である深部地質領域として活用されている。地下貯蔵では,貯蔵物を長期的・安定的にかつ外部に漏らさずその場に留める必要がある。このため,地質環境の将来的な安全評価は不可欠であり,花崗岩中の物質移動に関する研究はしばしば行われてきた(野原ほか, 2015)。しかし,鉱物およびその物質移動特性や経路に着目した研究は乏しい。本研究では,花崗岩の主たる造岩鉱物であるカリ長石を研究対象とし,分離した鉱物試料を用いて,a)カリ長石の内部構造の三次元的な分布を記載,その量を定量し,物質移動経路となり得る微小孔の定量的な評価を行うこと,b)a)を実施するための手法の構築の 2 点を目的とした。
研究対象である土岐花崗岩体は,岐阜県東濃地域に位置する深成岩体である(湯口ほか, 2010)。試料は,瑞浪超深地層研究所内で採取されたボーリングコア試料(06MI03号孔: ホルンブレンド黒雲母花崗岩)を使用した。このうち,標高の異なる 岩石試料2 試料から分離したカリ長石を研究対象とした。
手法構築に際しては,鉱物分離を実施したジルコン試料の前処理などに用いられる樹脂埋めの手法(Yuguchi et al., 2023)を参考とし,樹脂マウントを作成した。この樹脂マウントに対して, 14 回の研磨・琢磨および SEM-CL(JEOL JSM-IT100A+Gatan MiniCL)による研磨面観察を繰り返すことで,粒子の内部構造を BSE 像として連続的に取得した。また先行研究(Yuguchi et al., 2021)で報告されている他形カリ長石における波状累帯構造(oscillatory zoning;OZ)の三次元的な分布も併せて評価するため,CL 像も取得した。加えて,内部組織の分布面積(量)の定量的な評価を行うため,取得した BSE 像とAdobe Photoshop®を用いて計 84 枚の画像解析を実施した。画像解析の対象は,画像取得したカリ長石全体の面積,内部構造のパーサイトラメラ(パッチパーサイトラメラ・マイクロパーサイトラメラ)の面積,微小孔の面積の3つのパラメータを算出した。
結果と議論は以下の通りである。SEM-CLを用いた内部構造の記載:①パーサイトラメラは,粒子中でシート状に産する。②物質移動に寄与する微小孔は,粒子のリムからコアまで研磨を行っても,その形状(円状もしくは楕円状で,最大長径6 ㎛)に変化はなかった。また粒子内の位置(リム/コア)によらず粒子全体に分布し,ラメラ部分もしくはその周辺に多産する偏在性が認められる。③鉱物の成長様式を反映する OZ の三次元的分布について,OZ は粒子のコアだけでなくリムにも存在し,また粒子中に複数存在する場合も観察される。これはカリ長石が外形的中心から結晶成長するのではなく,メルト中の複数地点を核として成長することを示唆する。
Adobe Photoshop®による内部構造の面積の算出・比較:①粒子のリムからコアに至る距離(研磨開始地点からの深さ)と,パーサイトラメラおよび微小孔の面積分率を比較すると,観察面に占めるラメラは最大16.6%,微小孔は最大1.3%であり,研磨開始地点からの深さ(粒子内の位置)による系統的な変化傾向は認められない。②カリ長石粒子の面積とパーサイトラメラの面積には正の相関が認められた。ラメラの形成においては,鉱物中のNa-K の相互拡散(Lee and Parsons, 1997)や外部からの元素供給(Yuguchi et al. 2011)が論じられているが,カリ長石粒子自体の量もラメラの分布量を支配していることは,Na-K の相互拡散の影響を強く受けていることが示唆される。これに対して,カリ長石粒子の面積と微小孔の面積の間では明確な相関はみられなかった.一方で,観察事実として微小孔とラメラの分布領域が一致していることから,外部からの元素供給の通路として機能することを示唆する。
R6P-05