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[R7-06] ピストンシリンダー装置を使用した高圧グラニュライトのザクロ石かんらん岩に見られる多相固体包有物の均質化実験
キーワード:大陸衝突帯、ザクロ石かんらん岩、高圧グラニュライト、多相固体包有物、ピストンシリンダー
現在のアルプスヒマラヤ山脈や古生代のバリスカン造山帯では造山運動後期に超カリウム質火山活動が生じている。カリウムの供給源は、沈み込んだ泥質変成岩が深部で部分融解した結果、白雲母が融解しカリウムに富むメルトが上盤側の上部マントルに付加されると予想される(Grassi and Schmidt, 2011, J. Petrolなど)。その結果マントルウェッジに金雲母を含むかんらん岩が形成され、さらにそれが部分融解すると超ポタシック火山活動(チェコ共和国に見られるドルバッハ岩やイタリアのカマフジャイト)が発生すると考えられてきた。このプロセスを定量的に理解するためには、まず沈み込んだ地殻物質や上部マントル由来の岩石に実際に見られるメルトの化学組成を把握する必要がある。高圧〜超高圧変成岩にはプレート収斂帯深部域−深度50〜200km−で発生したメルトや超臨界流体がザクロ石などの高圧鉱物中に捕獲されて産することがある。メルトや超臨界流体は上昇時に冷却し結晶化して、多相固体包有物を形成することが多い。近年、多相固体包有物からダイヤモンドが見つかったこともあり、それを復元して超臨界流体の組成復元を行う研究が行われている(例えばBorghini et al., 2019, JMG)。本研究ではバリスカン造山帯に見られる沈み込んだ大陸地殻とマントルウェッジかんらん岩に見られる多相固体包有物を研究することで、プレート収斂域深部で生じているメルトの化学組成を解明し、上述した問題の解明に寄与することを目指している。 今回用いた研究試料はいずれもチェコ共和国・南ボヘミアから採取した。南ボヘミアでは数mから数kmサイズのザクロ石かんらん岩が花崗岩質グラニュライト中に取り込まれて産する。本研究では金雲母を含むザクロ石かんらん岩とグラニュライト中に見られるザクロ石単斜輝石岩を出発物質として、そこに見られる多相固体包有物を均質化する実験を行った。 ザクロ石輝石岩はグラニュライトの一部として産出し、おもに単斜輝石、ザクロ石、黒雲母、燐灰石、カリ長石、石英で構成される。ザクロ石は斜方輝石+斜長石に分解し、単斜輝石は角閃石に分解している。ザクロ石中には石英、曹長石、カリ長石、黒雲母、燐灰石で構成された多相固体包有物が無数に存在する。ザクロ石かんらん岩はカンラン石、斜方輝石、ザクロ石、クロムスピネルと少量の単斜輝石で構成され、ザクロ石の大部分はスピネル+輝石へ分解している。多相固体包有物は粗粒なクロムスピネル中に包有されている(Naemura et al., 2018, Sci.Rep.)。 多相固体包有物を均質化する実験を行うために、まずザクロ石輝石岩から数mmのザクロ石を分離して石英とともに、金カプセルに封入した。このとき、少量のギブズ石を加えたものと加えないものを用意し、加水と無水条件での対比実験を行った。つぎにピストンシリンダー装置を用いて3 GPa, 1000℃の条件で24時間保ったのち、急冷させた試料を回収し電子顕微鏡で観察した。その結果、加水条件だとザクロ石が分解することが分かった。一方で無水条件では、多相固体包有物は均質化し、複数のメルト包有物を測定したところかなり均質な化学組成を持つことが明らかとなった: SiO2*=70—74 wt%, Al2O3≃12 wt%、MgO=0.3—2.0 wt%, CaO=1.1—1.8 wt%, K2O=6.0—6.5 wt% (*の値はLOIを除いて規格化した値)。酸化物の総重量は80—87wt%だったため、メルト中の流体成分の質量は13—20 wt%に達すると推測される。 次にザクロ石かんらん岩からクロムスピネル分離し、カンラン石と共に白金カプセルに入れて3 GPa, 1300℃で約30分間保持させたのち急冷した。試料を電子顕微鏡で観察したところ、包有物を一つ見つけることができた。多相包有物の大部分は均質化しているが、反射電子で見て色むらが見られた。またガラスと思われる部分は脆く、包有物には脱落による隙間が見られた。脱落による影響を最小にするために酸化物総重量が66−73wt%の分析値で見ると、包有物の化学組成は、SiO2=10—18 wt%, Al2O3≃4—6 wt%, MgO=16—20 wt%, CaO=13—17 wt%, K2O<0.1 wt%のシリカに不飽和な化学組成のメルトが示唆される。 以上のように、地殻物質とマントル物質のそれぞれに見られる多相固体包有物の均質化実験に成功した。今後、データを追加しレーザーICP-MSで微量分析を行うことで、プレート収斂域深部に存在するメルト化学組成のデータを追加し、造山運動後期の超ポタシック火山活動の定量的理解に繋がるデータを出していきたい。