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[R7P-05] 山口県東部,玖珂層群に胚胎する層状マンガン鉱床~荒瀬谷鉱山・倉谷鉱山
「発表賞エントリー」
キーワード:玖珂層群、マンガン鉱床
日本の層状マンガン鉱床は,海底のマンガン団塊やマンガンクラストを含む珪質堆積物が沈み込み帯の付加プロセスで変成作用を受けることで形成されると考えられており,その成因に基づいて,付加プロセスによる低温高圧型接触変成作用のみを被った鉱床,その後花崗岩類による接触変成作用を受けた鉱床,緑色岩や赤色チャートに伴う鉱床に大別される (Nakagawa et al., 2011).山口県東部の玖珂層群には,複数の層状マンガン鉱床が胚胎することが知られている.それらは,構成鉱物に基づき炭酸マンガン鉱型,珪酸マンガン鉱型,酸化マンガン鉱型に区分され,初生的に形成された炭酸マンガン鉱型鉱床が,後期白亜紀の火成活動に伴う花崗岩類の接触変成作用によって珪酸マンガン鉱型に変化すると述べられている(宮本, 1953).上述したNakagawa et al. (2011)の議論によれば,付加プロセスによる低温高圧型変成作用で炭酸マンガン鉱型を形成したのち,白亜紀貫入岩によって,珪酸マンガン鉱型鉱床を形成したと考えられる.鉱床の形成年代が不明なため,現時点ではこれ以上の議論はできないが,玖珂層群では層状チャートに伴って多数のマンガン鉱床が胚胎されている.特に,岩国市に分布する土生花崗閃緑岩の周囲には,岩体から距離に応じて複数のマンガン鉱床が分布している.そのため,宮本(1953)で提唱された変成温度と鉱床の種類の関係を解明するのに適しており,層状マンガン鉱床の形成過程の理解に貢献できる.本研究は,土生花崗閃緑岩周辺の層状チャート中に胚胎するマンガン鉱床 (炭酸マンガン鉱型荒瀬谷鉱山,珪酸マンガン鉱型倉谷鉱山)の形成過程や条件について検討する. 玖珂層群はジュラ紀の付加体で,主に泥質岩や砂質岩から構成され,少量のチャート,石灰岩ブロック,緑色岩から構成される.形成年代は古い順からユニットIIIàIIàIに区分される (高見ほか, 1993).本地域の層状マンガン鉱床はユニットIに分布し,20万分の1シームレス地質図 (AIST, 2022)によれば,荒瀬谷鉱山と倉谷鉱山は同じチャート層に胚胎している.これらのマンガン鉱床は上述した土生花崗閃緑岩 (東西約5km,南北約4km)の周囲に位置する.土生花崗閃緑岩は,主に角閃石を含む優黒質相と角閃石を含まない優白質相の2つの岩相から構成され,優白質相の構造的上位に後から上昇してきた優黒質相のマグマが定置し,両岩相の境界部ではマグマ混交が起こったと考えられる (秋本ほか, 2022). 荒瀬谷鉱山産の鉱石は主に菱マンガン鉱とバラ輝石から構成される鉱石,ハウスマン鉱,アレガニー石,菱マンガン鉱から構成される鉱石に分類される.本鉱床の菱マンガン鉱[(Mn0.77-0.85Ca0.10-0.21Fe0.00-0.03Mg0.01-0.03)CO3]は鉄に乏しく,バラ輝石の組成は(Mn4.17-4.25Ca0.14-0.63Fe0.10-0.47Mg0.01-0.08)Si5O15と表される.鉱石鉱物は主に自形~半自形のリンネ鉱などの含Co硫化鉱物から構成され,少量の黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱を含む. 倉谷鉱山産鉱石の主要構成鉱物はざくろ石とバラ輝石で,これらの粒間を菱マンガン鉱が充填する.ざくろ石ではスペサルティン成分が卓越し(Sps78.7-83.8Alm7.0-14.0Grs4.7-7.7Adr1.3-1.6Prp0.3-1.1),Mn ⇄ Fe置換がみられる.バラ輝石[(Mn2.70-3.55Ca0.75Fe0.45-1.25Mg0.20)Si5O15]および菱マンガン鉱[(Mn0.62-0.81Ca0.12-0.30Fe0.05-0.10Mg0.01-0.05)CO3]は,荒瀬谷鉱山の鉱石中に見られるものに比べて鉄に富む傾向がある.主要鉱石鉱物は半自形の輝コバルト鉱・ゲルスドルフ鉱などの含Co, Ni鉱物で,磁硫鉄鉱,黄鉄鉱,黄銅鉱がそれらの粒間を充填する. 珪酸マンガン鉱型倉谷鉱山と炭酸マンガン鉱型荒瀬谷鉱山の鉱石を構成する主要マンガン鉱物の組み合わせの違いや鉄含有量に代表される化学的な特徴の違いは,土生花崗閃緑岩の接触変成作用やそれに由来する熱水に起因すると推定される.一方,主要鉱石鉱物としてコバルトに富む相を含むことは両鉱山共通の特徴であり.起源物質に由来する可能性が示唆され,このことは層状マンガン鉱床の起源物質とされるマンガン団塊やマンガンクラストにCoが比較的多く含まれる(例えば,臼井ほか, 1994)ことによって支持される.