一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R8:変成岩とテクトニクス

2023年9月15日(金) 09:00 〜 12:00 821 (杉本キャンパス)

座長:遠藤 俊祐(島根大学)、東野 文子(京都大学)

10:45 〜 11:00

[R8-07] 四国西部三波川帯の変成斑れい岩:沈み込む海洋地殻の深部付加における役割

*遠藤 俊祐1、栗原 那知1、田口 知樹2 (1. 島根大学、2. 早稲田大学)

キーワード:三波川帯、変成斑れい岩

四国三波川帯の主要部を占める白滝ユニットは,側方連続性の極めて良い中央海嶺玄武岩(MORB)起源の苦鉄質片岩(キースラーガーを伴う)の厚層を含むことにより特徴づけられる.沈み込んだ海洋地殻が20 km以深で大規模に付加するプロセス(Endo et al. 2018)は,深部での海洋地殻の剪断破壊を意味し,それはthermo-mechanicalモデリングの結果(Menant et al. 2019)や現世の沈み込み帯の地球物理学的観測情報(Kimura et al. 2010)との比較されるべき重要な地質情報である.桜樹屈曲以西の四国西部では,特にこの苦鉄質片岩層が厚いため,このプロセスの検討に適している.四国西部では,苦鉄質片岩は,変成斑れい岩を伴っている.我々は愛媛県東温市の滑川地域で鮮緑色の含クロム白雲母を含み緑れん石・ゾイサイトに富む優白質岩を見出し,それを「石灰珪質片岩」として報告したが(栗原・遠藤2021),これは四国西部で記載されている変成斑れい岩(例えば,坂野ほか2010)や「粗粒な変塩基性岩」(仲田ほか2019)と同一岩相であり,その分布の最東端にあたる.Kawaguchi et al.(2022)は大洲地域でこの変成斑れい岩の火成ジルコンU-Pb年代(139-135 Ma)を報告した.この年代はMORB起源の苦鉄質片岩の原岩年代(155-144 Ma: Nozaki et al.2013)より明らかに若い.Kawaguchi et al.(2022)は,ジルコンの微量元素判別図と変成斑れい岩に高圧型変成作用の痕跡がないことにもとづいて,三波川変成岩の上昇期に沈み込み帯上盤から取り込まれたものと解釈した.しかし,栗原・遠藤(2021)は変成斑れい岩からローソン石⇒パンペリー石⇒緑れん石・ゾイサイトの変化を示す組織を報告しており,周囲の結晶片岩と沈み込み変成履歴を共有していたことは明白である.変成斑れい岩は,MORB起源の苦鉄質片岩に密接に伴われ,残留クロムスピネル組成もMORB領域に収まるが,上記のジルコン年代は変成斑れい岩の原岩が苦鉄質片岩と同源ではないことを示す.すなわち139-135 Maに海洋域で斑れい岩がMORBに貫入したと考えられる.それはKawaguchi et al. (2022)がもう一つの可能性として挙げた海洋性島弧の存在を示すものかもしれないが,今回は火成活動場の問題には立ち入らない.三波川変成岩は上昇期に高歪みの延性変形を受けており,変成斑れい岩も例外ではない.変成斑れい岩は,緑れん石集合体と基質部のレオロジーコントラストにより,眼球状片麻岩のような組織をもつLSテクトナイトとなっている(仲田ほか2019).海洋地殻の剪断破壊を伴う付加時の構造は,この上昇期変形のオーバープリントにより保存されていないが,地質図スケールの岩相境界は有効な情報である.滑川地域での詳細なマッピングにより,変成斑れい岩はMORB起源の苦鉄質片岩の厚層の下底に沿って薄く広範に分布しいることが明らかになった.このことは海洋地殻の深部付加プロセスにおいて変成斑れい岩が破壊核形成に寄与した可能性を示唆する.滑川地域で観察する限り,変成斑れい岩の原岩は優白質で斜長岩(CAS系)に近いものであり,沈み込みと吸水によりローソン石を主とする岩石がいったん形成されたと考えられる.ローソン石は現在は方解石の包有物としてのみ残存している.一方,苦鉄質片岩はFe2O3に富み緑れん石安定領域が拡大するため,三波川変成作用でローソン石は形成されなかっただろう.変成斑れい岩の320℃前後でのローソン石(+パンペリー石)脱水に伴う流体圧上昇が海洋地殻の弱化・破壊を引き起こしたと考えられる.また,一部の変成斑れい岩には,大量の炭質物が含まれる.この炭質物は,隣接する泥質片岩(炭質物ラマン温度計で400℃程度)に含まれるものより,著しく結晶化度が高い.これは,組成の異なるCHO流体の混合(CH4 + CO2 = 2H2O + 2C)が起こり,流体から結晶化度の高い炭質物が沈殿したことを示す可能性が高い.その流体の起源のひとつはローソン石分解に伴うものと考えられる.

文献
坂野ほか(2010)大洲地域の地質(5万分の1地質図幅).
Endo et al. (2018) Island Arc 27, e12261.
Kawaguchi et al.(2022) Geoscience Journal 26, 37–54.
Kimura et al. (2010) Science 329, 210–212.
栗原・遠藤(2021)地質学会講演要旨
Menant et al. (2019) Scientific Reports 9, 9714.
仲田ほか(2019)地質雑125,447-452.
Nozaki et al. (2013) Scientific Reports 3, 1889.