11:15 〜 11:30
[R8-09] ドラマイラ岩体南部、超高圧白色片岩中の藍晶石が包有するコース石の形態と残留応力について
キーワード:コース石、ラマン分光法、超高圧変成作用、白色片岩
変成岩の構成鉱物に保有された鉱物(鉱物包有物)は、そのホスト鉱物との間の熱膨張率、体積弾性率の差により生じた残留応力を保持することが知られている。例えば、ざくろ石に包有された石英の残留応力の大きさはラマンスペクトルのピークのずれ(ラマンシフト)によっても観察され、地質圧力計としてよく利用される。しかしながら、石英の高圧相であるコース石包有物については、超高圧変成作用を被ったか否かの認定のための記載が主目的で、ラマンスペクトルに着目した研究はほとんど行われてこなかった。本研究は、オロジェンに露出した超高圧変成岩のなかで粗粒なコース石とその仮像がマトリクスに最も良く残存することで知られるドラマイラ岩体の白色片岩中のコース石包有物に着目した。系統的にコース石包有物を解析するため、粉砕した白色片岩試料からパイロープざくろ石(~400粒)、藍晶石(88粒)、ジルコン(40粒)、ルチル(~400粒)を分離し、それらに包有されたコース石約120個について、ラマンシフトの特徴と傾向を調べた。本講演ではコース石包有物のラマンシフトとホスト鉱物の残留応力の異方性など、いくつかの新知見を紹介し、超高圧変成岩のコース石包有物に着目した研究の可能性について展望する。
観察したコース石包有物のラマンシフトはそのホスト鉱物によって異なる。とりわけ、藍晶石に包有されたコース石(大きさ4–58 µm)において、Si–O–Si対称伸縮振動に起因する~521 cm-1 のピークが残留圧力に依存したシフトを示し、その最大値は524.4 cm-1であった。なお、~176 cm-1 のピークも大きくシフトし、その程度から1.74 GPaの最大の残留応力が推定された。藍晶石中のコース石は結晶の表面(研磨面)付近であっても高い残留応力を保持し、その観察事実は既存の報告(Zhong et al., 2020)と矛盾する。コース石包有物は、そのリムに厚さ~2 µm程度の石英シェルをもつものも存在する。これら一連の観察事実は藍晶石の残留応力保持能力の高さを示すものである。藍晶石中のコース石包有物は、円形、擬六方晶、不定形の3つの形状に分類され、それらのうち擬六方晶と不定形の包有物は円形のものよりも高いラマンシフトを示す。さらに、ラマンマッピングにより擬六方晶コース石を包有した藍晶石にのみ残留応力の異方性が確認された。
一般に、包有物の形状の違いと包有物内外に記録された残留応力は、包有後のホスト-包有物相互作用の過程を記録している。我々の観察は、円形のコース石は擬六方晶のコース石や不定形のコース石に比べて表面エネルギーが低く、包有後の形状変化を経験した可能性を示唆する。また、シリカ鉱物包有物の形状変化は残留応力の喪失につながることが先行研究で知られており、形状によるラマンシフトの傾向の違いは形状変化の影響を示している可能性が高い。このように、コース石のラマンシフトに加え、包有後の形状変化と残留応力の減衰のプロセスを追うことで、超高圧変成岩が上昇してくる過程の包有物–ホスト鉱物間の相互作用の定量的な理解が進むかもしれない。
観察したコース石包有物のラマンシフトはそのホスト鉱物によって異なる。とりわけ、藍晶石に包有されたコース石(大きさ4–58 µm)において、Si–O–Si対称伸縮振動に起因する~521 cm-1 のピークが残留圧力に依存したシフトを示し、その最大値は524.4 cm-1であった。なお、~176 cm-1 のピークも大きくシフトし、その程度から1.74 GPaの最大の残留応力が推定された。藍晶石中のコース石は結晶の表面(研磨面)付近であっても高い残留応力を保持し、その観察事実は既存の報告(Zhong et al., 2020)と矛盾する。コース石包有物は、そのリムに厚さ~2 µm程度の石英シェルをもつものも存在する。これら一連の観察事実は藍晶石の残留応力保持能力の高さを示すものである。藍晶石中のコース石包有物は、円形、擬六方晶、不定形の3つの形状に分類され、それらのうち擬六方晶と不定形の包有物は円形のものよりも高いラマンシフトを示す。さらに、ラマンマッピングにより擬六方晶コース石を包有した藍晶石にのみ残留応力の異方性が確認された。
一般に、包有物の形状の違いと包有物内外に記録された残留応力は、包有後のホスト-包有物相互作用の過程を記録している。我々の観察は、円形のコース石は擬六方晶のコース石や不定形のコース石に比べて表面エネルギーが低く、包有後の形状変化を経験した可能性を示唆する。また、シリカ鉱物包有物の形状変化は残留応力の喪失につながることが先行研究で知られており、形状によるラマンシフトの傾向の違いは形状変化の影響を示している可能性が高い。このように、コース石のラマンシフトに加え、包有後の形状変化と残留応力の減衰のプロセスを追うことで、超高圧変成岩が上昇してくる過程の包有物–ホスト鉱物間の相互作用の定量的な理解が進むかもしれない。