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[R8-10] ローソン石青色片岩の白雲母K-Ar年代の評価:
神居古潭帯・幌加内地域と黒瀬川帯・箱石ユニットの例
キーワード:白雲母K-Ar年代、ローソン石青色片岩、年代若返りの理由、幌加内地域、箱石サブ・ユニット
変成岩中の白雲母類を用いたK-Ar年代測定は、これまでに日本各地の変成帯で実施され、日本の地帯構造発達史の理解に大きく貢献してきた(e.g., Itaya & Takasugi, 1988, CMP; Tsujimori & Itaya,1999, Island Arc; Nuong et al. 2008, Geol. Mag.)。その一方で、同一露頭で採取した白雲母の年代値が測定誤差を優位に超える例がしばしば散見されるため、白雲母類のK-Ar年代値を解釈する際には、測定に用いた白雲母の評価(例えば、変成白雲母が形成された後の組成改変・変質・変形の有無、過剰アルゴンの付加、砕屑性、等)が必要であると指摘されている(e.g., Itaya et al. 2011, JAES)。更に、最近、Lu, Shimizu & Itaya, (2022; Minerals) は、年代測定に用いた絹雲母・イライトのフラクションのK含有量の多寡にかかわらず、同一露頭から採取したフラクションの粒子径が小さくなると、年代が若くなる傾向を指摘した(0.5~4μmで10~30Ma)。 我々は、北海道・神居古潭帯・幌加内地域で、ローソン石・緑簾石・パンペリー石を含む青色片岩(Tpriple-point blueschist)4試料の白雲母K-Ar年代を蒜山地質年代学研究所で測定した結果、123~127Ma と105~109Maに2クラスター化した。この結果を考察するために、白雲母の化学組成、緑泥石化の強弱、分離試料の粒径等を検討した。 化学組成:白雲母の化学組成は4試料ともSi=3.4~3.6 apfu(O=11)であったため、青色片岩相相当の変成作用で形成されたものであることを確認した。その反面、123~127Ma の年代を示した白雲母は比較的粗粒(最大約1mm幅)、かつ、緑泥石化は比較的稀であり、その組成はSi-Al図上で白雲母-セラドナイを結ぶ線上にプロットされた。それに対して、105~109 Maの年代を示した白雲母は、細粒(<数十μm)で緑泥石化が顕著であった。更に、Si-Al図上でSi=3.5~3.6 apfuの組成を示す粒子は白雲母-セラドナイを結ぶ線上にプロットされるが、Si<3.5 apfu以下の白雲母は白雲母-セラドナイを結ぶ線から低Si低Al側に外れ、緑泥石との混相が示唆された。 白雲母フラクションの粒径:上記のような白雲母の産状を考慮して、年代測定に用いた白雲母フラクションのサイズは123~127Ma の年代を示した試料は50~120μm、105~109Maの年代を示した試料は0.2~2μmで調整した。 白雲母フラクションのK(wt%){各年代につき、2つの試料の値を示した}: 123~127Ma 年代:4.65/ 4.22 105~109Ma 年代:1.80/2.71 以上のように、105~109Maを示した白雲母フラクションは白雲母の純度も低く、かつ、粒径も小さかった。これら2つの要素は白雲母K-Ar年代の若返りを示唆するものとされている。 では、どちらの要素がより強く若返りに寄与しているのであろうか? Sato et al. (2014, JMPS) は、九州・黒瀬川帯のローソン石青色片岩地域から採集した2試料の変成泥質片岩から分離した3つの白雲母フラクションのK-Ar年代を報告しており、得られた年代とフラクションサイズ・K(wt%)は以下のとおりである: OD28: 299Ma、50-100μm、5.32 wt% OD113:280Ma、50-75μm、 1.22 wt% OD113:245Ma、0.5-2μm, 2.14 wt% Sato et al. (2014) が年代測定を実施した変成泥質片岩には、ローソン石、アルカリ角閃石、アルカリ輝石が含まれており、白雲母の化学組成は、OD28では3.55~3.64 apfu(O=11)、OD113ではSi=3.35~3.72 apfuであった。OD28の白雲母は無色で緑泥石化は稀であったが、OD113のSi<3.62apfu の白雲母は淡い茶色を呈し、緑泥石化の進行が認められた。OD113のフラクションサイズが50~75μmのK含有量は非常に低くく、緑泥石の分離が不十分であったとみなし、0.5~2μmと小さなフラクションサイズで調整した結果、白雲母の純度は約75%上昇したものの、35Maも若い年代値が得られた。 以上のように、Sato et al. (2014) やLu et al. (2022) の結果から、白雲母年代の若返りにはフラクションサイズが大きな影響を与えていると考え、引き続き検証中である。