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[R8P-03] 山口県南部、大島半島に産する変成岩類の変成作用:西瀬戸内領家変成帯の変成条件と地質構造
「発表賞エントリー」
キーワード:高温低圧型変成岩、領家帯変成岩
山口県中南部、瀬戸内海に面する大島半島には、三畳紀高圧型変成岩類(周防帯)、白亜紀領家変成深成複合岩体、白亜紀火山岩類が分布すると考えられてきた(シームレス地質図、地質調査総合センター,2022)。地質図によると、大島半島の西に隣接する粭島と大島半島北部には周防帯が、半島南部には領家帯の変成岩類が分布する。調査地域の西部に位置する大津島は、上述した地質図によれば周防帯に属していたが、Lu・大和田(2022)は領家帯に相当する低圧型変成作用を受けたことを明らかにした。また大島半島東部の笠戸島も領家帯低圧型変成岩とされている(Beppu and Okudaira,2006)。しかしながら大島半島の変成岩類は、地質の概要が報告されているのみであった。
本発表では、山口県南部、瀬戸内海に分布している変成岩類の帰属と地質形成史を明らかにするために大島半島産変成岩類の変成・変形作用の特徴や温度圧力条件について検討し、周囲の変成岩類と比較してこの地域の変成条件と地質構造を議論する。
大島半島は南北約9 km、東西約6 kmで、半島西部に50 mの狭い海峡を挟んで粭島が隣接する。大島半島と粭島に産する変成岩類は主に泥質片岩で、珪質片岩や少量の緑色片岩を伴う。また、局地的に花崗岩類の岩脈が貫入している。変成岩類の片理面の構造は、基本的に東西走向で南北に傾斜し、東西に軸を持つ褶曲構造が発達するが、半島の南西部で南北系の断層が発達し、片理面は北東–南西方向へ変化している。一方、粭島は南北走向の片理面が発達している。
泥質岩の鉱物組み合わせは以下の通り。黒雲母(Bt)、白雲母(Ms)、斜長石(Pl)、石英(Qtz)を含み、大島半島北部では緑泥石(Chl)、半島南部と粭島ではざくろ石(Grt),菫青石(Crd)とカリ長石(Kfs)を含む。Crdの中にも、ChlやMsを包有される組織が見られて、And、CrdからMsに置換される組織も見られる。また、大島半島南部に産する緑色片岩の鉱物組み合わせはアクチノライト(Act)とアノーサイト(An)である。緑色片岩の中にレンズとして産する石灰珪質岩の鉱物組み合わせは、単斜輝石(Cpx)、方解石(Cal)、石英、アノーサイトで、珪灰石(Wo)を含む。WoはQtz、Anと共存し、しばしばCalに切られる。
泥質変成岩中の組織と鉱物組み合わせから北部のBt zoneと南部のAnd-Crd zoneに変成分帯が可能である(下記)。
Bt zone: Bt+Ms±Chl
And-Crd zone: Bt+Ms+Kfs; Bt+Ms+Grt;Bt+Crd+Ms+Kfs+Grt; Bt+And+Ms+Crd
Bt zoneからAnd-Crd zoneへの変化は以下の変成反応によって説明できる。
Chi+Ms+Qtz=Crd+Bt+H2O
また、この反応アイソグラッドは、片理面と平行で東西方向を示す。このような鉱物組み合わせから大島半島と粭島は低圧型の変成作用を受け、北から南へ累進的に変成度が上昇すると考えられる。
泥質変成岩に含まれる鉱物化学組成を使ってFerry and Spear (1978)によるGrt-Bt地質温度計とHoich (1990)によるGrt-Bt-Pl-Qtz地質圧力計を適応し、And-Crd zoneの変成温度圧力条件を見積もった。大島半島南部のAnd-Crd zoneは約550℃、150MPa、西隣の粭島は、And-Crd zoneに属し、変成条件は大島半島と同じ約530℃、150MPaであった。一方、上述した石灰珪質岩の組織から、Cal+Qtz=Wo+CO2によってWoが生じたと考えられる。この反応(Winkler,1979)はおよそ550℃、150MPaの変成条件で起こったと考えられ、泥質変成岩から求めた変成条件と一致する。
大島半島西部の大津島は、空間的な鉱物組み合わせの変化が認められ、北から南へSil zone、And-Crd zoneそしてもっとも低変成度のBt zoneが分布し、向斜軸を挟んで再びAnd-Crd zone、Sil zoneが分布する。そして、衝上断層を挟んでSil zoneの下位にAnd-Crd zoneが分布する(Lu・大和田、2022)。また、大島半島東部の笠戸島では、東西方向のアイソグラッドによって、北側にBt zoneが、南側にCrd zoneが分布する。この関係は、大島半島のBt zoneとAnd-Crd zoneの関係に対比可能である。しかしながら、このアイソグラッドは大島半島に比べて1 km以上南に位置する。すなわち、大島半島を含む山口県南部の変成岩類は、低圧高温型の変成作用を被った後、褶曲や断層による変形作用を受けたと考えられる。
本発表では、山口県南部、瀬戸内海に分布している変成岩類の帰属と地質形成史を明らかにするために大島半島産変成岩類の変成・変形作用の特徴や温度圧力条件について検討し、周囲の変成岩類と比較してこの地域の変成条件と地質構造を議論する。
大島半島は南北約9 km、東西約6 kmで、半島西部に50 mの狭い海峡を挟んで粭島が隣接する。大島半島と粭島に産する変成岩類は主に泥質片岩で、珪質片岩や少量の緑色片岩を伴う。また、局地的に花崗岩類の岩脈が貫入している。変成岩類の片理面の構造は、基本的に東西走向で南北に傾斜し、東西に軸を持つ褶曲構造が発達するが、半島の南西部で南北系の断層が発達し、片理面は北東–南西方向へ変化している。一方、粭島は南北走向の片理面が発達している。
泥質岩の鉱物組み合わせは以下の通り。黒雲母(Bt)、白雲母(Ms)、斜長石(Pl)、石英(Qtz)を含み、大島半島北部では緑泥石(Chl)、半島南部と粭島ではざくろ石(Grt),菫青石(Crd)とカリ長石(Kfs)を含む。Crdの中にも、ChlやMsを包有される組織が見られて、And、CrdからMsに置換される組織も見られる。また、大島半島南部に産する緑色片岩の鉱物組み合わせはアクチノライト(Act)とアノーサイト(An)である。緑色片岩の中にレンズとして産する石灰珪質岩の鉱物組み合わせは、単斜輝石(Cpx)、方解石(Cal)、石英、アノーサイトで、珪灰石(Wo)を含む。WoはQtz、Anと共存し、しばしばCalに切られる。
泥質変成岩中の組織と鉱物組み合わせから北部のBt zoneと南部のAnd-Crd zoneに変成分帯が可能である(下記)。
Bt zone: Bt+Ms±Chl
And-Crd zone: Bt+Ms+Kfs; Bt+Ms+Grt;Bt+Crd+Ms+Kfs+Grt; Bt+And+Ms+Crd
Bt zoneからAnd-Crd zoneへの変化は以下の変成反応によって説明できる。
Chi+Ms+Qtz=Crd+Bt+H2O
また、この反応アイソグラッドは、片理面と平行で東西方向を示す。このような鉱物組み合わせから大島半島と粭島は低圧型の変成作用を受け、北から南へ累進的に変成度が上昇すると考えられる。
泥質変成岩に含まれる鉱物化学組成を使ってFerry and Spear (1978)によるGrt-Bt地質温度計とHoich (1990)によるGrt-Bt-Pl-Qtz地質圧力計を適応し、And-Crd zoneの変成温度圧力条件を見積もった。大島半島南部のAnd-Crd zoneは約550℃、150MPa、西隣の粭島は、And-Crd zoneに属し、変成条件は大島半島と同じ約530℃、150MPaであった。一方、上述した石灰珪質岩の組織から、Cal+Qtz=Wo+CO2によってWoが生じたと考えられる。この反応(Winkler,1979)はおよそ550℃、150MPaの変成条件で起こったと考えられ、泥質変成岩から求めた変成条件と一致する。
大島半島西部の大津島は、空間的な鉱物組み合わせの変化が認められ、北から南へSil zone、And-Crd zoneそしてもっとも低変成度のBt zoneが分布し、向斜軸を挟んで再びAnd-Crd zone、Sil zoneが分布する。そして、衝上断層を挟んでSil zoneの下位にAnd-Crd zoneが分布する(Lu・大和田、2022)。また、大島半島東部の笠戸島では、東西方向のアイソグラッドによって、北側にBt zoneが、南側にCrd zoneが分布する。この関係は、大島半島のBt zoneとAnd-Crd zoneの関係に対比可能である。しかしながら、このアイソグラッドは大島半島に比べて1 km以上南に位置する。すなわち、大島半島を含む山口県南部の変成岩類は、低圧高温型の変成作用を被った後、褶曲や断層による変形作用を受けたと考えられる。