12:00 〜 14:00
[R8P-04] プレートの沈み込みに伴って形成される層面滑りの研究
「発表賞エントリー」
キーワード:層面滑り、主衝上断層、微細組織観察、転位クリープ、摩擦発熱
はじめに:プレートの沈み込みに際して、フレクシャー褶曲の重要性を指摘する論文が出始めている(例えばRomeo & Álvarez-Gómez ,2018)。フレクシャー褶曲は、層面滑りを伴う脆性変形領域で発生する褶曲である。プレートが沈み込む際に層面すべりが生じると、沈み込みを起因として生じる歪が開放される可能性がある。このことは層面滑りの研究が、プレートの沈み込み帯で発生する地震を考えるうえで非常に重要であることを意味する。本研究はプレートの沈み込みに際して形成された層面滑り現象の詳細を、微細組織観察を通して明らかにすることを目的とした。
研究対象と研究手法:インド ヒマチャル プラデシュ州サバスー市に露出する主境界衝上断層(MBT)を研究対象とした。MBTはインド大陸がユーラシア大陸下部に沈み込む際に形成されたプレート境界の断層である。層面滑りが発達する岩石は、MBTの上盤側に広く分布する先カンブリア時代の砂岩層である。MBTに近接する上盤側には閉じた褶曲が存在し、この褶曲の形成に伴って層面滑りが生じたと考えている。砂岩層の層厚は約10 cm-50 cmで赤褐色や白色を呈し、灰色を呈する泥岩層との互層も確認できた。泥岩層の層厚は約10 cmである。露頭では、層理面に平行に発達する層厚数mmの黒色層や黒色レンズ部、それと黒色な約5cmの楕円体部が確認できた。これら黒色部はリン酸塩鉱物(アパタイト)が主要構成鉱物となっている。
結果:微細組織の観察から以下のことが明らかとなった。1)層面すべりの実態は、砂岩単層内部に層理面に平行に発達した層厚100 mm-1 mmの複数の剪断面に沿うすべりである。2)この各剪断面は小歪から大歪の状態を記録している。小歪から大歪に至る微細組織の特徴は、砂岩層を構成する基質支持の粒径50 mm – 100 mmの石英が、剪断に伴ってその間隔を広げて行くことにある。間隔を広げながら石英は流体と反応し細粒化が進み、反応によって白雲母が晶出する。晶出した白雲母は(100)が剪断面に平行に配列する。大歪になると、粒径が数mmの白雲母のみから構成されるようになり、顕著なリーデル剪断面が発達する。3)大歪を受けた剪断帯には、石英、長石、白雲母、黒雲母で構成される半径約50 mmのCCAが認められる。4)剪断帯の内部には、剪断方向に伸びる幅数100 ㎛の石英脈が存在し、石英は強い波動消光を示す。EBSDを用いた石英の結晶方位測定から、c軸が剪断方向に平行に配列する強いCPOを示すことが明らかとなった。5)アパタイトを主要構成鉱物とする黒色の楕円体の周辺には、外周に沿うように200 ㎛– 300 mm幅の石英脈が存在し、その一部は強く塑性変形している。塑性変形した石英のc軸は楕円体に沿った一方向に強く集中する。
考察:観察結果から層面すべりの特徴を考察した。大歪に伴うリーデル剪断面やCCAの形成は、砂岩試料を用いた高速剪断歪実験の回収試料の特徴(Mizoguchi et al., 2009など)と酷似するが、低速剪断歪実験が行われていないために、研究した層面すべりが地震性すべりによるものかクリープ性すべりによるものなのかの判断がつかない。しかし剪断面に平行に存在する石英脈が転位クリープによって塑性変形し強いCPOを示すことは、層面すべりがクリープ性すべりによって進行していることを強く示唆する。そして剪断方向にc軸が配列することは、550℃以上の高温下で転位クリープが進行したことを示す。また黒色の楕円体は、砂岩層に整合的に堆積したアパタイト層が層面すべりによってCCA状に回転して形成された可能性が強い。楕円体の周りに存在する石英脈の石英のc軸CPOは、アパタイト層がCCA状に回転する際に550℃以上の摩擦熱を発生させたことを示唆する。以上のことから、層面すべりはクリープ性すべりによって形成され、そしてクリープ性すべりにおいても550℃以上の摩擦熱が発生した可能性が強いことが明らかとなった。その原因に関しては、講演で議論する。
本研究の結果から、プレートの沈み込みを起因として生じる歪の一部は、層面すべり形成と摩擦発熱のエネルギーによって解放されている可能性が高いことが考えられる。
研究対象と研究手法:インド ヒマチャル プラデシュ州サバスー市に露出する主境界衝上断層(MBT)を研究対象とした。MBTはインド大陸がユーラシア大陸下部に沈み込む際に形成されたプレート境界の断層である。層面滑りが発達する岩石は、MBTの上盤側に広く分布する先カンブリア時代の砂岩層である。MBTに近接する上盤側には閉じた褶曲が存在し、この褶曲の形成に伴って層面滑りが生じたと考えている。砂岩層の層厚は約10 cm-50 cmで赤褐色や白色を呈し、灰色を呈する泥岩層との互層も確認できた。泥岩層の層厚は約10 cmである。露頭では、層理面に平行に発達する層厚数mmの黒色層や黒色レンズ部、それと黒色な約5cmの楕円体部が確認できた。これら黒色部はリン酸塩鉱物(アパタイト)が主要構成鉱物となっている。
結果:微細組織の観察から以下のことが明らかとなった。1)層面すべりの実態は、砂岩単層内部に層理面に平行に発達した層厚100 mm-1 mmの複数の剪断面に沿うすべりである。2)この各剪断面は小歪から大歪の状態を記録している。小歪から大歪に至る微細組織の特徴は、砂岩層を構成する基質支持の粒径50 mm – 100 mmの石英が、剪断に伴ってその間隔を広げて行くことにある。間隔を広げながら石英は流体と反応し細粒化が進み、反応によって白雲母が晶出する。晶出した白雲母は(100)が剪断面に平行に配列する。大歪になると、粒径が数mmの白雲母のみから構成されるようになり、顕著なリーデル剪断面が発達する。3)大歪を受けた剪断帯には、石英、長石、白雲母、黒雲母で構成される半径約50 mmのCCAが認められる。4)剪断帯の内部には、剪断方向に伸びる幅数100 ㎛の石英脈が存在し、石英は強い波動消光を示す。EBSDを用いた石英の結晶方位測定から、c軸が剪断方向に平行に配列する強いCPOを示すことが明らかとなった。5)アパタイトを主要構成鉱物とする黒色の楕円体の周辺には、外周に沿うように200 ㎛– 300 mm幅の石英脈が存在し、その一部は強く塑性変形している。塑性変形した石英のc軸は楕円体に沿った一方向に強く集中する。
考察:観察結果から層面すべりの特徴を考察した。大歪に伴うリーデル剪断面やCCAの形成は、砂岩試料を用いた高速剪断歪実験の回収試料の特徴(Mizoguchi et al., 2009など)と酷似するが、低速剪断歪実験が行われていないために、研究した層面すべりが地震性すべりによるものかクリープ性すべりによるものなのかの判断がつかない。しかし剪断面に平行に存在する石英脈が転位クリープによって塑性変形し強いCPOを示すことは、層面すべりがクリープ性すべりによって進行していることを強く示唆する。そして剪断方向にc軸が配列することは、550℃以上の高温下で転位クリープが進行したことを示す。また黒色の楕円体は、砂岩層に整合的に堆積したアパタイト層が層面すべりによってCCA状に回転して形成された可能性が強い。楕円体の周りに存在する石英脈の石英のc軸CPOは、アパタイト層がCCA状に回転する際に550℃以上の摩擦熱を発生させたことを示唆する。以上のことから、層面すべりはクリープ性すべりによって形成され、そしてクリープ性すべりにおいても550℃以上の摩擦熱が発生した可能性が強いことが明らかとなった。その原因に関しては、講演で議論する。
本研究の結果から、プレートの沈み込みを起因として生じる歪の一部は、層面すべり形成と摩擦発熱のエネルギーによって解放されている可能性が高いことが考えられる。