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[R8P-08] 塑性変形領域でのシュードタキライト形成に関連した地震性断層発生のメカニズム: インドSarwar-Junia断層帯の例
「発表賞エントリー」
キーワード:シュードタキライト、断層運動、摩擦溶融、塑性変形領域
シュードタキライト(Pst)は、断層の高速すべりに起因する母岩の摩擦溶融によって形成される黒色、非顕晶質な岩石であり、断層面に沿って脈状、ネットワーク状に発達する。そのため、Pstは過去の断層運動の情報を保持する重要な岩石である。通常、Pstは脆性変形領域で形成されるが、塑性変形しているものやマイロナイトに関連しているPstが報告されており(例えば、Chattopadhyay et al., 2008)、塑性変形領域で断層運動が発生していることを示唆している。塑性変形領域での断層発生メカニズムには、脆性変形領域からのすべりの伝播や塑性不安定性が提案されているが、現在も議論が続いている。本研究では、インドSarwar-Junia断層帯から採取された泥質片麻岩中に発達する2種類のPst試料を用いて、微細組織観察と鉱物相同定の結果から、それぞれの摩擦溶融プロセスと塑性変形領域での断層発生メカニズムを明らかにすることを目的とした。野外観察において、母岩の面構造に対して、平行なPst脈(P-Pst)と大きく斜交するPst脈(C-Pst)の2種類の系統的なPst脈を確認した。P-Pstは母岩の塑性変形と同様の応力場で形成されたと考えられる。微細組織観察では、どちらのPst脈の両端にもメルトの急冷によって形成された黒色部(急冷縁)が存在している。P-Pstの急冷縁の幅はC-Pstのものより大きい。これは冷却速度の違いを示唆しており、冷却速度がP-Pstでは比較的遅く、対してC-Pstでは比較的速いと考えられる。Pst脈中にクラストとして残っている鉱物を比較すると、P-Pstは主に石英、珪線石であるのに対し、C-Pstではそれらに加えて、斜長石、カリ長石が多く存在している。加えて、母岩に多く含まれていた黒雲母は、どちらのPst脈でもクラストとして残っていないため、Pst形成時に完全に溶融したことが考えられる。一方、特にP-Pstで、多数の針状の黒雲母が基質中に存在しており、これらはメルトからの晶出によって形成されたと考えられる。これらの鉱物の融点から、メルトの最高温度はP-Pstで1400-1726 ℃、C-Pstで1200-1300 ℃であったと考えられる。ただし、非平衡溶融や黒雲母の脱水による融点の降下を考慮すると、実際の温度は推定より低いと考えられる。またP-Pst脈にはPst形成に伴う新たな斜長石の粒子の形成が起こっており、これらのリキダス温度からメルトは最低でも~1050℃以上であったことが考えられる。さらに、それぞれのPst脈部からTEM試料を作製し観察したところ、C-Pstでは顕著なガラスの存在が確認されたが、P-Pstではガラスはあまり確認されなかった。これはP-PstとC-Pstでメルトの冷却速度に差があり、C-PstはP-Pstより速い速度でメルトの急冷が起こったことが考えられる。上記から、P-PstとC-Pstは塑性変形領域と脆性変形領域でそれぞれ形成されたと考えられ、それらの摩擦溶融プロセスは以下である。初めに、断層運動によって母岩が破砕され、高速すべりに起因して摩擦溶融が起こる。この時、形成されたメルトの最高温度は、C-PstよりP-Pstの方が高く、斜長石、カリ長石はほとんど溶融した。その後、P-Pstでは比較的遅い冷却速度により、C-Pstよりも幅の大きな急冷縁が形成され、またメルトから針状の黒雲母が晶出した。また、P-Pst脈近傍の母岩には、脈から離れた部分に比べて黒雲母が多く、長石が少ないことが確認された。また黒雲母粒子は複雑な波動消光を示す。石英の再結晶粒子の粒径より得られる差応力と、石英の流動則からのひずみ速度の推定から、この黒雲母に富んだ領域は、黒雲母に富んでいない領域に比べ、より高い差応力とひずみ速度を経験していることが明らかになった。このことから断層運動は、水との反応で母岩中に黒雲母に富んだ領域が形成され、そこに応力集中することによって起こったことが考えられる。さらに、塑性変形領域でのP-Pstの形成には、黒雲母の定向配列が関連していることが考えられる。母岩中の黒雲母のへき開面((001)面)は不規則な方向を向いているが、Pst脈に近づくにつれて、片理面(もしくはPst脈)に平行な向きに定向配列している。黒雲母の(001)面は層間陽イオンによって結合しており、その強度は非常に小さい。この観察から、黒雲母の(001)面が断層運動の弱面として働き、この面上で応力集中が引き起こされ、歪速度が増加することによって、塑性変形領域中で脆性破壊が起こったと考えられる。