一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R8P-09] 花崗岩質マイロナイト中の動的再結晶石英粒子の含水量分布:大阪府岸和田地域の領家帯内部剪断帯の場合

*法村 武昌1、福田 惇一1 (1. 阪公大・理・地球)

キーワード:石英、塑性変形、動的再結晶、含水量、赤外分光法

地殻の主要構成鉱物である石英中に、水は結晶構造水のOHとして含まれるほかに、H2O流体が粒界に、粒内では流体包有物として含まれる。このような水は石英の共有結合を切断して存在し、塑性変形を促進する。また、塑性変形と共にしばしば動的再結晶により細粒化が起こる。このような石英の塑性変形や動的再結晶は水の拡散を伴い、これらの機構の発展と共に、水の形態および分布に変化が起こることが考えられる。しかし、塑性変形と動的再結晶した天然の石英において、このような水に関する情報がほとんどない。
 本研究では、大阪府岸和田地域の領家帯内部剪断帯に産出する花崗岩質マイロナイトについて、動的再結晶した石英粒子内部の含水量分布を赤外分光法面分析により測定した。石英粒子は亜粒界回転による動的再結晶組織を示し、粒径は円相当径として、10-160 µm、平均50 µm、アスペクト比は1.5-5.0、平均2.5であった。
 赤外分光法面分析はアパーチャーサイズを20 x 20 µmで行なった。アパーチャーサイズは石英平均粒径よりも小さいため、個々の粒子内部の水を測定することができる。同時に緑泥石や黒雲母からなるフィロシリケイト領域も一部測定した。フィロシリケイト領域は赤外分光法面分析結果で水のスペクトル形状が石英のそれと異なり、高含水量を示すことから、偏光顕微鏡像との位置の比較のためのマーカーとなる。
 赤外分光法面分析の結果を下図に示す。個々の石英粒子内部の赤外スペクトルは2800-3800 cm-1に幅広い吸収帯を示すことから、水は流体包有物のH2O流体として含まれている。偏光顕微鏡像と赤外分光法面分析領域の比較から、含水量は一粒子内部では±50 wt ppm程度バリエーションがあるが、個々の粒子間では、最小140 wt ppm、最大850 wt ppmのバリエーションがある。
 本研究で得られた含水量分布を過去の研究と比較した。Fukuda and Shimizu (2019)では、三波川結晶片岩中の動的再結晶石英粒子の平均粒径は120 µmで、粒内に水は本研究の試料と同様に流体包有物のH2O流体として含まれている。一方、同試料の石英の含水量は50 wt ppm程度であり、本研究で得られた含水量よりも1桁低い。また、Fukuda et al. (2023)では、割山花崗岩マイロナイト中の動的再結晶石英は、粒径が約10 µmでアパーチャーサイズよりも小さいため、粒内と粒界の水が含まれ、平均220 wt ppmであった。一方、先述の通り、本研究の領家帯の花崗岩質マイロナイトでは、石英粒子内部の含水量は個々の粒子間で140-850 wt ppmと異なる。このことから、石英が亜粒界回転によって細粒化する際に、個々の粒子内部に含水量のバリエーションを持って取り込まれることを示唆する。このような異なる試料で見られる動的再結晶石英の含水量の違いは、動的再結晶時に系が持つ水との平衡状態を反映しているのかもしれない。

引用文献
Fukuda J. and Shimizu I. (2019) Water distribution in quartz schists of the Sanbagawa Metamorphic Belt, Japan: Infrared spectroscopic mapping and comparison of the calibrations proposed for determining water contents. Earth, Planets and Space, vol. 71:136

Fukuda J. Okudaira T. and Ohtomo Y. (2023) Water release and homogenization by dynamic recrystallization of quartz. Solid Earth. vol. 14, pp. 409-424
R8P-09