一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R8P-12] 京都府大浦半島に産する大浦複合岩体のジルコンU-Pb年代とその帰属

*木村 光佑1、川口 健太2、中野 伸彦2、足立 達朗2、Das Kaushik3 (1. 大公大・院理、2. 九州大・院比文、3. 広島大・院理)

キーワード:大浦複合岩体、ジルコン、夜久野オフィオライト、西南日本内帯

西南日本内帯のオフィオライトには,三郡-蓮華帯に属する古生代前期の大江山オフィオライトと舞鶴帯に属する古生代後期の夜久野オフィオライトが知られている.両者は主に近畿から中国地方にかけてE–WからENE–WSW方向に帯状分布し,大江山オフィオライトは夜久野オフィオライトの北側に位置している.京都府大浦半島の北西部には大浦複合岩体(以下大浦岩体)が露出する(縣,1974).大浦岩体は主に苦鉄質岩からなり超苦鉄質岩や中間質~珪長質岩を伴い(Agata, 1980),岩相から従来夜久野オフィオライトに対比されると考えられてきた(石渡,2007).しかしながら,1) 大浦岩体が舞鶴帯から離れて北に分布し,大江山オフィオライトの分布の東方延長部に一致していること,2) 大浦岩体と舞鶴帯との間に広がる大浦層が秋吉帯に対比される下見谷層の東方延長に相当すること,3) 大浦岩体は大浦層に,大江山オフィオライト大江山岩体はその南に分布する下見谷層にそれぞれ衝上しており,同様の構造的位置を占めると考えられること,などから大江山オフィオライトに対比する考えも提唱されている(石渡,2007; 中江ほか,2022).珪長質岩は夜久野オフィオライトには10–30 %程度含まれ,極めて小規模であるものの大江山オフィオライトの一部にも伴われる(西村・柴田,1989)ため,岩相のみでの帰属決定は困難である.大江山オフィオライトの火成年代は3.4億年前よりも古く,一方夜久野オフィオライトのそれは3.4億年前よりも若いため,年代により両者は識別可能である.そこで本研究では大浦岩体の予察的な調査で採取した超苦鉄質~珪長質岩について岩石記載を行ない,更にこのうち中間質岩1試料と転石を含む珪長質岩3試料について全岩化学組成分析とジルコンU-Pb年代測定を行なった.
 超苦鉄質岩は主にカンラン石,蛇紋石,滑石,トレモラ閃石,クロムスピネルからなり蛇紋岩化している.クロムスピネルは自形を呈する.
 苦鉄質岩は斜長石,緑泥石,角閃石,不透明鉱物からなり,副成分鉱物として多量のアパタイトを含む変斑れい岩である.アパタイトは全体に認められるが特に緑泥石中に多く含まれる.
 中間質岩は主に斜長石,角閃石,石英,緑泥石,不透明鉱物からなり,副成分鉱物としてジルコンを含む閃緑岩で,全岩のSiO2濃度は約58 wt.%である.ジルコンは幅の広い波動累帯構造を示す.コンコーダントなU-Pb年代は270–240 Maに広がり複数のピークが認められるものの,ペルム紀の年代を示すと考えられる.コンコーダントなポイントのTh/U比は0.1–0.4である.
 珪長質岩はいずれも主に石英,斜長石,黒雲母からなり,カリ長石を含まないトーナル岩である.二次鉱物としてスティルプノメレンや緑簾石,沸石を含む.黒雲母はほぼ緑泥石に置換されている.全岩のSiO2濃度は77–80 wt.%で,テクトニクス場の判別図では火成弧領域にプロットされる.ジルコンは厚みが薄い長柱状の自形を呈し,僅かに不明瞭な波動累帯構造を示す. コンコーダントなU-Pb年代は300–240 Maと幅を持ち複数のピークが認められるものの,ペルム紀の年代を示すと考えられる.コンコーダントなポイントのTh/U比は0.1–0.3である.
 今回得られたジルコン年代は全て単一の年代を示さないことから,何らかの二次的影響を受けてジルコンの閉鎖系が一部乱されたものと考えられる.縣(1974)は,大浦岩体の北に貫入する宮津花崗岩の接触境界から2 kmにかけての範囲では,大浦岩体構成岩類が接触熱変成を被り二次鉱物が生成していると報告している.今回の年代測定試料に関しては,鏡下観察では接触変成作用の影響はほぼ認められないものの,緑簾石,スティルプノメレン,沸石などの二次鉱物が成長しているため,何らかの熱水変質を被った可能性が示唆される.今回得られたジルコン年代は全て3億年前よりも若いものであることから,大浦岩体は大江山オフィオライトには対比が難しく,むしろ夜久野オフィオライトに帰属する可能性が高い.超苦鉄質岩中のクロムスピネルが自形を呈し,大江山オフィオライトに特徴的なぜん虫状スピネルが認められなかったこともこれを支持する.
引用文献 縣 (1974) 岩石鉱物鉱床学会誌, 69, 403–416.Agata (1980) 岩石鉱物鉱床学会誌, 75, 396–410.石渡 (2007) 大浦複合岩体, 日本地方地質誌, 近畿地方, 朝倉書店, 80–80.中江ほか (2022) 20万分の1地質図幅「宮津」(第2版),産総研.西村・柴田 (1989) 地質学論集, 33, 343–357.