9:00 AM - 9:15 AM
[S1-01] Dehydration and heating processes during magma transportation decoded from chemical zonings in peridotite xenolith from Ichinomegata, NE Japan
Keywords:mantle xenolith, magma transportation, chemical zoning, water content, olivine
マントル捕獲岩は玄武岩質マグマやキンバーライト質マグマによって地表にもたらされたマントル物質の断片であり、マントルから地表に至るまでの連続的な履歴を保存している。秋田県男鹿半島に位置する一ノ目潟マールでは、火砕堆積物中にマントル起源のカンラン岩捕獲岩を産する(林1955; Katsui, 1979)。これらの捕獲岩の熱史や岩石学的性質の多様性については、マントルにおける貫入マグマとの反応 (阿部ほか1992 )や、地殻内マグマ溜まりにおける加熱 (Koyaguchi, 1986)による説明がなされてきた。それらに対し、我々はスピネルカンラン岩の由来圧力推定によって捕獲岩の岩石学的多様性と由来深度の系統的関係を見出し、一ノ目潟下マントルが成層構造をしていると主張した(Sato & Ozawa, 2019 Amer. Min.)。以上を踏まえ本研究では、捕獲岩の由来深度推定に基づいて、捕獲岩がマグマに取り込まれてから地表にもたらされるまでの上昇過程において、捕獲岩に生じた影響について議論する。
カンラン岩捕獲岩を対象に、主要構成鉱物の組成累帯構造へ拡散モデルを適用することにより、拡散時間を推定した。それぞれ、①カンラン石と直方輝石の縁にみられる水が減少する累帯構造(<200μm; 図a)から脱水の時間スケールを、②単斜輝石と接する界面までカンラン石のCaが増加する累帯構造(<100μm; 図b)を用いてマグマ輸送による加熱の時間スケールを推定し、両者を比較した。前者についてはSato et al. (2023EPSL)に詳報がある。①捕獲岩10試料に含まれるカンラン石と直方輝石における水の累帯構造を、FTIRおよびSIMSを用いた線・面分析によって得た。カンラン岩に含まれる角閃石が分解していないことから、脱水の温度を1000℃と仮定して脱水時間を推定した。これに対し、②EPMAによる線分析により、捕獲岩9試料について、単斜輝石と接するカンラン石の縁におけるCaの累帯構造を得た。更に、単斜輝石からのCaの二次蛍光X線効果(Dalton & Lane, 1996)を補正した。以上を用いて、一ノ目潟の初生マグマの化学組成(Sakuyama & Koyaguchi, 1984)からマグマの加熱の温度を1200℃と仮定して加熱時間を推定した。
水の累帯構造から推定した捕獲岩の脱水は、誤差を考慮しても1分から48分という極めて短い時間スケールで起きたことが推定された。また、推定された捕獲岩の脱水時間と由来深度との間に相関は認められなかった。一方、カンラン石のCa累帯構造から推定した加熱は、1日から68日という幅のある時間スケールで生じたことが推定された。捕獲岩の平均上昇速度は0.013 ± 0.004 m/secと推定されたが(図cd中の灰破線)、これはマグマの粘性から推定したアルカリ玄武岩についての値(Spera, 1984)と整合的である。加熱時間と由来深度は非線形な正相関を示し、深部由来の捕獲岩ほどゆっくりと上昇することが示唆されたが、この時、捕獲岩の上昇率は線形な深さ依存性を考慮して、v(m/sec) = -7.3±1.7×10-4 d(km) + 3.9±0.7×10-2という関係式で最も良く再現される(図cd中の黒実線)。上記の式で上昇率(v)が0になる深度(d)は~53kmであるが、これは捕獲岩の最も深い由来深度推定値(~55km)と一致する。
以上より、(1)一ノ目潟のカンラン岩捕獲岩は、深さ~55kmのマントルから地表までダイレクトに上昇してきたこと、マグマ輸送を開始してから徐々に上昇速度を増していき、浅部由来の捕獲岩では数日、深部由来の捕獲岩では数十日ほどで噴出に至ったことが示唆された。また、(2)捕獲岩の内側を構成する鉱物の脱水は、地上付近の浅部において極めて短時間(数分から一時間未満)のうちに生じたが、これはマグマの脱ガスを生じるような低圧環境において、捕獲岩の粒界が開くことで脱水が開始したことを示唆する。
カンラン岩捕獲岩を対象に、主要構成鉱物の組成累帯構造へ拡散モデルを適用することにより、拡散時間を推定した。それぞれ、①カンラン石と直方輝石の縁にみられる水が減少する累帯構造(<200μm; 図a)から脱水の時間スケールを、②単斜輝石と接する界面までカンラン石のCaが増加する累帯構造(<100μm; 図b)を用いてマグマ輸送による加熱の時間スケールを推定し、両者を比較した。前者についてはSato et al. (2023EPSL)に詳報がある。①捕獲岩10試料に含まれるカンラン石と直方輝石における水の累帯構造を、FTIRおよびSIMSを用いた線・面分析によって得た。カンラン岩に含まれる角閃石が分解していないことから、脱水の温度を1000℃と仮定して脱水時間を推定した。これに対し、②EPMAによる線分析により、捕獲岩9試料について、単斜輝石と接するカンラン石の縁におけるCaの累帯構造を得た。更に、単斜輝石からのCaの二次蛍光X線効果(Dalton & Lane, 1996)を補正した。以上を用いて、一ノ目潟の初生マグマの化学組成(Sakuyama & Koyaguchi, 1984)からマグマの加熱の温度を1200℃と仮定して加熱時間を推定した。
水の累帯構造から推定した捕獲岩の脱水は、誤差を考慮しても1分から48分という極めて短い時間スケールで起きたことが推定された。また、推定された捕獲岩の脱水時間と由来深度との間に相関は認められなかった。一方、カンラン石のCa累帯構造から推定した加熱は、1日から68日という幅のある時間スケールで生じたことが推定された。捕獲岩の平均上昇速度は0.013 ± 0.004 m/secと推定されたが(図cd中の灰破線)、これはマグマの粘性から推定したアルカリ玄武岩についての値(Spera, 1984)と整合的である。加熱時間と由来深度は非線形な正相関を示し、深部由来の捕獲岩ほどゆっくりと上昇することが示唆されたが、この時、捕獲岩の上昇率は線形な深さ依存性を考慮して、v(m/sec) = -7.3±1.7×10-4 d(km) + 3.9±0.7×10-2という関係式で最も良く再現される(図cd中の黒実線)。上記の式で上昇率(v)が0になる深度(d)は~53kmであるが、これは捕獲岩の最も深い由来深度推定値(~55km)と一致する。
以上より、(1)一ノ目潟のカンラン岩捕獲岩は、深さ~55kmのマントルから地表までダイレクトに上昇してきたこと、マグマ輸送を開始してから徐々に上昇速度を増していき、浅部由来の捕獲岩では数日、深部由来の捕獲岩では数十日ほどで噴出に至ったことが示唆された。また、(2)捕獲岩の内側を構成する鉱物の脱水は、地上付近の浅部において極めて短時間(数分から一時間未満)のうちに生じたが、これはマグマの脱ガスを生じるような低圧環境において、捕獲岩の粒界が開くことで脱水が開始したことを示唆する。