9:30 AM - 9:45 AM
[S1-03] Textural and chemical changes of alkali feldspar during disequilibrium melting of granite
Keywords:Alkali feldspar, Disequilibrium melting
マグマに取り込まれたゼノリスは急速に加熱され、非平衡な状態で溶融が進む。こうした非平衡溶融は、条件が揃えばマグマ溜まりの壁岩でも生じうる。岩石の非平衡溶融を理解するためには、メルト内の元素拡散だけでなく、鉱物―メルト界面で起こる現象を鉱物種ごとに理解することが不可欠である。本発表では、部分溶融を経験した花崗岩ゼノリスと、細粒花崗岩を用いた非平衡溶融実験の観察・解析から得られた、アルカリ長石の溶解に関する知見を報告する。研究に用いたゼノリスは、瀬戸内安山岩にとりこまれた花崗岩・花崗閃緑岩であり、新鮮なガラスが鉱物粒間に沿って分布するのが特徴である。一方、非平衡溶融実験にはアプライト質の細粒花崗岩を用いた。金カプセル内に円柱状に成形した岩石と蒸留水を封入し、50 MPa、H2O飽和条件の下で、温度(800℃から1000℃)と時間(最長86時間)を変えて実験を行った。ゼノリスと実験に用いた出発物質はともに、ノルム石英(Qz)–正長石(Or)–曹長石(Ab)三角図においてgranite minimumに近い全岩化学組成をもつ。また、ゼノリスと実験生成物に見られるガラスの組成は、ノルムQz–Or–Ab三角図で同一のトレンド上にのる。AlとSiの遅い拡散速度を反映して、これらの酸化物濃度でガラスの組成幅が大きい。石英近傍のメルトはSiに富む一方、長石や苦鉄質鉱物近傍のメルトはAlに富んでいる。以下には、アルカリ長石について得られた2つの知見をまとめる。
【離溶組織の有無で鉱物溶解過程、岩石中のメルト分布が変化する】 実験に用いた細粒花崗岩には、アルカリ長石にパッチ状パーサイトが発達している。一方、ゼノリス中のアルカリ長石には、とけのこり部分でもパーサイト構造は認められない。こうしたパーサイト構造の有無によって、アルカリ長石の溶解様式が異なることが明らかとなった。実験生成物のアルカリ長石を観察すると、パーサイト構造を作るOr-rich zoneとAb-rich zoneの境界でメルトが発生し、特にAb-rich zoneでメルトとの反応が進み長石組成が改変されていた。また、高温の実験ではAb-rich zoneが完全にメルト化し、残存するOr-rich zoneが次第に消失する様子が確認できた。このように、パーサイトアルカリ長石は結晶内部からも溶解が進むと考えられる。一方、パーサイト構造を示さないゼノリス中のアルカリ長石では、結晶表面だけから溶解が進行している。これらのことから、離溶組織の有無によって、鉱物の溶解速度(たとえば結晶量の時間変化)に違いが生じることが示唆される。 パーサイト構造の有無は、さらにメルトの分布にも違いをもたらす。鉱物の3重点のほか、2種の鉱物間(石英―斜長石、石英―アルカリ長石、斜長石―アルカリ長石など)の粒界に沿ってメルトバンドが網目状に分布する様子が、ゼノリス・実験生成物ともに観察される。しかし、高温長時間条件(1000℃、24–86時間)の実験生成物では、残存する石英と斜長石の粒界に網目状のメルトが分布するだけでなく、アルカリ長石の効率的な溶解・消滅でできたと考えられる大きなメルト領域が点在することが明らかとなった。離溶組織をもつ鉱物の効率的な消滅によりメルト分布に不均質が生まれることで、メルトー粒子混合相の物性にも影響を与えるかもしれない。
【界面メルト組成がCotectic surfaceを横切ることで生じる長石の変化】 ゼノリスに含まれるアルカリ長石には、溶解析出過程で生じたふるい状組織が結晶内部に向かって発達する。ふるい状組織は反応によって生じた新しい組成の長石と、それを埋めるメルトから構成される。ふるい状組織を示すアルカリ長石は、灰長石(An)–Ab–Or組成三角図において、湾曲した組成変化トレンドを示す。その組成変化は、とけ残り部分が示すOr60%程度のサニディン領域に始まり、反応で生じた長石が示すOr40%からAn30%程度のアンデシン領域に至る。この大きな組成変化は1つの粒子内でも見られ、溶解反応が進行するとともにOr値が減少し、An値が大きくなったと解釈できる。この組成変化は一見すると、ソルバス上の長石組成変化に思える。しかし実際は、アルカリ長石近傍のメルト組成(または反応領域の局所バルク組成)が、ノルムQz–Or–Ab–An四面体内のアルカリ長石―斜長石cotectic surfaceを横切るように変化したことが原因であると考えられる。Cotectic surfaceを横切るために必要なCaは、アルカリ長石に隣接した含Ca鉱物(斜長石、普通角閃石)の鉱物溶解で供給される場合が考えられる。また、岩石がノルムAnに富むほどメルトのCa濃度が高くなることから、アルカリ長石―メルト反応で斜長石が作られやすくなると予想される。
【離溶組織の有無で鉱物溶解過程、岩石中のメルト分布が変化する】 実験に用いた細粒花崗岩には、アルカリ長石にパッチ状パーサイトが発達している。一方、ゼノリス中のアルカリ長石には、とけのこり部分でもパーサイト構造は認められない。こうしたパーサイト構造の有無によって、アルカリ長石の溶解様式が異なることが明らかとなった。実験生成物のアルカリ長石を観察すると、パーサイト構造を作るOr-rich zoneとAb-rich zoneの境界でメルトが発生し、特にAb-rich zoneでメルトとの反応が進み長石組成が改変されていた。また、高温の実験ではAb-rich zoneが完全にメルト化し、残存するOr-rich zoneが次第に消失する様子が確認できた。このように、パーサイトアルカリ長石は結晶内部からも溶解が進むと考えられる。一方、パーサイト構造を示さないゼノリス中のアルカリ長石では、結晶表面だけから溶解が進行している。これらのことから、離溶組織の有無によって、鉱物の溶解速度(たとえば結晶量の時間変化)に違いが生じることが示唆される。 パーサイト構造の有無は、さらにメルトの分布にも違いをもたらす。鉱物の3重点のほか、2種の鉱物間(石英―斜長石、石英―アルカリ長石、斜長石―アルカリ長石など)の粒界に沿ってメルトバンドが網目状に分布する様子が、ゼノリス・実験生成物ともに観察される。しかし、高温長時間条件(1000℃、24–86時間)の実験生成物では、残存する石英と斜長石の粒界に網目状のメルトが分布するだけでなく、アルカリ長石の効率的な溶解・消滅でできたと考えられる大きなメルト領域が点在することが明らかとなった。離溶組織をもつ鉱物の効率的な消滅によりメルト分布に不均質が生まれることで、メルトー粒子混合相の物性にも影響を与えるかもしれない。
【界面メルト組成がCotectic surfaceを横切ることで生じる長石の変化】 ゼノリスに含まれるアルカリ長石には、溶解析出過程で生じたふるい状組織が結晶内部に向かって発達する。ふるい状組織は反応によって生じた新しい組成の長石と、それを埋めるメルトから構成される。ふるい状組織を示すアルカリ長石は、灰長石(An)–Ab–Or組成三角図において、湾曲した組成変化トレンドを示す。その組成変化は、とけ残り部分が示すOr60%程度のサニディン領域に始まり、反応で生じた長石が示すOr40%からAn30%程度のアンデシン領域に至る。この大きな組成変化は1つの粒子内でも見られ、溶解反応が進行するとともにOr値が減少し、An値が大きくなったと解釈できる。この組成変化は一見すると、ソルバス上の長石組成変化に思える。しかし実際は、アルカリ長石近傍のメルト組成(または反応領域の局所バルク組成)が、ノルムQz–Or–Ab–An四面体内のアルカリ長石―斜長石cotectic surfaceを横切るように変化したことが原因であると考えられる。Cotectic surfaceを横切るために必要なCaは、アルカリ長石に隣接した含Ca鉱物(斜長石、普通角閃石)の鉱物溶解で供給される場合が考えられる。また、岩石がノルムAnに富むほどメルトのCa濃度が高くなることから、アルカリ長石―メルト反応で斜長石が作られやすくなると予想される。