一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2023年9月14日(木) 14:00 〜 16:30 821 (杉本キャンパス)

座長:土屋 範芳

14:35 〜 14:50

[S2-03] ウォラストナイトとカンラン石および玄武岩の天然キレート剤による溶解挙動の特徴と促進効果

「発表賞エントリー」

*菊池 星南1、王 佳婕1、土屋 範芳1 (1. 東北大・環境科学)

キーワード:有機酸、キレート剤、鉱物溶解

鉱物の溶解過程は、土壌の肥沃度、貯留層の空隙率、鉱床の形成、地球規模の炭素循環など、多くの地球化学的特性や現象に寄与している。近年、CaやMgを含むケイ酸塩鉱物の溶解は、大気中のCO2削減・貯留に寄与するとして注目されている。本研究グループも含め、人工キレート剤(GLDA、HEDTAなど)を用いて2価の陽イオンを抽出することでケイ酸塩鉱物の溶解を促進することが提案されている。天然では、このようなキレート能力を有する有機物が生物から豊富に分泌され、鉱物の溶解促進に重要な役割を果たすと考えられている。本研究は、有機酸を用いた室内実験によりケイ酸塩鉱物の溶解において天然キレート剤の促進効果がもたらす可能性について検証することである。  ウォラストナイト(MgSiO3) 、カンラン石[(Mg0.91Fe0.09)2SiO4]および玄武岩の粉末とアミノ酸を含む13種類の有機酸溶液を用いて、室温(~20 ℃)常圧で溶解実験を行った。pH 8.0でシュウ酸以外の有機酸がそれぞれ鉱物からの金属の抽出を促進した。ウォラストナイトからのCa抽出は、最も抽出量が多かった有機酸の水溶液中では水中と比較して35倍に増加した。また、かんらん石のMgやFe、玄武岩のMg、Ca、Feにおいても、有機酸により選択的に抽出された。次に、有機酸による鉱物溶解の促進作用の環境影響を評価するために、pHと温度における比較実験を行った。pH 4.0~10.0では、有機酸による岩石から金属イオンを抽出する量は弱酸性で大きくなった。pH 10.0では、促進作用は見られず抽出量は純水と変わらなかった。興味深いことに、天然キレート剤を含む環境では、pHの影響が非常に大きい。pH4.0の純水では、pH 8.0より、ウォラストナイトの溶解は2.6倍促進されたが、キレート剤の溶液では12倍促進される。この結果、キレート剤を使用する場合と使用しない場合では、pHに対するミネラルの溶解度のトレンドが異なる。また、天然のキレート剤が存在する場合、20℃から60℃の範囲では、鉱物の溶解に対する温度の影響は小さい。しかし、20℃におけるCaの抽出量が60℃とほぼ変わらないため、温度上昇におけるCaの抽出量について純水の二次関数的変化に対して、有機酸では緩やかな一次関数的変化となり、通常の鉱物溶解とは異なる溶解挙動を示した。そして、これらの天然キレート剤による鉱物溶解は、水溶液中の炭酸イオンの溶解度にも影響した。pH 8.0で有機酸を用いた水溶液の場合、反応後の溶存している炭酸イオンの濃度が純水と比較して22倍多くなっていた。これは、有機酸の鉱物溶解促進が炭酸イオンの溶解度変化に影響したことが考えられ、有機酸がCO2回収への利用可能性もある。 これらの発見は、天然キレート剤を用いた鉱物の促進溶解を大気中のCO2削減と、地球化学の分野にも重要な貢献が期待されている。